[事実関係]
不動産販売を業とする法人は、社外の者に架空の土地造成工事に関する見積書及び請求書を提出させ、これらの書面を使用して2事業年度で2億8,464万2,200円の架空造成費を計上して原価の計算を行い、損金の額に参入して法人税法の確定申告を行い、見積工事の仕入先に手数料料1,900万円を支払った。
裁判所は、架空の経費を計上して所得を隠匿することは、事実に反する会計処理であり、公正会計基準に照らして否定されるべきところ、右手数料は、架空の経費を計上するという会計処理に協力したことによる対価として支出されたものであって、公正処理基準に反する処理により法人税を免れるための費用というべきであるから、このような支出を費用又は損失として損金の額に算入する会計処理もまた、公正処理基準に従ったものであるということはできないと解するのが相当であるとする(最判平成6年9月16日)。
[解説]
高裁判決は法人税法違反の損金算入を禁じる法律の明文の規定がなことから、損金の算入を肯認することは法人税の自己否定であるというが、法人税法22条という明文の規定がある。条文の解釈による条文に包摂される、実体が、土台となる経済がないのである。
造成費の名目で支払った金銭を土台に計算した原価につき、造成費名目で支払った金銭の土台となる工事が行われていなかった、すなわち工事による役務提供への現金投下という経済関係という土台、棚卸の完成引渡しによる現金留保の土台が存在していなかったのであるから、原価、原価の土台となる棚卸商品を所得計算する上で否認するということとなる。
手数料の土台は、計上された収益、それを土台とした原価であるから、原価に経済土台がないということは、手数料も経済土台がない。
法人の金銭の支出がなく、支出先とした者が経済利益を受け取っていないというのではなく、法人の現金という純資産は減少している。
しかし、経済土台のない現金の支出ということであれば、法人資本家が投資した現金を役員が自身の経済関係に基づいて使用することはできないのであるから、資本家への利益配当ということになるであろう。
現金は無記名であるから資本家個人名目の現金を減らさないことに成功したのであって、資本家の利得である。平成18年度税制改正により、法人税法55条(不正行為等に係る費用等の損金不算入)の規定が創設されたが、現行法においても、当該裁判の基となった取引当時においても、架空経費計上により脱税の原因となった現金の支出については、パブリックポリシー(公序の理論)だとかクリーンハンドの原則を持ち出すことは、課税所得の計算をすることの土台にはなりえないであろう。