[事実関係]

請求人及び請求人の兄は、共同で医院を営む者であったが、平成10年3月20日医療法人を設立し、4月30日に従前の事業を廃止し、5月1日から事業を開始したとした。

請求人らが提出した平成10年分の所得税の青色の確定申告書には、持分が1/2とする損益計算書が添付され、必要経費欄には退職金69,885,470円を記載したところ、税務署長の名で更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分が行われた。

審判所は、

「原処分庁は、本件退職金支給規定は、法人成りによる雇用関係が終了し、退職した場合について退職金を支給する旨は定められておらず、また、本件労使協定書により、従業員の有する全ての権利義務が医療法人に承継されているのであるから、従業員の有する退職金支払請求権は、医療法人に引き継がれた後の退職金支給決定による支給要件、または、支給事由が生じたときに初めて発生すると解すべきであり、そうすると、本件退職金について支払債務が成立していたとは言えず、債務が確定していないから、所得税法37条の規定により必要経費に算入できない旨主張する。

従業員に対する退職金の支払債務及びこれに対応する従業員の退職金の支払請求権は、雇用契約の終了、すなわち、退職の事実が生じたことにより当然に発生するというものではなく、予め、労働協約、就業規則等でそれを支給すること及びその支給基準が定められているか、あるいは、少なくとも明確な支給条件に従った支給慣行がある場合に発生すると解するのが相当である。

けだし、退職金は、過去の継続的な勤務に対する報償ないし、その間の労務対価の一部の後払いの性質を有する給与であるところ、その支給額は、(本件退職給与支給規定の記載がそうであるように)退職時のいわゆる基本給与月額に勤続年数に応じた支給倍率を乗じて算出され、しかも、基本給与月額並びに支給倍率は、勤務年数の経過につれて上昇することが一般的であることから、結果的に、退職金の金額は、勤務年数に応じて弓形曲線上に逓増することになる。

仮に、このような一般的な退職給与規定を有する個人事業主の法人が法人成りした場合に、その時点で退職金を支給するとすれば、従業員は、事業主の法人成りという一方的な都合によって、従業員にとって勤務先や職務内容に実質的な変化がないにもかかわらず、法人成りがなかった場合に比して、全勤務期間を通ずる退職金額につき、不利益を被る結果となる。

このため、本件のように退職金支給規定の支払事由に法人成りが明示されていない場合で、法人成りに伴って退職金を支給するためには、労使における事前の協議が特に強く求められることは論を待たないところであり、また、その旨を従業員へ周知することがその時点における請求人の従業員に対する退職金の支払債務及びそれに対応する従業員の退職金支払請求権の発生に必要なものとなる。

これを本件についてみると、定例会議において本件退職金を支払する旨の話があったこと、定例議会には、各部門の責任者が出席し、会議の内容を他の従業員に伝達していたこと及び本件労使協定書が食堂に掲示され、従業員がいつでも読める状況であったことが認められ、本件退職金を支給すること及び本件労使協定書の内容について従業員へは周知がなされていたと認められる。

そうすると。法人成りにするに当たり、労使において事前の協議が整い、従業員にその協議内容を周知し、従業員の了解の下に、退職所得申告書の提出を受けたと認められることから、平成10年4月30日において、請求人の従業員に対する本件退職金の支払債務は成立していたと判断するのが相当である。

原処分庁は、本件退職金は、預かり金処理されているが、実質的に未払金であり、しかも、長期間これを支払わずに放置することは、経済的に見て不合理であり、このことは、本件退職金の債務が確定していないことの証左である旨主張する。

ところで、法人成りの場合、個人事業主と法人とは別個の独立した法人格を有し、法人成りの前後で経営主体及び納税主体が法的に異なるものであるから、使用人に対する退職金給与が個人事業主と法人のどちらの収入又は収益を得るために必要な経費であったといえるかという見地から、個人経営時の在職期間に対応する退職給与は個人事業主の事業所得の必要経費に、法人経営時の在職期間に対応する退職給与は、法人の損金とすべきであり、これは個人経営時の在職期間に対応する分が未払退職給与として法人に引き継がれているという事情によっても左右されない。

すなわち、法人成りの際の事業の引き継ぎは、法律関係についてみると、

①個人事業主の側からすると。個人事業主に対し今後の営業活動に必要な事業資産及び財産を、金銭、医療未収金等の債権及び財産を出資するのであるが、法人が使用人に対する未払退職金等個人事業主の事業上の債務を引き継ぐ場合には、その分を差し引いて支払ったのと同様の経済効果を受けるので、その分、個人事業主の事業所得の計算上必要経費とみるべき実質があり、

他方、②法人の側からすると出資された正の資産及び財産の額から引き継がれた負の財産(債務)を差し引いた額が資本の持分に変わっただけであり、出資された資産及び財産の額が収益とされない(従って法人の所得としては課税されない。)のと同様引継いだ債務を支払ったとしても法人の損金とはならないものである。

これを本件についてみると、本件退職金は、債務が成立しており、所得税法37条に規定する確定債務として、従業員各人別に金額が明確にされて、今後の営業活動及び必要な事業資産と共に、医療法人に引き継がれ、法人成り後に医療法人を退職した従業員に対しては法人成り後の退職金支給規定に基づいて退職金が適正に支払われており、また、法人の勤務期間に係る退職金の部分のみ法人の損金にする経理処理がされているのであるから、原処分庁が主張する経済取引としての合理性を欠くということまではいえない」とした。

(国税不服審判所平成13年10月17日裁決)

[解説]

国際金融資本は、労働を疎外して、労働力が価値の備わっていない、商品の引換券による返済と商品引換券の評価を待たされ、労働力の再生産を余儀なくされ、労働の評価は国際金融資本によって労働者に前貸しされ、国際金融資本に貸し出しをフィクションされる。

労働力は既に労働を提供しているわけであるから、国際金融資本は、労働力が請求をしなくても、慣行の有るなしに関わりなく、疎外した労働の評価を支払う義務がある。

しかしながら、疎外された労働の評価は労働力商品に転嫁されることなく利潤に転嫁され、引換に得た商品に価値が付された後に、労働力商品と引換に支払われた商品に価値が付与される。

労働の提供が済んだ段階で、労働が一旦停止されるまでに、労働力に経済上支払われる商品の価値が付与されていなければならず、未払給与が実現する。

しかし、未払給与の支給とその評価は待たされ、労働の評価は疎外されて、支給された商品は現実には労働力商品についてのもので、支給された商品に付された価値は労働に付された価値ではない。

退職の段階では、労働の提供が既にあった分については、経済関係上、未払退職給与が実現する。資本は、退職する労働力に未払退職金を支払う義務がある。

新たな契約又は既存の契約の変更という法律行為を手段に退職給与の支払義務を実体化させているのであるから、労働者の知っているか否か、了解という実体のない観念は、退職給与支払の実体化の要件とはならないであろう。

当該会社組織ではない経済実体は、会社組織ではない個別の経済実体が疎外した労働の評価を借りて、債券をフィクションして、法人の出資設立をフィクションし登記により実体化させた。

法人に未払退職給与の債務を引渡し、その代物弁済を、会社資本が、会社設立前に労働力に貸出していた資産を引き渡すことによって行うこととなり、労働の疎外を土台にした資産に価値属性を付し、労働力との間に資本関係をフィクションすることとなり、登記によって実体化させるということになるのである。

労働が疎外されたのは、会社設立前の経済実体と会社の資本のどちらにフィクションされた資本関係を源泉と評価されるのか(両者が各々国際金融資本から借入をフィクションされていれば労働を疎外しているのは会社設立の前後とも国際金融資本で、会社設立前後を通じ、会社資本でない経済実体と会社資本の利潤の過程をフィクションした資本関係を源泉に労働の疎外を土台とした利潤をコントロールし、労働力は、会社資本でない経済実体と会社資本のいずれを通じて貸し出しがフィクションされ労働を疎外されたのか)によりどちらの経費になるのかが確定される。

法人成りの前においては、退職給与という経済上の義務の履行という実体すなわち存在がなく、義務の履行が遅らされ、財産と引換に得た商品に価値を付して貸し出し、労働力の再生産という疎外労働を余儀なくされているから、既に労働の提供が完了しながら、労働の評価は疎外され、国際金融資本によって労働力への貸し出しがフィクションされ、労働力に損失を実現させている以上、労働力に支払をして疎外した労働の評価に利潤を付加しなければならない。

支払がないことについての評価は、労働が疎外された段階では、資本の利潤の評価は確定したが、労働力に労働力商品としての利潤の評価が確定していないのであるから、支払をする経済実体の側に必要経費を建てるのは困難であるとされる。未払退職金の評価は実体のない観念であると評価されるからである。支払をするしないは、自然によるのではなく、フィクションされた資本関係を源泉に労働の疎外を土台に決められるのである。

その場合には、会社に損金が建って、会社設立前の経済実体が、会社の資本に弁済をし、会社設立前の経済実体が、会社に出資をフィクションしているのであれば、フィクションした経済実体を土台に、労働の疎外を土台とした会社の利潤をコントロールし債務を免れることにより利潤の分配を受けたと評価されるから、経済上は、役員賞与ではなく、利益配当であり、実定法上は、寄附金ということになるであろう。

法人仕訳

(借)未払退職金  (貸)過年度損益修正益

(借)貸付金  (貸)現金

(借)退職給与  (貸)未払金

(借)寄附金  (貸)貸付金

未払退職金勘定の引継ぎがない場合

(借)退職給与  (貸)未払金

(借)貸付金   (貸)未収収益

(借)寄附金   (貸)貸付金

未払退職給与の支給が待たされていることについて、架空の商品と交換してそれにいかなる評価を付すのかによって所得税法上の必要経費となるのか法人の損金となるのかが規定されると解せられる。

[関連条文]

(所得税法37条)

その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額の内、第35条3項(公的年金等の定義に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上、必要経費にすべき金額は、別段の定めがあるものを除きこれを所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費・一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。

(法人税基本通達9-2-39)

個人事業を引き継いで設立された法人が個人事業当時から引き続き在職する使用人の退職により退職給与を支給した場合において、その退職が設立後相当期間経過後に行われたものであるときは、その支給した退職給与の額を損金の額に算入する。

(法基通9-2-9)

法第34条第4項(役員給与)及び第36条(過大な使用人給与の損金算入)に規定する「債務の免除による利益その他の経済的な利益」とは、次に掲げるもののように、法人がこれらの行為をしたことにより、実質的にその役員等(役員及び同条に規定する特殊の関係にある使用人をいう。以下9-2-10まで同じ)に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすもの(明らかに株主等の地位に基づいて取得したと認められるもの及び病気見舞、災害見舞等のような純然たる贈与と認められるものを除く。)をいう。

(1)役員等に対して物品その他の資産を贈与した場合におけるその資産の価額に相当する金額

(2)役員等に対して所有資産を低い価額で譲渡した場合におけるその資産の価額と譲渡価額との差額に相当する金額

(3)役員等から高い価額で資産を買い入れた場合におけるその資産の価額と譲渡価額の差額に相当する金額

(4)役員等に対して有する債権を放棄し又は免除した場合(貸倒れに該当する場合を除く。)におけるその放棄し又は免除した債権に相当する金額

(5)役員等から債務を無償で引き受けた場合におけるその引き受けた債務の額に相当する金額

(6)役員等に対してその居住の用に供する土地又は家屋を無償又は低い価額で提供した場合における通常取得すべき賃貸料の額と実際に徴収した賃貸料との差額に相当する金額

(7)役員等に対して金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸し付けた場合における通常取得すべき利率により計算した利息と実際徴収した利息の額との差額に相当する金額

(8)役員等に対して無償又は低い対価で(6)及び(7)に掲げるもの以外の用益の提供をした場合における通常その用益の対価として収受すべき金額と実際に収入した対価の額との差額に相当する金額

(9)役員等に対して機密費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの

(10)役員のために個人的費用を負担した場合におけるその費用の負担額に相当する金額

(11)役員等が社交団体等が会員となるため又は会員となっているために要する費用で、当該役員等の負担すべきものを負担した場合におけるその負担した費用に相当する金額

(12)法人が役員等を被保険者及び保険金受取人とする生命保険契約を締結してその保険料の額の全部又は一部を負担した場合におけるその負担した保険料の額に相当する金額

(法人税法37条)

七 前各項に規定する寄附金の額は、寄付金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人の金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の額における価額又は当該経済的な利益のその供与時における価額によるものとする。

八 内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供用の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又当該経済的な利益の供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額の内、実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

(所得税法34条)

一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得の内、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものを言う。

(コメント)

目的は、実体のない観念であるから、ここでいう営利目的は、労働力商品を直接購入し、資産を労働力に貸し付けたことをフィクションし、労働を疎外して、実体化させたものでなければならないと解される。

労働力商品を直接購入することなく、労働を疎外していることを土台に得た利潤は一時所得に該当すると解される。

性質は、予め備わっていないから、労働を疎外することを土台に利潤と引き換えられた商品に付された価値のことである。