国税不服審判所平成18年11月28日裁決

事実関係

審査請求人(以下「請求人」という。)の法人税について、請求人は、代表者の取締役辞任に際し支給した役員退職金を損金の額に算入して確定申告したところ、原処分庁が退職の事実は認められないから、当該退職金は役員賞与に該当し損金の額に算入されないとして更正処分等を行ったことにつき、請求人が退職の実体はあり、その認定に誤りがあるとして、その全部の取消しを求めた。

請求人は、販売業を営む法人税法第2条第10号に規定する同族会社である。

平成13年ころ、前代表取締役Aの独断的な言動等が目立つようになり、B、C及びDと対立することが多くなったことから、B,C,Dは、Aを請求人の代表取締役から退任させることとした。

なお、その当時、B,C,D及び同人らの配偶者は、請求人の発行済み株式総数の63.3%の株式を取得していた。

請求人の平成14年10月17日現在における取締役は、A(代表取締役社長)、代表取締役専務、取締役会長、取締役常務及び取締役である。

平成14年10月17日の臨時株主総会において、Aが同月31日付で請求人の取締役を辞任すること及び同人に対して退職慰労金を支給
することが承認された。
         
さらに、平成14年10月17日の取締役会において、当該退職慰労金の額が決定された。

請求人は、本件辞任後の平成14年11月以後、Aに対して、代表取締役退任時の報酬月額の半額を月月支給しており、その額は、C、Dの報酬月額に次ぐ金額となった。

Aは、人事、営業、会計等のすべての重要事項を管理、決定しており、その業務について、の各取締役や総務部長などと協議を行うことはあったが、Aに意見を求めることはなかった。
         
Aは、本件辞任前にAは、総務部長の新設を提案し、その人事を決定しているが、総務部長職の新設等について、Aに意見を求めることはなかった。
また、その後の使用人の給与等に関する査定についても、A又はDが取締役会に諮った上決定していた。

Aは、平成14年1月ころから営業に関する業務について関与することは差し止められており、本件辞任後は会計及び営業等に係る事項について決裁することはなかった。

本件各議事録には、その開催日時、開催場所、株主総数(取締役総数)、出席株主総数(出席取締役総数)及び議決結果等の記載があり、その末尾に代表取締役及び出席取締役の氏名が印字され、各氏名の横にそれぞれ押印がある。なお、当該出席取締役には、Aの氏名の印字及び押印がある。

裁判所は、下記のように判示した。

みなし役員とは、相談役、顧問その他これらに類する者でその法人内における地位、その行う職務等からみて他の役員と同様に実質的に法人
の経営に従事しているものをいい、さらに、法人の経営に従事するとは、法人の主要な業務執行の意思決定に参画していることをいうものと解するのが相当である。

また、Aは、本件辞任後において、①役職の新設や異動、給与査定など、人事上の決定に関与していないこと、②取引先の選定や新規契約など、営業上の決定に関与していないこと及び③設備等の取得や修繕など、会計上の決定に関与していないことから、経営に関する重要事項の意思決定に参画する機会を与えられていないものと認められる。

Aが本件辞任後も他の従業員給与をはるかに超える額の給与等の支給を月月受けているから取締役としての地位にある旨主張するが、上記認定事実からすると、Aに支給する金額の決定は、同人の行う職務内容等を基礎としてされたものとは認められず、単に代表取締役退任時の役員報酬の額の半額とする旨の合意に基づいてされたにすぎないから、その金額の多寡のみをもって直ちに同人が取締役としての地位にあるものと言うとはできない。

本件各営業所日誌及び本件各設備稟議書には、Aのサインがあるから、請求人の業務内容を管理監督している又は費用支出の可否を判断している旨主張するが、上記認定事実からすると、それらのサインは単にAが閲覧したことを示すにすぎず、その閲覧した本件各営業所日誌及び本件各設備稟議書の件数もごく僅かであり、同人がサインしていることをもって、直ちに同人が請求人の業務内容を管理監督している又は費用支出の可否を判断していると言うことはできない。

以上のことからすると、Aは、本件辞任により請求人の役員を退職したものと認めるのが相当であり、本件支給金は、役員退職給与と認められるから、本件支給金が役員賞与に該当し損金の額に算入されないとしてされた本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。

(平成18年11月18日裁決)

解説及び私見

裁判官は、前代表取締役が退任後も経営に参画しているか否かという面から退職給与に該当するか否かを論じている。

同族会社の役員は、株主をも兼ねている。

しかし、労働の評価がなされずに、金融資本に貸した金が、仕入先等他の経済実体の労働者を挟んで又はストレートに、金融資本から貸し出された金にされるというフィクションが行われたのであるから、そのプロセスに鑑みると、役員も、金融資本に雇われた労働者であるから、意思は介在しない。

経営に参加できるのは、株主と銀行資本に貸した金が借入金に転換されているのであれば金融資本である。

役員は、労働者であることをやめたのであるから、退職ではある。

従来の学説、裁判例に照らすと、退職金か賞与かという対立になると思われるが、私見では、その2つのみを2項対立させるのはどうかと思う。

裁判官は、Aの代表取締役退任後の報酬も合意があったとするが、合意があったかどうかは実体のない観念である。

経営に参画していないというのであれば、資本関係を源泉に、労働せずに給与という名目で現金の支給を受けているから、経済上は、労働者の労働の評価をしないで利潤の分配に参加し受けているということになる。

法人税法上は、寄附金、所得税法上は、一時所得と解されるであろう。