使用者は、労働者及び身元保証人に労働債務不履行や不法行為による損害賠償を負わせることができるか。

裁判例は、損害保険に加入していなかったこと、労働者の勤務成績から労働者に損害額の4分の1負担させることができるとするもの(最判昭和51年7月8日)、

使用者と労働者の経済格差から損害額の4分の1を労働者に負担させることができるとするもの(名古屋地判昭和62年7月27日)、車両整備、労働条件からして損害額の5%負担させることができるとするものがある(大阪高判平成13年4月11日)。

身元保証人の損害賠償の負担は、使用者の指揮監督、会社の管理体制から4割(水道料金徴収員の横領につき、仙台高裁平成4年4月17日、証券会社の歩合外交員が内金入金までは次の買い付けを行ってはならないという業務命令に反した事例として、東京高判平成4年3月23日)とするもの、

2割とするもの(運送代金の横領の事例として、神戸地判昭和61年9月19日)がある。

損害保険料は国際金融資本の借金である国債の返済させられているものであり、産業資本、保険会社の資本が損害賠償の支払いを免れているという現実があるから損害保険に加入していたことによって産業資本の賠償義務が軽減されるとすると国際金融資本が利得を得て、労働者が損害を負担する結果となる。

損害保険加入の有無が産業資本、国際金融資本の賠償義務を規定するとすることはできないであろう。

労働者の損害賠償負担を認めると、労働条件を不利益変更したにもかかわらず退職させないことの方便を与えること、労働者の退職による業務支障の逃げ口上を資本に与えること、有給休暇に出勤させることの方便を与えること、労働者のミスを未払給与から天引きすることの方便を与えてしまう。

労働者は資本、生産手段を持たない。

資本は、金融資本が金を貸してくれたから内部留保に価値を付与するができ、生活できているのではない。資本は、労働を疎外することによって利益を得ている以上、その損害賠償を労働者に負わせることはできないと考えなければならない。

労働者は労働条件について裁量が与えられていない。信義則や故意、悪意、公平という実体のない観念の問題ではないのだ。

損害の土台は、資本関係を土台に人員を増やさないこと、人件費を抑えたことによる労働条件を土台とする。

民法415条、民法715条にいう使用者が労働者に損害賠償の求償できる余地は残されていないと解さなければならない。

よって、資本が身元保証人に求償できる余地はないと解さなければならない。更に言えば、労働力商品を購入する段階において、資本関係を土台に身元保証人を採ることができるか否か、損害賠償の誓約書を書かせることについて、民法規定、身元保証人規定の解釈も問題にしなければらないであろう。

労働者と資本の経済格差からこの問題については身元保証書、誓約書を書かせることができないとの立場を採る。