[事実関係]

昭和62年9月1日に不動産法人たる原告は、Fとの間で、代金55億円で原告の所有する土地建物をFに譲渡する売買契約を締結した。本件不動産は抵当権付きのものであり、当該売買契約においては本件不動産の引渡しの時期は明示されず、また、売買に関する給付が段階的に複数回に分けて行われ、代金の支払については、62年9月1日に手付金5億円、同年9月11日に中間金10億円が支払われ、残額40億円は、昭和63年6月30日にF法人から抵当権者に代位弁済された。

原告が、本件取引につき、昭和63年7月1日から平成元年6月30日の事業年度に55億円の売上を計上したところ、税務署長は、昭和62年9月11日に本件不動産の現実の支配が移転したとして、一事業年度前に計上すべきものとして更正処分を行った。

裁判所は、

「本件不動産の売買においては、本件不動産が抵当権付きのものであり、F法人と原告の間に存する諸事情から売買契約において本件不動産の引渡しの時期は明示されず、売買に関する給付が段階的に複数回に分けて行われ、本件建物の賃貸借契約における賃貸人の地位の継承、公租公課の負担、危険負担の移転の時期等に関して通常と異なる約定がなされており、外形的に見ると引渡しがいつ行われ右売買による収益がいつ実現したかが明らかではないから、

代金の支払に関する約定の内容及び実際の支払状況、危険負担の移転時期、当該不動産から生ずる果実の収受権や当該不動産に係る経費の負担から売主から買主への移転時期、所有権の移転登記の時期等の取引に関する諸事情を考慮し、当該不動産の現実の支配がいつ移転したかを判断し、右現実の支配が移転した時期をもって当該不動産の引渡しがあったものと判断するのが相当であるところ、

昭和62年9月11日の時点では本件売買代金の27パーセントに相当する15億円しか支払われていないものの、Fと原告の間では、Fが本件不動産の代金額から抵当権の被担保債権額を差し引いた金額を支払ったことにより、本件不動産の現実の支配権をFに移転する合意があったと認めるのが相当である」とする(東京地判平成9年10月27日)。

[解説]

不動産販売法人は、資本関係から、不動産を購入せざるを得ず、金融資本家から投融資を受けざるを得ず、担保名目で、土地建物登記に抵当権が設定される。

不動産や架空資本は、人が支配するのではない。地位に基づいて支配するのではない。資本によって所有される。

合意によって資産の移転が規定されるのではない。金融資本家から借入をして、担保名目で当該不動産をとられた段階で、現実には、当該不動産は、金融資本の所有である。抵当権者たる金融資本家に弁済が完了しない限りは、所有は当該不動産の買主には移転しない。

当該不動産の売主は、資本関係から課された現金留保義務により、現金留保が確定し、売主買主は、労働を疎外することを余儀なくされ、現金留保を土台に所有権移転登記という法律行為により、経済上、法律上の実体関係が確定され社会に認めさせざるを得ない。

金融資本と全資本との資本関係により、所有する法人の収益は、法律上の実体関係が確定した段階でなく、現金留保が確定した段階で収益計上し、租税の支払いに応ずることをせざるを得なくなっている。現実の経済過程のとおりに帳簿に記載すると、原告法人の収益計上は、抵当権者に弁済を完了した段階で収益計上が行う義務があると解されるであろう。

判決は、外見から明らかではないからとするが、外見から見ることから始め外形から明らかであれば、現実の経済実体を見ないということであれば問題である。

通常という慣習、現象から見て異ならなければ現実の経済関係、経済過程を見ないということであれば問題である。

危険負担は実体がないから、瑕疵の負担義務、損害賠償義務の移転に至る過程が経済上、法律上の所有を規定する基礎の一つとなる。判決は、Fが被担保債権を差し引いた金額を支払ったことにより、支配権を移転する合意があったものとして合意によって所有の移転を規定してしまっている。