<p>[事実関係]</p>
<p> 東京都荒川区でプレス加工業を営んでいた被告は、昭和40年分の確定申告書を提出し、申告額に基づいて納税を行った。
昭和40年分の所得税確定申告について、税務署員が、質問検査に応じないと罰則がある旨を告げ、被告に質問し、帳簿書類の呈示を求めたが、被告は、刑法上の暴行に該当するほどではないが、税務職員の身体を押し、税務職員は調査の目的を告げることができず、被告は答弁、検査を拒んだ。被告は、質問についての不答弁と検査拒否により所得税242条8号に該当するとして起訴された。</p>
<p> 裁判所は、
「所得税法の前記規定の犯罪構成要件としての不明確性を主張して違憲(31条)をいう点は、後記において示すとおりであって、何ら明確を欠くものとはいえない。
所得税法234条1項の規定は、国税庁、国税局または税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、前記職権調査の一方法として、同条1項各号規定の者に対し質問し、またはその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行う権限を定め他趣旨であって、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、右にいう質問の必要があり、かつこれと相手方の私的利益との較量において社会通念上相当な程度にとどまる限り権限ある税務職員の合理的選択に委ねられているものと解すべく、暦年終了前または確定申告期間経過前といえども質問検査が法律上許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知のごときも、質問検査を行う上の法律上一律の要件とされているものではない。
そして、同法234条1項にいう納税義務のある者とは、既に法定の課税要件が充たされて客観的に所得税の納税義務が成立し、いまだ最終的に適正な税額の納付を終了していない者のほか、当該課税事業年が開始して課税の基礎となるべき収入の発生があり、これによって将来終局的に納税義務を負担するに至るべき者をいい、納税義務があると認められる者とは、前記権限のある税務職員の判断によって、右の意味での納税義務がある者に該当すると合理的に推認される者をいう」とした(最判昭和48年7月10日)。</p>
<p>[解説]</p>
<p> 現金留保の疎外と収奪という課税関係、課税過程に鑑みれば、実体のない調査の目的ではない、実体のあると規定した調査の理由を附記する義務がある。
金融資本家は、質問検査の土台となる確定申告書、売上、外注費をはじめとする資料箋や所有する金融機関を使用して使用人に所有法人の現金留保の実体についての資料を引き渡させる反面調査による資料があるわけであるから、所得税法上又は法人税法上の法人の現金留保過程についての問題点を摘出することができ、実体のない調査目的ではなく、調査の原因たる調査理由の確定ができるわけであり、課税関係、課税過程に鑑みれば、課税の土台が所得税法上又は法人税法上の法人の現金留保であることに鑑みると、金融資本家の資本関係、現金留保にのみ基づいた、実体のない現金留保に価値属性を与えて質問検査をすることができないし、現象にすぎない外観調査によってのみ調査を行うわせることはできないし、白色申告者であるという理由だけで調査を行うことはできず、法人の現金留保に関係のないイデオロギー上の、上層階にある理由に基づいて、恣意的に質問検査を行うことができない。
実体のない治安立法ではないということになる。実体がないということは経済上、現金留保の根拠がないということである。
実定法に定めのない細目については、租税が、金融資本家による反対給付のない、現金留保の疎外、収奪であるから、社会通念からではなく、現実の課税関係、課税過程から規定される。現金留保の疎外、収奪とその使途という課税関係からみれば、調査が必要か否かは客観的という観念からではなく、現実の経済上の事実関係から納税者の利益との較量により問題提起することで、断定することではない。
金融資本家との間に生産関係があり、税務行政機関には権限もなければ、選択を委ねられておらず、生産関係に基づいて、金融資本家と資本関係、現金留保義務に基づいて質問検査の必要が規定されている。
不答弁、質問検査に応ずる意思のあるなしといった実体のないものではなく、現実の行為があったか否かであり、納税者の経済過程が調査により現実により拘束されること、現実の課税関係、調査の過程と刑事手続に該当しないことから、答弁や検査を拒んだことをもって直ちに処罰されるというものではないと解される。 </p>