費用収益対応の原則は、企業会計上のそれと法人税の所得計算上のそれとでは、異なる。
法人の所得計算上のそれの方が厳しいものが要求される。
期間損益の誤りは税務行政の裁量で、指導事項で済む場合が全くないわけではないが、原価計算の誤りはまず、大目に見られるということはないといっていよい。
費用収益対応の原則とは、トータル的に見て、事業年度末日までに発生した仕入れと売上が洩れなく全て上がっていることをもって費用収益対応の原則といっているのではない。
当期の売上原価を構成している各取引先の取引一つ一つに対し、仕入勘定や製造原価として上がっている商品等一つ一つについて、原価に上がっている日々の外注費、人件費一社毎、一人毎、その日、その日の役務等について、それに対応する売上が当期中に建っているかどうかをチェックしていき、売上原価として計上するからには、当期中の原価勘定中の全取引、仕入れた全商品、製造した全製品に対し売上が建っていなければならない。
当期中に発生して、売上原価に計上されていても、例えば、納品(出荷)や、完成引渡し(竣工)、役務提供終了売上が当期中に終了せず、翌期に入ってからなされ、当期中に売上が建っていなければ、つまり翌期に売上が建っていれば、売上原価中、それらに対応する原価を抽出して棚卸資産として計上しなければならない。
棚卸資産を拾い出す方法としては、原価が発生した段階では、棚卸資産に計上しておき、出荷までを労働過程と解し、納品がある前、出荷まで毎に、労働が疎外されて利潤が確定し、商品と引き換えられた架空の商品の評価に対応する評価額を原価に振り替えていくという方法もある。
また、翌事業年度開始月の売上の内、売上金額が上位の売上(役務提供等の開始が当期と翌期を跨っているかに関係なく、つまり、開始が翌期に入ってからからのものも含めて)に対応する原価が、当期の(翌事業年度からみれば前期)原価に含まれていないかチェックすることで、大きな誤りは相当程度回避できる。
当期中に発生した棚卸資産として計上すべき金額を当期の売上に上げればよいのではないかとする考え方があるが、当該金額が少額であれば弊害は少ないかもしれないが、それが巨額であった場合、調査対象事業年度の最終年度に関しては、売上を前倒しにしたのは企業の責任すなわち自由意思としされて、消費税を過大に支払ったこと(当該金額に係る部分だけを取り上げてみれば、当該金額を棚卸資産として計上した場合の倍消費税を支払うこととなる。)をアピールしてもそれに応じてもらえないことがある。
消費税の課税売上割合や課税事業者の判定や簡易課税の適用の有無等にも影響を及ぼす。また、A社とB社から受注した仕事を、外注先C社に廻した場合で、A社とB社に納品したのが翌期に入ってからという場合、経理担当者がC社に対する外注費についてそれに対応する売上を確認するプロセスで、例えば、A社の翌期納品分を当期の売上として計上したとする。
そして、経理担当者がB社からも受注していたという事実を忘れていたり、納品したのが事業年度末日なのか、翌事業年度開始の日なのか指摘されるまで定かでなかったりした場合や経理担当者の交代による引継ぎや、営業と経理の連係がうまくいかなかったりして、B社からも受注していたことが伝わっておらず、B社については、翌期の売上として計上したとする。A社について、原則論として翌期の売上として計上すべきものを当期の売上としたことで、決算事務を行なう上で、費用収益の対応とチェックする作業において、外注先C社に対応する売上が既にきちんと計上されていると判断してしまい、売上と棚卸資産の金額を確定させてしまう。結果として、当社とA社との間の粗利は正しいものの、決算書上、B社納品分が棚卸計上洩れとなっていまうのである。したがって、棚卸資産として計上すべきものを収益計上するという処理はすべきではないのである。