東京高等裁判所は2017年2月23日,控訴人である沖縄の泡盛の酒造会社「比嘉酒造」が支給した役員給与12億7,000万円、役員退職給与6億7,000万円総額19億4,000万円の内、6億円が,過大か否かを巡り争われた事件につき,原審の東京地裁に続き,過大役員給与と認定し,比嘉酒造側の控訴を棄却した(平成28年(行コ)第205号)。比嘉酒造側は、最高裁に上告及び上告受理申立てを行った。
Contents
役員退職給与
退職給与の問題に関する論点は下記のとおりです。
退職給与については、東京地裁でのみ争われています。
実質的に退職したと同様の事情
比嘉酒造の役員給与、退職給与に関する裁決は、分掌変更が退職に相当するか否かについて言及しています。
また、分掌変更が退職に相当するかについては、別のところでも、判決が出されたばかりです。
X社(原告会社)は、A(X社の前代表取締役)の分掌変更(代表取締役を退任
し取締役に就任)に際し、Aに支給した退職給与(以下「本件金員」という。)を
損金の額に算入し、法人税の確定申告をした。2 Y(課税庁)は、X社の税務調査において、Aは分掌変更後も変更前と同様の職
務に従事しており、実質的に退職したとは認められないことから、本件金員を損金
の額に算入することはできないとして、修正申告の勧奨を行ったところ、X社から
修正申告がされた。3 その後、X社は、Aには月額報酬が約3分の1に激減する等、実質的に退職した
と同様の事情があり、本件金員は損金の額に算入されるとして、法人税の更正の請
求を行ったことに対し、Yが、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったこと
から、同処分を不服として、その取消しを求めた。Aは、代表取締役退任後も、
①経営について後任の代表取締役に対して指導と助言
を行い、引き続き相談役としてX社の経営判断に関与し、②X社の幹部が集まる会議に出席し、個別案件の経営判断にも影響を及ぼし得る地位にあり、
また、③X社の資金繰りに関する窓口役を務め、取引銀行から実権を有する役員と認識されていた。
以上の諸事情に鑑みると、A社は、代表取締役退任後も、X社の経営判断に関与し、
対内的にも対外的にもX社の経営上主要な地位を占めていたものと認められるから、
分掌変更によりAの業務の負担が軽減されたといえるとしても、役員としての地位
又は職務の内容が激変して、実質的には退職したと同様の事情にあったとは認められ
ない。平成29年1月12日判決(判決速報1416)
取引銀行側に実権が留保されている役員との認識があったかどうかは、実体のない観念ですが、従前と同じ労働をさせられていれが、
使用人(役員も経済上は、使用人です。)を退職したとは言えないとされるのです。
比嘉酒造の退職給与に関する裁決では、下記のように述べられています。
H社は同族会社であり,同族関係者以外の役員はいない。どのような業務が代表取締役の経営判断によるか判然としない。
役員AはH社の主力商品の製造管理を行っており,その業務がH社の重要業務(分掌変更後の役員給与の支給は,役員Aが行う主力商品の製造管理に係る技術的な指導がH社の重要業務であることの証左)。
本件役員は,上記1の(4)のニ及び上記ロの(イ),(ハ)ないし(ホ)並びに(チ)のとおり,分掌変更後において,請求人の工場への出勤状況が月に3,4回程度になるとともに,役員給与の額が3分の1になっていることが確認されるが,■■■■■■■■■から3億円の融資を受けるに当たり,平成22年6月に同行職員との面接に参加したり,本件分掌変更後にも関わらず代表取締役と表記された名刺を携行して部外者に交付し,また,請求人のホームページに「取締役会長」として請求人の理念を掲載していた(■■は当該記事の掲載時期,掲載理由について承知していなかった。)など,請求人における地位を保っていた。
さらには,上記ロの(ヘ)のとおり,請求人の定時総会等は,議決権の3分の1以上を有する株主の出席を求め,出席株主の議決権の過半数をもって決議するとしているところ, >本件役員は,請求人の発行済み株式総数の2分の1を超える持株があることから ,請求人の定時総会等は,本件役員の出席なくしては開催できず,かえって,本件役員のみでも開催し決議も行えることからしても,本件役員は, 請求人において,本件分掌変更後もなお一定の影響力のある地位を占めていると認められる。
裁決は、上のように言わされていますが、名刺を出したことをもって本人に現実には退職したという意識がないかどうかは、実体のない観念です。意識は、事実認定の基礎とはなりません。
理念の掲載は、理念に基づいて労働するわけではありませんから、労働ではありません。
HPへの掲載を承知していたか否かも実体のない観念で、事実認定の土台にはならないでしょう。
株主であることによる退職の否定は、分掌変更退職の事実の否認です。それでは、従来から問題提起されてきたことではありますが、大株主であれば,実際に退職したのと同じ労使関係というのががあり得ないのか。株式会社の大株主は死ぬまで実質退職があり得ないということになるのだろうか。
法人税基本通達9-2-32 (2)のかっこ書きで,取締役から監査役に横滑りした場合の退職について,大株主である場合を除外しています。
(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。(昭54年直法2-31「四」、平19年課法2-3「二十二」、平23年課法2-17「十八」により改正)
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。
役員の分掌変更等の場合の退職給与( 法基通9-2-32 )
(略)
(留意点)
① 分掌変更後も実質経営者やオーナー株主の地位に留まる者については適用しない。
(「法人審理ガイドブック」(大阪国税局 平成25年7月)P29)
なお,形式的に同様の事情にある場合でも,実質的に経営上重要な地位を占めている場合,及び大株主である場合には,退職給与の支給は認められないことになります。」(『法人税基本通達の疑問点〈五訂版〉』(渡辺淑夫,山下清次編,ぎょうせい)P562-563)
通達における取締役から監査役への横滑りについては,大株主除外要件が残されているわけですが。これについて,『逐条解説』には,下記のようにあります。
「ただし,同族会社等における悪用が考えられるので,実質経営者やオーナー株主については適用しないこととし,課税上の弊害を防ぐこととしている。」
他方、下記のような裁判例があります。
「原告乙は原告会社において,役員としてはおろか,従業員としても一切の業務を行っていない状態になったのであって,仮に, 原告乙が筆頭株主として原告会社に対して何らかの影響を与え得るとしても,それは,飽くまで株主の立場からその議決権等を通じて間接的に与え得るにすぎず,役員の立場に基づくものではない から,株式会社における株主と役員の責任,地位及び権限等の違いに照らすと,上記のような 株式保有割合の状況は,原告乙が原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあると認めることの妨げとはならないというべきである。」
東京地判20年6月27日
法律上の投融資をする者は、資本関係を源泉に、労働の評価を取り消して利潤に転嫁する過程をコントロールします。
役員は、コントロールを受ける一介の労働力にすぎず、役員が経営を行っているのではありません。
非常勤役員となる場合であっても、オーナー役員であれば退職したことにならないとするのは、裁判例の論理に照らして矛盾するかどうかの問題ではないのです。
現実にフィクションされた経済関係に則していないのです。
オーナー株主であることを理由とするのではなく,同族会社の行為計算否認を理由とすべきという見解もあるようですが、世界中の全ての法人は、経済上、ロックフェラーやロスチャイルドの同族会社ですが、国際金融資本の下で教育を受けた司法を間に挟むと、フィクションされた借入金の存在はなかったものとして取り消されてしまいます。
株主への利潤の分配は、法律上は、経済的な利益の供与、経済的利益の享受の問題になるでしょう。
退職給与として不相当に高額な部分の金額
比嘉酒造は、退職給与の評価を、最終月額報酬×勤続年数15年×功績倍率3倍でしていました。
この退職給与について、沖縄税務署長をして不相当に高額な部分があるとして更正処分が行われました。
比準法人は、下記のように抽出されました。
比準法人の抽出方法
沖縄国税事務所長が,沖縄国税事務所管内の全税務署長及び熊本国税局長に対して,X社と類似する法人の役員給与と退職給与の支給事例を抽出し,報告するよう通達指示及び依頼(いわゆる通達回答方式)
対象法人
当該税務署及び熊本国税局管内に法人税の納税地を有する単式蒸留しょうちゅうの製造免許を付与され,その製造をしている法人34社
事業規模
X社の本件各事業年度における総売上金額の0.5倍以上2倍以下の範囲内の法人(いわゆる倍半基準)
残波事件では,功績倍率でなく,比較法人の報酬総額が基準として用いられた上で,母数や異常値の問題で,平均値を用いるべきではないと判示されました。これにより,比較法人の最高額が基準として用いられたわけです。ここは,残波事件と飯田精機事件の大きな違いです。
個々の特殊事情を勘案して「最高額」と比較されるケースもあるが、司法判断として「最高額」との比較が相当であるとしたのは本件が初めてとなるとする論者も存在します。
ここでは,他の比較法人の最高額と直接比較されています。退職給与の否認では,比較法人の最高額の平均値との否認を課税庁は行っていました。
この比較法人の最高額で評価する前に,課税側の主張では,最高額の平均を適用すべきといっているのを裁判所は退けています。平均の母数が少ないことと,異常値が混入しているのをそのまま平均していることから,平均の利用は妥当ではないと判示したものです(東京地判平成28年4月22日)。
実務では,月額給与が高すぎると否認されて,役員報酬の高額否認を前提として功績倍率法で計算した役員退職給与額が適正額というのは,あり得ないような気がするという見解もあるようですが、特定の期間の労働の対価が高額であるとの評価がされても、それ以外の期間の役員報酬月額が労働の対価の全額ではないという現実からして退職給与というものがあるわけです。
労働の実体が異なれば、役員報酬と退職給与の評価のプロセスも異なってきます。
この裁判例では,役員報酬の相当額計算のプロセスと,役員退職給与の相当額計算のプロセスとは,全く別物で良いと判示しています。
実際に、法人税法施行令70条 は、1項が役員報酬の相当額について扱い,2項が役員退職給与の相当額という評価を含むものについて扱っていて,両者は評価のプロセスが別のものとなっています。
(過大な役員給与の額)
第七十条 法第三十四条第二項 (役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、次に掲げる金額の合計額とする。
一 次に掲げる金額のうちいずれか多い金額
イ 内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した給与(法第三十四条第二項 に規定する給与のうち、退職給与以外のものをいう。以下この号において同じ。)の額(第三号に掲げる金額に相当する金額を除く。)が、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(その役員の数が二以上である場合には、これらの役員に係る当該超える部分の金額の合計額)
ロ 定款の規定又は株主総会、社員総会若しくはこれらに準ずるものの決議により役員に対する給与として支給することができる金銭の額の限度額若しくは算定方法又は金銭以外の資産(ロにおいて「支給対象資産」という。)の内容(ロにおいて「限度額等」という。)を定めている内国法人が、各事業年度においてその役員(当該限度額等が定められた給与の支給の対象となるものに限る。ロにおいて同じ。)に対して支給した給与の額(法第三十四条第五項 に規定する使用人としての職務を有する役員(第三号において「使用人兼務役員」という。)に対して支給する給与のうちその使用人としての職務に対するものを含めないで当該限度額等を定めている内国法人については、当該事業年度において当該職務に対する給与として支給した金額(同号に掲げる金額に相当する金額を除く。)のうち、その内国法人の他の使用人に対する給与の支給の状況等に照らし、当該職務に対する給与として相当であると認められる金額を除く。)の合計額が当該事業年度に係る当該限度額及び当該算定方法により算定された金額並びに当該支給対象資産(当該事業年度に支給されたものに限る。)の支給の時における価額に相当する金額の合計額を超える場合におけるその超える部分の金額(同号に掲げる金額がある場合には、当該超える部分の金額から同号に掲げる金額に相当する金額を控除した金額)
二 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額
三 使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与で、他の使用人に対する賞与の支給時期と異なる時期に支給したものの額
功績倍率適用の際の月額役員報酬として,課税側のいう適正額に引き直された自社の支給額を使わず,他社の最高額を使っています。
本件訴訟において課税側は,更正処分の理由と異なる主張を行っています。
役員給与について,更正処分の段階では,比較法人の役員給与の「最高額」を超えるか否かで評価しているところ,本件訴訟では,比較法人の役員給与の「平均額」で高額か否かを評価すべきと主張(前述のとおり,東京地裁は更正処分の段階を考慮して「最高額」で判示しています)。
また,退職給与について,更正処分の段階では,「功績倍率法」におけるAの業務に従事した期間を「15年」として退職給与の適正額を算定していたが,本件訴訟では,「24年」に変更している。
フィクションされた経済上の事実関係の確定のプロセスにおいて全ての面を総合して更正処分を行っていなかったということになります。
審判所は,まず,単に前記通達の①・②を満たすだけでは,実質的に退職と同様の事情にあると認められず,「法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者」の判断は,経営判断する者か否かだけでなく,“役員が同族関係者のみの同族会社では,その法人に不可欠な業務を行う者か否か”を考慮すべきと示した。
そして,審判所は,これらを踏まえ,以下の認定事実を総合勘案した結果,役員Aは,分掌変更後も,H社にとって不可欠な業務を行い影響力のある地位を占めていたと認められるため,退職と同様の事情にないと指摘。H社が支給した金員は,そもそも役員退職給与に該当せず,“不相当に高額な部分の金額”を判断するまでもないとした。
東京地裁は,課税側が主張する比較法人4社の「平均額」を「最終月額給与」とすることは,Aの職務内容等が,X社の経営や成長等に対する相応の貢献があったとはいえない程度のものであるなど,代表取締役として相応のものであるとはいえない『特段の事情』がない限り採用できない旨を示した。そして,Aの職務内容等は,X社で働き出して以来,幅広い層に楽しまれる泡盛を開発し,それに成功したほか,X社が売上高や経常利益を大きく伸ばすなどの成長に貢献したことが認められ,X社の成長において,Aは実質的にも相応の貢献をし,代表取締役の退任時までX社の経営に貢献したものと評価できると認定し、更に、
「本件においては、退職した代表取締役の原告における従前の職務の内容等に照らすと、原告の経営や成長等に対する相応の貢献があったというべきであって、その職務の内容等が代表取締役として相応のものであるとはいえない特段の事情があるとは認められないから、同人の役員給与のうち、比較法人の平均額を超える部分が、不相当に高額な部分であるとすることはできない。比較法人の代表取締役に対する給与について、不相当に高額な部分があるとはいえない本件においては、退職した代表取締役の役員給与が比較法人の最高額を超えない限りは、不相当に高額な部分があるとはいえないと解するべきである。」と判示されています。
利潤は労働によって産み出されたものです。
利潤は、労働をしていない国際金融資本や地主や売上先にも分配されます。
取引先との経済関係、同業他社と競争させられていることから、利潤に転嫁された労働の評価が現実の労働の全てを必ずしも評価していたとは限りません。
他の労働者に労働の対価が全て支払われたか否かに関係なく、各労働者全てを現実の労働に基づいて別個に評価しなければなりません。
給与、退職給与は利潤又は利益の分配ではありません。
保険に加入して退職金支払い原資を計画的に積立て、計算式にあてはまるように給与も引き上げていき、退職の前に保険を解約して受け取った保険金で退職金を支払ったのであれば、その間、国際金融資本に労働の対価が前貸しされて、返済されずに労働力の再生産をさせられて
労働の評価を取り消して、利潤の蓄積、分配、支払い債務免除をコントロールしているのは、銀行へ出資している者である。
同族法人の出資者は、出資金の評価の分を源泉に、労働力との間に資本関係が産み出される。
役員は、国際金融資本の使用人として、労働の評価を取り消して国際金融資本に貸し出して、労働債務の返還を労働者への貸付けに転換させたことを受容して、労働者に貸し付けて、評価されない労働をさせるのが仕事である。
役員は経営には参画していない。役員も労働者である。
役員退職金支給後も国際金融資本がフィクションした借入を受け容れて、それを源泉とする現金商品を、労働の対価の返済を待っている労働者に渡して、労働力を再生産させて労働するという債務を負わせきたのであれば、役員を退職したとは言えない。
退職給与という属性を付与された現金商品の支給は、それまでに評価が取り消されてきて支給されてこなかった労働の対価が含まれている。
労働の対価は、労働が完了して労働力の再生産に移る毎に支給されなければならないものである。
評価の基となった、当該分掌変更前までの労働は既に提供済である。
労働の対価を超える部分の金額は、資本関係を源泉にした利潤の分配ということになるでしょう。
国際金融資本は、役員の退職給与につき、税務職員を使用して更正処分を行わせ、労働の対価を超える部分の金額があるとして、損金算入を否認させ、自らが作演出した国債を債権者である労働者に負担させたということになります。
役員給与
控訴審は,泡盛の酒造会社であるX社(同族会社・2月決算法人)が,平成19年2月期から22年2月期に,役員4名に支給した「役員報酬・役員給与(以下,役員給与)」が過大(不相当に高額)か否かを巡り争われた事件である。
適正かどうか、過大かどうか、不相当に高額かは、事実確定の問題を基礎とした評価の問題です。
裁決では、下記のように事実認定、法へのあてはめがされています。
増額支給前の事業年度と増額支給後の事業年度の職務内容は同様で,増額支給する程の変化がないこと。
経常利益の減少幅が大きいのは,役員給与の増額が原因であること。
使用人に対する給与の支給状況 増額支給される前の事業年度と比較して大きな変化はないこと。
類似法人の役員給与の支給状況は、H社の役員給与の支給額と審判所認定の類似法人の役員給与の平均額を比較すると2~9倍の差があること。
原処分庁は,類似法人の役員給与の最高額を適正額としているが,仮に,その中に“不相当に高額な部分の金額”が含まれた役員給与を支給している法人があった場合には明らかに不合理となるので,審判所認定の平均額が適正額といえること。
一審の東京地裁は,課税側が,X社の売上金額の「0.5倍以上2倍以下(いわゆる倍半基準)」の法人を類似法人として抽出したこと等は合理的であるとし,X社が支給した役員給与は,その類似法人の役員給与の最高額を超えていたことから過大と評価していた。)。
また,一審では,代表取締役に支給した「退職給与」が過大か否かについても争われ,こちらは比嘉酒造側の主張が認められている。この点につき,退職給与部分で敗訴した課税側は,東京高裁に控訴しておらず,控訴審では,役員給与の過大性についてのみ争われています。
控訴審においては、役員給与については、新旧代表者分も含めて、ひとまとめの取扱いがされています。それでは、本件控訴審では、どのような問題が論点となったのでしょうか。
それでは、本件控訴審では、どのような問題が論点となったのでしょうか
事業規模が類似するもの
比嘉酒造側の主張
適正な役員給与の判断要素の一つとして,「事業規模が類似するもの」と規定されているのは( 法令70一イ),事業規模と役員給与に相関関係があるからである。原判決では,事業規模が類似する法人を抽出する際に,売上金額を指標とすることを容認しているが,売上金額と役員給与の間に相関関係はない。
また,いわゆる倍半基準は,社会通念上,事業規模が類似する法人を抽出することができない。
高裁側の評価
売上金額と役員給与の間に相関関係がないとまでは認め難く,X社が行う単式蒸留しょうちゅうの製造という事業については,事業規模が類似する法人を抽出する際に,売上金額を指標とすることは合理的である。
また,倍半基準は,対象の中から近似性を有するものを抽出する基準として合理的である。
私見
労働者は、国際金融資本に対し債権者です。
労働者は利潤を産み出して国際金融資本に分配する義務は、経済関係上、ありません。
売れたか売れないかに関わらず、労働をさせたのであれば、完全に評価して対価を全額に支払わなければなりません。
売上金額を持ち出して退職給与の評価することはできないものと考えます。
役員の能力
比嘉酒造側の主張
役員給与は,極めて個別性の強い様々な要因によって決定されているもので,役員の能力の検討は,個別事情の中枢を占める非常に重要なものである。また,個別事情として,経常利益率等の指標も検討すべきで,X社のこうした指標は,業界上位となっている。
役員の能力や個別事情を検討していない原判決の判断は,不合理である。
高裁側の認定
役員の経営能力を別個の判断要素として考慮することは,何をもって役員の能力として評価すべきか曖昧であり,主観的・恣意的要素を判断要素に加えることになるから相当でない。経常利益率等の指標と役員給与との関係について確立された一般的な理解があるとはいえず,経常利益率等が高いことは,類似法人の役員給与の最高額を支給することが不相当であると判断した一審判決を覆すに足りるものではない。
私見
役員給与の決定されるプロセスにおける個々の要因には性質は備わっていません。価値は付与されるものです。
労働力には、能力は予め備わっていません。評価の基礎となるのは労働です。能力は実体のない観念です。
業績と使用人給与
比嘉酒造側の評価
一審では,平成19年2月期の収益状況が前期の収益状況より悪化しているにもかかわらず,役員給与が増加していることを過大判定の根拠の一つとしているが,ここでいう前期の役員給与には,利益処分として支給した役員賞与が含まれていない。また,平成19年2月期の役員給与は,前期の収益状況等を基に事前に決定しており,平成19年2月期の収益状況の悪化を平成19年2月期の役員給与に反映させることは不可能であり,原判決の認定・評価は不当である。
原判決では,使用人給与が増加していない一方で,役員給与が増加していることを過大判定の根拠の一つとしているが,使用人給与の支給状況を過大判定の判断要素としてのは誤りである。
高裁側の認定
前期に,利益処分として支給された役員賞与は,あくまで利益処分であって,損金に算入されるものではなく、役務の対価として一般に相当と認められる範囲の役員給与と別物であるため,ここでいう前期の役員給与に含めるべきとするX社の主張は採用できない。役員給与の過大判定では,「収益状況」が判断要素の一つとされており( 法令70 一イ),X社の主張は失当である。
「使用人給与の支給状況」は,役員給与の過大判定の判断要素の一つとされており( 法令70 一イ),X社の主張は採用できない。
私見
売上総利益、営業利益、経常利益が減少しているにも関わらず、役員給与が増加しているのは、そもそもどうしてこんなに給与もらっているのか、法人として不自然であり、そこには、不相当に高額な部分があるのではないかと、宗教学に依拠して論じてはならない。全体化を放棄してはならない。
給与は、利益の処分ではありません。労働の対価です。
労働の実体がある以上、現場の使用人給与が業績によって減らすことはできません。
使用人、役員は、全て、その者以外の労働者の労働の対価の支給の実体に関わらず、労働の全てを評価、支給されなければなりません。
租税回避
比嘉酒造側の主張
役員給与を多く支給すればするほど,役員個人の税負担は増大し,本件では,X社・役員を通じて,適正額の役員給与を支給するよりも,当初の役員給与を支給する方が,多額の税金を納めていることなどからして,租税回避の事実はない。
本件では,恣意的な役員給与の支給による租税回避の有無が検討されていない。
高裁の認定
旧法人税法施行令69条1号及び法人税法施行令70条1号イの解釈適用において、租税回避事案でないことをもって過大役員給与ではないとする根拠はなく,X社の主張する解釈は,X社独自のものであり採用できない。
私見
恣意があるかどうか、租税回避かどうかは実体のない観念である。
事実関係の確定の根拠とはならないだろう。
予測可能性
比嘉酒造側の主張
税務専門誌(週刊税務通信)や法人企業統計年報特集等の資料から予測できる役員給与と,現実に示された適正額とには大きな差があり,原判決で,過大役員給与であることを予測できるとしたことは,社会常識を逸脱した認定である。
高裁の認定
役員給与の過大部分について確定的な金額は判明しないとしても,相応の予測は可能であり,本件では,入手可能な資料等から類似法人の役員給与に比べて大幅に高額であることを認識することができたと認められる。
私見
予測できたか否かは、実体のない観念です。
事実関係の確定の根拠とすることはできないでしょう。
結語
給与は、退職後に労働力の再生産をしなくて済むものでなくてはなりません。
しかし、それで足りるかというと、そうとは言えません。
また、労働は、同業他社の労働者の給与をベースに相対的に評価されるものではありません。
重要なことは、退職給与を含む給与は、同業他社の給与水準と比較して給与を決めることではなく、現実にした労働の対価を完全にして全額支給して、
現実にした労働を評価して支給するまでのプロセスを説明できるようにしておくことです。
各労働者も、自分がした労働を全て記録して、全て評価されているか、且つ全額支給されているかをチェックしなければなりません。
退職の段階で、退職までにしてきた労働を再評価して
退職までに、労働、労働力の再生産のサイクルを架空の商品と置き換えて時間という評価を付して現実に支給されてきた報酬月額の労働の対価の合計額で除したものが、
功績倍率です。
役員も、役員でない者も退職後は、当該法人で労働をしないことです。
退職の事実を作ることが重要となります。
契約上労働を続けたにしても、実際にした労働と、その対価について説明し、
経済上、退職したと同様であることを説明できるようにしておくことが重要です。