5社の役員となっている代表取締役に5社から支払われた退職給与について争われた東京地裁判決は、高裁、最高裁と進み、既に棄却されました。

当該事例において、実務の現場において、問題となったこととしては、①比準法人の選定とも関係しますが、功績倍率はどの程度が相当なのか、②比準法人の退職給与もは功労加算分が含まれているのか、③民間のデータベースを使用して自社が支給した退職給与の金額が相当な額であることの根拠とできるのかということがあります。

功績倍率は、税務調査の現場でいうところの3倍基準に縛られなければならないのか。

それでは、個別の事案毎に見ていきましょう。

原処分における功績倍率の算定は、上記イの(ロ)の
とおり、本件同業類似法人の功績倍率の平均値を基にしているところ、
本件同業類似法人は、上記ハの(ハ)のAの(A)のとおり、請求人と
同種の事業である製造業から選定しており、そのほかの選定基準につい
ても旧法人税法施行令第72条の規定に沿ったものとして合理性がある
ことから、これを基礎として算定した役員退職給与相当額(審判所認定
額)における功績倍率は適正というべきである

(平成23年5月25日裁決)。

本件においては、上記第2の2(2)イのとおり、亡乙の原告の取締役と
しての報酬は、平成16年3月までは月額51万5000円であったが、そ
の後、死亡退職するまで無報酬であったから、仮に、本件役員退職給与適正
額の算定に当たり、平均功績倍率法を用いるとすると、その算定要素の1つ
である最終月額報酬が零円であるため、本件役員退職給与適正額も零円とな
る。しかし、証拠(甲20、26ないし28、丙証言)によれば、亡乙は、
35年間にわたり、原告の取締役として総務、経理、労務管理等に関する業
務を行っていたことなどが認められることに照らし、その役員退職給与の適
正額を零円であるとすることは、明らかに不合理である。
そうすると、本件においては、役員退職給与の適正額の算定方法として平
均功績倍率法を用いることが不合理であると認められる特段の事情があると
いうべきであって、被告が本件役員退職給与適正額の算定方法として1年当
たり平均額を用いたことは合理的であるというべきである(25 3 22 12177)。

しかしながら、最終月額報酬、勤続年数及び平均功績倍率を用いて役員退職給与の適正額を算定する平均功績倍率法は、

その同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、法36条及び施行令72条の趣旨に最も合致する合理的な方法であって、

同業類似法人の抽出基準が必ずしも十分ではない場合、あるいは、その抽出件数が僅少であり、

かつ、当該法人と最高功績倍率を示す同業類似法人とが極めて類似していると認められる場合など、

平均功績倍率法によるのが不相当である特段の事情がある場合に限って最高功績倍率法を適用すべきところ、

本件では抽出基準が必ずしも十分ではないとはいえないし、

本件同業類似法人のうち最高功績倍率を示す法人(原判決別表2及び5の順号2)と控訴人とが極めて類似していると認めるに足りる事情があるとは認められないことからすれば、

最高功績倍率法を用いるべき場合に当たるとはいえない。

また、被控訴人が本件同業類似法人を抽出する際の抽出基準とした抽出対象地域、基幹の事業、調査対象事業年度及び調査対象事業年度における売上金額はいずれも
合理的であり、亡乙に功労加算すべき特殊事情があるとは認められない(東京高判平成25年7月18日)。

役員退職給与の適正額を判断するに当たり、最高功績倍率法を採ると、比較法人中に極めて多額で不相当な退職給与を支給した法人があった場合に不合理な結論となり、これを避けるために異常に多額なものは除外するとすると、その対象や範囲が不明確となり、恣意の入り込む余地が生じる。

したがって、平均功績倍率法を採ることが旧施行令72条、施行令70条2号の趣旨に合致するというべきであり、退職直前に無報酬の期間があるなど、平均功績倍率法を採ると適正を欠く結果となる場合には、1年当たり平均額法を採るのが相当と考えられる。

そして、処分行政庁が亡乙について原則的な平均功績倍率法を採用し、14年間にわたり代表取締役を務めたが退職前の2年間余は無報酬であった丙について1年当たり平均額法を採用したことに不合理な点は見当たらない。

また、上記の算定に際して比較された同業類似法人の抽出対象地域や調査対象年度の各抽出基準が不合理とはいえないことも原判決が説示するとおりである(東京高判平成25年9月5日)。

「c 控訴人は、①被控訴人が挙げる本件同業類似法人2件のうちの1件の法人
における役員退職給与支給の決定は、景気後退局面とほぼ重なる平成13年
2月期に行われたのに対し、本件役員退職給与支給の決定は、6年以上にわ
たって継続した景気回復局面中の平成17年3月20日に行われたこと、②
景気の状況は一般に役員退職給与の支給額に少なくない影響を与えることに
鑑みれば、本件役員退職給与の支給時期と上記本件同業類似法人の1件の役
員退職給与の支給時期との間に、役員退職給与の支給状況について比較・検
討の対象とすることがおよそ不合理であるというべき経済情勢や社会情勢等
の著しい変動があったというべきであると主張する。
しかし、内閣府公表の景気基準日付(甲34)によると、本件同業類似法
人に係る調査対象事業年度において、一定の景気の変動があったことはうか
がわれるものの、その変動が、控訴人の主張するような著しいものと認める
ことはできず、他に控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。」

(7) 原判決30頁8行目末尾に改行して、次のとおり加える。
「 控訴人は、平均功績倍率法、最高功績倍率法及び1年当たり平均額法のいず
れかの方法が優先的に用いられるべきであるという一般的抽象的な優劣関係は
存在しないから、納税者に有利な方法が適用されるべきであり、本件の場合、
最高功績倍率法が納税者に有利であるから、この方法が採用されるべきである
と主張する。
しかし、同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、平均功績倍率法が法
36条及び施行令72条の趣旨に最も合致する合理的な方法というべきである
ことは、前記(3)アで説示したとおりであり、法36条及び施行令72条が
、控訴人主張の各方法による計算結果を比較して、納税者に最も有利な計算結
果になる方法を採用すべきである旨定めたものと解することはできない。」

(8) 原判決32頁4行目の「あると解される。」を「あると解され、単に役員退
職給与の適正額を判断するための諸事情のうち典型的なものを列挙したものに
すぎないと解することはできない。」に改める。

(9) 原判決34頁6行目の「公知の事実であり」の次に「(控訴人は、同族会社
においても金融機関からの融資を受けるに当たって代表取締役のみを保証人と
することが通例であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。)」
を加える。

(10) 原判決36頁12行目の「ということができ、これによれば、」を次のと
おり改める。
「合理的であるということができる(東京高判平成25年9月11日)。

M社は,不動産賃貸業及び損害保険代理業を営む11月決算法人であり、代表取締役が,平成17年1月30日に死亡退職した際に,同年3月18日開催の取締役会決議により,役員退職給与6,032万円と弔慰金384万円を支払った。

この死亡した代表取締役の最終報酬月額は32万円で,勤続年数は13年です。税務調査に際して,「死亡退職金明細(弔慰金中課税額加算)」という資料が提出されており,そこには,

退職金 60,320,000 320,000×13×14.5

との記載がありました。

その後、M社側は、別途「退職金算定根拠」と題する書面を課税庁に提出しています。

死亡退職金(一般に支払われる退職金):1,000,000円(改定月額報酬)×3倍(功績倍率)×13年(勤続年数)=39,000,000円

B ■までの補償額(過労死による損害賠償額):320,000円(最終月額報酬)×12か月×15年=57,600,000円

C 上記A及びBの合計額 96,600,000円

完全な後付けの資料で,調査中に作成したものです。

M社側は、異議調査担当職員に対し次のように答えています。

本件役員退職給与計上額は、■■■■、■■■■及び■■■■■と
相談し、■■■■の貢献度及び請求人の資金繰り等の諸事情を総合的
に勘案して決定したもので、具体的な計算式によって算出したわけで
はない。
B 本件退職金算定根拠は、事後的に本件調査中に作成したものであり
、功績倍率は、通常3倍前後と聞いたのでそのようにし、改定月額報
酬は、支給した本件役員退職給与計上額を基に功績倍率及び勤続年数
で割り返して算出したものである

税務調査の現場では,

最終報酬月額×勤続年数×功績倍率=320,000円×13年×3.0=12,480,000円

を相当額として,それを上回る47,840,000円を過大役員退職給与額として否認しました。

現場では,3倍の功績倍率を認めていた。本事例は,功績倍率3倍を否認した事件との理解がありますが,少なくとも,当初の税務現場でそれを否認していたわけではありません。

3倍基準は,税務調査の現場でしか通用しないと言われています。

 

従来は,3倍基準ということでなく,倍率を個々に評価する方法であったのが,現在の課税側は,執行の現場では,3倍以内に収まっていれば,それ以上は問わないと言われています。

たとえば,現場で4.0倍が否認されたとすれば,3倍を超える1.0倍部分の否認では済むとは限りません。

現実には,否認が生じると,3倍のラインは消えて,業界で規模・業績等の類似した法人との比較ということになってしまいます。

よって,3倍は必ず使えるわけでなく,もっと低い倍率になってしまうことも,生じます。

異議申立ての段階において,功績倍率は,いわゆる平均功績倍率として,1.07倍が採用され,退職金相当額が4,451,200円となり,過大役員退職給与額は,55,868,800円と算定されてしまいました。
しかし,この法人の事業を考えれば,1.07倍というのは,充分にあり得る倍率です。

不動産賃貸業ということは,要するに,アパマン事業のような労働の実体がない事業ですから,高額な役員退職金を出している法人が多いとは限りません。

その後,不服審判所では,1.22倍が採用され,相当額は5,075,200円とされ,55,244,800円が過大役員退職給与とされました(平成23年1月24日裁決 平22第48号)。

また,東京地裁では,課税側の主張の通り,1.18倍が認定され,相当額4,908,800円を超える55,411,200円が過大役員退職給与額とされています(東京地判平成25年3月22日税資263号-51 12175)。

その後,東京高裁で棄却され,最高裁に上訴しますが,棄却され,不受理確定となりました。

景気というのは、労働の評価を取り消して利潤を資本に転嫁したことにつき、後付けで、フィクションされた現象にすぎず、実体のない観念です。

労働者は、国際金融資本に対し債権者です。メディアの宣伝によらず、労働は完全に評価しなければなりません。

功労加算

なお、請求人は、仮に、■■■■退職給与相当額の異議審理庁認定額が正し
いとするならば、これと本件役員退職給与計上額との差額は、①過労死による
損害賠償金として損金の額に算入すべきである旨、②すでに申告済みの相続税
に係る相続財産から減額する更正がされるべきである旨、③本件役員退職給与
計上額は、■■■■の死亡に伴い請求人が受け取った保険金を原資としている
のであるから不相当に高額とはいえない旨主張する。
しかしながら、①については、■■■■の死因が請求人の業務を原因とする
過労であること及び当該差額がその損害賠償金として妥当な額であると認める
に足りる客観的な証拠もないことから、この点に関する請求人の主張は採用で
きない。また、②については、国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく
処分についての審査請求に対する裁決を行う機関であり、請求人が主張するよ
うな、審査請求の対象となった処分を離れて所轄庁に対して減額更正を命じる
旨の裁決を求めることについては、当審判所の審理の限りではない。仮に、②
が原処分庁の判断が法人税と相続税との間で不整合を生じているという趣旨で
あったとしても、上記ロのとおり、過大な役員退職給与の損金不算入の制度は
、退職役員の法人に対する退職金請求権の存在を否定するものではなく、同債
権の存在を前提として、そのうちの過大な部分については、内国法人の所得の
金額の計算上損金の額に算入することを認めないにすぎず、同債権を相続財産
として相続税を課税したからといって何ら不整合な点はない。そして、③につ
いては、役員退職給与相当額は、上記ロのとおり、旧法人税法施行令第72条
の規定によることとされているところ、退職給与の原資が受け取った保険金で
あれば不相当に高額とはならない旨の法令の規定はない。そうすると、この点
に関する請求人の主張も採用できない(23 1 24裁決)。

請求人は、■■■■には請求人に対する多大な貢献をした特別な事情
があるところ、■■■■の最終報酬月額300,000円は、請求人の
資金繰りに配意した結果、従業員とあまり差のない金額が報酬として支
払われていたことによるものであるから、最終報酬月額はTKC経営指
標に掲載されている574,000円とすべきである旨及び会社への貢
献を顕彰する特別功労加算金を役員退職給与に加算すべきである旨それ
ぞれ主張する。
しかしながら、最終報酬月額は、一般的にその役員の法人に対する貢
献度をよく反映した指標であると解されているところ、■■■■の最終
報酬月額がその貢献に比して低く抑えられていたことを示す事実は認め
られず、当該最終報酬月額は、■■■■の請求人に対する貢献度を適正
に反映したものと認められる。そうすると、TKC経営指標に掲載され
ている574,000円を請求人における適正な最終報酬月額とするこ
とに合理性はない。
また、平均功績倍率は、同業類似法人における役員退職給与の額を当
該役員の最終報酬月額に勤続年数を乗じたもので除した倍数の平均値で
あるところ、当該役員退職給与の額には、その支出の名目のいかんにか
かわらず、退職により支給される一切の給与が含まれるのであるから、
請求人の主張する特別功労加算金相当額は、本件同業類似法人の功績倍
率に反映されているものと解され、これを基礎として算定した役員退職
給与相当額(審判所認定額)は、特別功労加算金を反映したものという
べきである。
したがって、この点における請求人の上記主張はいずれも採用できな
い(23年5月25日裁決)

(ア)a まず、亡乙の原告における業務内容についてみるに、証拠(甲20、23、26、27、乙18)によれば、亡乙は、平成10年に原告を設立するに当たり、発起人となり、その事務作業をほぼ一人で行い、その後、平成17年に死亡退職するまでの7年間にわたり、原告の取締役として、総務、経理、労務管理等の各種事務全般に携わり、このほかにも、原告が経営するホテル内のレストランで提供する漬け物の加工やそのメニューの考案等にも関与していたこと
が認められるものの、他方で、上記第2の2(2)エのとおり、亡乙は、原告に関する業務のほかに、原告のグループ企業であるB株式会社、株式会社C、株式会社D及び有限会社Eの各取締役あるいは代表取締役として、それぞれの業務をも並行して行っていた上、証拠(甲23、乙2、18)によれば、原告には、亡乙以外にも経理等の各種事務を担当する従業員がおり、亡乙の指示、監督の下にこれらの事務を行っていたことが認められる。

これらの事実に照らすと、亡乙は、7年間にわたり、原告の取締役として、総務、経理、労務管理等の各種事務全般に深く携わるなどし、原告に対して相当程度の貢献を果たしてきたことは認められるものの、その原告における業務内容が、およそ社会通念上一般に取締役の業務内容として想定され得ないほどの時間や労力を費やすなど特殊なものであったとはいい難く、同業類似法人の抽出が合理的に行われてもなお、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があるとまでは認められない。

なお、丙は、亡乙が土日の休みもなく、毎日10時間以上働いていた旨供述する(乙18)が、そもそも具体的な根拠に乏しい上、上記勤務時間は、亡乙が、上記aで述べたとおり原告のグループ企業であるB株式会社、株式会社C、株式会社D及び有限会社Eの取締役あるいは代表取締役としての各業務を行った時間を総計したものであるというのであるから、仮に、この点に関する丙の供述を前提としても、亡乙が原告の業務のために費やした時間が、他の同業類似法人の役員に比べて極めて長いというような特殊な事情があるとは認められない。

(イ) 次に、亡乙が原告の借入金債務を連帯保証していたとの点についてみるに、証拠(甲5、20、乙18)によれば、確かに、亡乙は、J信用金庫との間で、平成11年10月、原告が同信用金庫から10億円を借り入れるに当たり、丙及びB株式会社と共に、同債務を連帯保証する旨の契約を締結したことが認められる。

しかし、金融機関が法人に対して融資を行うに当たっては、その是非は別として、代表取締役等の役員を保証人とすることを条件とすることが広く一般的に行われており、殊に、原告のような同族会社においては、代表取締役やその親族である役員を保証人とすることも珍しくないことは公知の事実であり、しかも、証拠(乙18)によれば、原告の借入金債務の弁済が滞り、亡乙が保証債務を履行するに至ったことはないと認められることを併せ考えれば、亡乙が金融機関との間で、原告の借入金債務について、連帯保証する旨の契約を締結していたことをもって、同業類似法人の抽出が合理的に行われてもなお、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があるとは認められない。

そうすると、結局のところ、亡乙がうつ病等に罹患し、自殺するに至った要因が、原告における各種事務や巨額の個人保証等による過度の負担であったとまで認めるに足りる証拠はないといわざるを得ないのであって、このことをもって、同業類似法人の抽出が合理的に行われてもなお、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があるとは認められない。

ウ そして、原告が、亡乙に功労加算すべきとして主張するその他の事情を考慮しても、亡乙に、同業類似法人の抽出が合理的に行われてもなお同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があるとは認められない。

なお、上記第2の2(2)ウのとおり、亡乙に対しては、本件役員退職給与のほかに弔慰金として560万円が支給されているのであって、本件役員退職給与について更に功労加算を認めるべき必要性が高いともいえない。

エ 以上によれば、本件役員退職給与適正額の算定に当たって相当程度の功労加算が認められるべきであるとの原告の主張は採用することができない。(東京地判25年3月22日 Z263-12174)

原告は、亡乙は、少なくとも10年間、原告の取締役として各種事務処理及び人材教育育成を担うなど、原告に多大な貢献をしており、同業類似法人の役員に通常存する事情を超える事情があるから、本件役員退職給与適正額の算定に当たっては、かかる事情を考慮すべきである旨主張する。

しかし、施行令72条においては、まず、退職役員個人の特殊事情が極めて顕著である従事期間及び退職の事情を例示し、退職役員個人の事情が他の会社と比べて極めて顕著とはいえない種々の事情については、共通的に表現し得ると思われる同業種・同規模の法人を挙げ、これらを基準として判定することと定めたのであって、同業種・同規模の法人を抽出することにより捨象される特殊事情は、もはや再度考慮する必要はないというべきである。

しかるに、亡乙が、原告の主張する上記各業務を行っていたとしても、それらは、社会通念上一般的な業務であり、当該事情が同業種・同規模の法人を抽出することによっても捨象されない特殊事情とはいえない。

よって、本件役員退職給与適正額の算定に当たり、亡乙に同業類似法人の役員に通常存する事情を超える特殊事情があったとは認められない。

(イ) また、原告は、亡乙は、原告における各業務等による過度の負担により、うつ病に罹患し、その治療中に自殺したものであるから、相当程度の功労加算が認められるべきである旨主張する。

しかし、原告が提出した退院サマリー(甲4)や診断書(甲8)等の医療関係書証からも、亡乙の原告における業務とその精神疾患との関連は不明であり、丙の供述(乙15)及びその他の証拠によっても、亡乙の精神疾患の発症又は死亡と原告における業務との間に因果関係は認められない。(東京地判平成25年3月22日 Z263-12173)

亡乙と丙は、いずれも控訴人だけではなく他のグループ企業の役員も兼ねていたのであり(亡乙の死亡に当たり、各社はそれぞれ多額の退職給与及び弔慰金を支払っている。)、控訴人の業務だけに集中していたものではないことなどに鑑みると、それぞれの控訴人に対する貢献を特別に考慮すべき特殊事情があるとはいえない(東京高判平成25年9月5日)

ところで,3倍基準については,功労加算金等は,3倍基準の外枠ではなく,内枠で判断するというのが,課税側の解釈であります。

それについては、下記のような裁決例があります。

「当該役員退職給与の額には,その支出の名目のいかんにかかわらず,退職により支給される一切の給与が含まれ,請求人の主張する特別功労加算金は同業類似法人の功績倍率に反映されているものと解される(平成23年5月25日裁決)。」

上記イ(イ)のとおり、■■■■の退職直前の報酬月額が、320,
000円であるにもかかわらず、上記1(4)ハ(ロ)Aのとおり、本件退職
金算定根拠については、死亡時退職金の算出に当たり根拠が明らかでない改定
月額報酬1,000,000円を用いており、算出要素に合理性がなく、これ
を用いて算出された金額が不相当に高額ではないということはできない。さら
に、上記1(4)ハ(ロ)Bの算式による■■までの補償額については、死亡
退職後15年間分の役員報酬に相当する金額を役員退職給与として後払いしな
ければならない合理的な理由も認められない。加えて、上記イ(ハ)Bによれ
ば、本件退職金算定根拠は、本件調査中に、事後的に作成されたものであるこ
とを考慮すると、本件退職金算定根拠及びそれによって算出された額に合理性
はない。そして、上記イ(ロ)のとおり、本件死亡退職金明細メモが、すでに
決定された本件役員退職給与計上額を基に勤続年数などから逆算して功績倍率
を決めて作成されたのであるから、同メモ記載の計算式が本件役員退職給与計
上額の根拠ではないと認められ、これに上記イ(ハ)を併せて考えると、本件
役員退職給与計上額は、具体的な算出式によることなく■■■■の意思によっ
て決定されたものであると認められ、その算出に合理性があるということはで
きない。以上からすると、本件役員退職給与計上額が■■■■退職給与相当額
であるということはできず、この点に関する請求人の主張は採用できない。

労働の評価を取り消し、労働の対価の支給を待たせ、利潤を国際金融資本に前貸しさせ、

労働の対価の返済は、労働者への貸付に転換されます。

労働者は、労働力を再生産させられ、これまで以上に安い評価額で労働力を提供する競争をさせられ、また、労働が強化されるでしょう。

労働者の代表から国際金融資本に、担保の名目で、資産の処分権を付与させます。

こうした一連の経済関係がフィクションされるプロセスは、係争事例に関する特殊な経済関係ではありません。

比準された法人を含め、全ての法人は、フィクションされた資本関係を源泉に労働の評価が取り消され、現実の労働の評価よりも低い対価で労働力の再生産をさせられています。

労働者は債権者でありながら、国際金融資本が自作自演した国債の返済を負担させられます。

国債の返済義務である租税の支払負担は、経済関係上、国際金融資本にあります。

労働者は、税法上、給与、退職給与が不相当に高額であると評価されても、法人税、所得税を負担させられます。

労働の対価が完全に評価されていない比準法人と比較して、比準法人の平均給与、又は最高給与に勤続年数に功績倍率の平均値、最高値を乗じて、それを超える部分の金額があったからといって、経済上、不相当に高額であると事実認定をすることはできないでしょう。

課税側は、労使関係上、退職給与の支給を否認したものではなく、課税所得の計算上否認されるだけだと言っていますが、民間データを用いて自己否認することは、現実に納税をさせられる者がすることではありません。不相当か否かは課税側が評価することです。

現実には、前述のフィクションされた資本関係を源泉に、功労が最終月額報酬に含まれているとは言えないでしょう。功労加算は、比準法人の退職給与とは、別枠で評価することを妨げるものではありません。

民間データ使用

本件TKCデータ同業類似法人についてみても、そもそも本件TKCデータは、税理士及び公認会計士からなる任意団体であるTKC全国会が各会員に対して実施したアンケートの回答結果から構成されており、その対象法人がTKC全国会の会員が関与しているものに限られている上、原告が用いた抽出基準は、その抽出対象地域について何ら限定することなく全国としており、また、基幹の事業についても「日本標準産業分類・大分類・M-宿泊業、飲食サービス業」とするものであって、そもそも原告の基幹事業であるとは認められない「飲食サービス業」を含むものである上、中分類の存在を考慮しておらず、被告が用いた抽出基準に比べ、その対象地域及び業種の類似性の点において劣るものといわざるを得ない。

しかも、本件TKCデータ同業類似法人の最高功績倍率を示す法人(甲11の別紙6の別表1・No.1)は、その売上金額の点において原告自身が用いた抽出基準を満たしていない(東京地裁平成25年3月22日 Z263-12173)。

また、本件TKCデータ同業類似法人についてみても、そもそも本件TK
Cデータは、税理士及び公認会計士からなる任意団体であるTKC全国会が
各会員に対して実施したアンケートの回答結果から構成されており、その対
象法人がTKC全国会の会員が関与しているものに限られている上、原告が
用いた抽出基準は、その抽出対象地域について何ら限定することなく全国と
しており、また、基幹の事業についても「日本標準産業分類・大分類・E-
製造業」とするのみであって、中分類の存在を考慮しておらず、被告が用い
た抽出基準に比べ、その対象地域及び業種の類似性の点において劣るものと
いわざるを得ない。(25 3 22 12177)

控訴人は、抽出件数が僅少であるから、平均功績倍率法ではなく、最高功績
倍率法によるべきであり、最高功績倍率を用いることとした場合であっても、
抽出された同業類似法人の中に他と比較して著しく過大な功績倍率を用いた法
人があった場合には、当該過大な値を除いた値のうちの最高値を用いれば不合
理な結論を回避することができると主張し、被控訴人による抽出件数が2法人
2件にとどまることは、これまで説示したとおりである。
確かに、抽出件数が2件であると、これを平均しても、同業類似業者間の様
々な差異が捨象されたとはいい難いところがあることは否定できない。
しかし、控訴人の主張する最高功績倍率法における抽出事例(甲11の別紙
6の別表1)を見ると、最高功績倍率は4.0倍であるが、その次順位の功績
倍率は2.0倍と最高功績倍率の半分であり、本件TKCデータ同業類似法人
の平均功績倍率も2.0倍である。しかも、最高功績倍率4.0倍の事例は、
控訴人自身が設定した売上金2億6500万円以上10億6300万円以下と
いう抽出基準を上回る売上金11億0300万円であり、控訴人の主張を前提
としても、この事例を除いた最高功績倍率を採用すべきことになるというべき
である。そうすると、次順位功績倍率2.0倍が最高功績倍率ということにな
り、被控訴人による平均功績倍率法の結果1.91倍と大差がないことになる
(功績倍率4.0倍の事例を除いた4件の平均倍率は1.50倍になる。)。
また、本件TKCデータが、対象法人が限られており、抽出基準も、抽出対象
地域、基幹事業の点で、被控訴人の抽出基準に比べて劣るものであることは前
記のとおりである。
したがって、いずれにせよ、控訴人の主張する最高功績倍率4.0倍は採用
できないし、次順位の功績倍率2.0倍も採用することはできない。なお、本
件更正処分は、亡乙の功績倍率を3.0倍として退職給与の適正額を算定して
いるから(甲1)、これは、上記次順位の功績倍率2.0倍を上回ることにな
る。
そして、平均功績倍率法によれば、」
2 控訴人は、その他、当審においても原審と同様の主張をするが、これに理由がない
ことは、原判決(前記1のとおり改めた後のもの)の説示するとおりである(東京高判平成25年9月11日)。

この事件では,もう1つ,役員報酬・役員退職給与の民間データベースを用いることの妥当か否かについても判示されています。

このTKCのデータベースそのものは,金融機関や税務署に寄贈されていますが,全国的な組織の会員が,提出したデータを集積したものです。

裁判所は,この事案は,比較法人の功績倍率を利用するに際して,最高倍率方式ではなく,平均倍率方式を適用すべきとしています。

残波事件では,功績倍率でなく,比較法人の報酬総額が基準として用いられた上で,母数や異常値の問題で,平均値を用いるべきではないと判示されました。

これにより、比較法人の最高額が基準として用いられましたが、この点は,両事件の大きな違いです。

そして,平均倍率方式を用いるという前提で言えば,この民間データベースは,明らかにデータ量が足りないということを裁判所は指摘しています。

全ての場合において、この民間データベースが使えないとまでは言っていません。

あくまでも,本事案を判断する上では,使えないという言っているにすぎません。

この民間データベースが使えない場合には,税理士や納税者はどうしたら良いのかという問題があります。

残波事件では,課税側は次のようにに言っていました。

「その上,原告の主張においても,上記3要素を用いて相当額を算定した上で,類似法人の役員給与額を確認的に使用するという方法が,具体的にどのようなものであるのかは明らかでないし,類似法人の役員給与データを入手できる社会状況が消失した旨の主張も,財務省や国税庁がホームページ上で公表している「法人企業統計年報特集」,「民間給与実態統計調査」や税務関係の雑誌である「週刊税務通信」の掲載記事や,税務関係の書籍にも参考となる資料が数多く掲載されているし,東京商工リサーチのTSRレポートのサンプルには,役員数や役員報酬の金額が記載されているのであって,これらの資料から,類似法人の一人当たりの平均役員給与額を算定することも可能であることからすれば,理由がない。」

このようなデータで算定できると国が言っているのだから、民間データベースを使用して退職給与を算定してはいけないものではない、民間データベースを使用して退職給与を算定するこを認めないというのであれば、禁反言に抵触するという声もあるようです。

国際金融資本は、国という脳内のみの存在を使って、使用人をして民間のデータベースを使って退職給与を算定できると言わせてていますが、

これを認めないとした場合には、禁反言云々の問題ではなく、フィクションした経済関係上の事実関係を全体化していないということになるのです。

この民間データベースの件は,当初の段階では論点にすらなっていませんでした。現場より後の、国際金融資本が出資設立した研究所で教育訓練を受けた者を間に挟まないと争えない訴訟の場では、交渉が通ることはありません。最初からシナリオができているのです。

土地が利潤を産むのではありません。労働が利潤を産むのです。にもかかわらず、法人の所在地が異なると退職給与が相当であることの根拠として、課税側は評価しません。

結語

労働者は国際金融資本に対し債権者です。

調査の現場で通用するとされる3倍基準や民間データベースや裁判例に出てきた比準法人に拘束されることなく、役員を含む労働者の給与、退職給与は、完全に評価しなければなりません。

対価を労働が一旦完了する毎に支払って、労働力の再生産のサイクルを減らしていかなければならないでしょう。

国際金融資本が使用人である税務職員に提示させている比準法人もTKCのデータベース上の法人も実在している証拠はありません。

税務職員に提示させている比準法人のデータの各評価額もTKCのデータベース上の法人の各評価額もフィクションされた経済関係を完全に評価しているとは言えないでしょう。

納税を負担させられる側は、実際にした労働を漏らさず全て記録し、説明できるようにしておくことです。

 

(下の表)退職給与について争われた飯田精密の関係会社