譲渡所得の計算方法

譲渡所得の金額は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。

また、これら取得費が不明または実際の取得費が少額となるときは、売った代金の5%相当額を取得費とすることができます(以下、概算取得費という)。相続で取得した場合や相当過去に購入したものでない限り、実際の取得費の方が有利です。なお、実際の取得費と概算取得費の選択は、土地・建物ごと別々にできます。概算取得費を選択した場合は、他の費用を上乗せすることは一切できず、売った代金の5%だけが取得費ということになります。(相続税の加算の特例は除く)

それでは、取得費に含まれる支出にはどのようなものがあるでしょう。

建物本体の取得価額

取得費には、売った土地や建物の購入代金(これも突き詰めれば人件費)、建築代金(人件費)、購入手数料

なお、建物の取得費は、購入代金又は建築代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引いた金額となります。

登録免許税、不動産取得税等

土地や建物を購入(贈与、相続又は遺贈による取得も含みます。)したときに納付した登録免許税(登記費用も含みます。)、不動産取得税、特別土地保有税、印紙税

なお、業務の用に供された資産の場合には、これらの税金は取得費に含めないことができます(登録により権利が産み出される特許権、鉱業権等を除く)。

(所法37、所令126、所基通37-5、37-6、49-3、地方税法343)

相続により取得した土地、建物、株式などを、一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができます。

(注) この特例は譲渡所得のみに適用がある特例ですので、株式等の譲渡による事業所得及び雑所得については、適用できません。

下記の要件を満たした場合に適用を受けることができます。

イ 相続や遺贈により財産を取得した者であること。
ロ その財産を取得した人に相続税が課税されていること。
ハ その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。

取得費に加算する相続税額は、相続又は遺贈の開始した日により、次のイ又はロの算式で計算した金額となります。ただし、その金額がこの特例を適用しないで計算した譲渡益(土地、建物、株式などを売った金額から取得費、譲渡費用を差し引いて計算します。)の金額を超える場合には、その譲渡益相当額となります。

イ 平成27年1月1日以後の相続又は遺贈により取得した財産を譲渡した場合の算式は、次のとおりとなります。なお、譲渡した財産ごとに計算します。

その者の相続税額×その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した財産の価額÷(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)=取得費に加算する相続税額

ロ 平成26年12月31日以前の相続又は遺贈により取得した財産を譲渡した場合の算式は、譲渡した財産(土地等(注)又は土地等以外の財産の別)により、次のとおりとなります。

(イ) 土地等を譲渡した場合

土地等を譲渡した人にかかった相続税額のうち、その者が相続や遺贈で取得した全ての土地等に対応する額

その者の相続税額×その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされた土地等の価格の合計額÷(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)=取得費に加算する相続税額

ただし、既にこの特例を適用して取得費に加算された相続税額がある場合には、その金額を控除した額となります。

(注)
1 土地等とは、土地及び土地の上に存する権利のことをいいます。

2 土地等には、相続時精算課税の適用を受けて、相続財産に合算された贈与財産である土地等や、相続開始前3年以内に被相続人から贈与により取得した土地等が含まれ、相続開始時において棚卸資産又は準棚卸資産であった土地等や物納した土地等及び物納申請中の土地等は含まれません。

(ロ) 土地等以外の財産(建物や株式など)を譲渡した場合

建物や株式などを譲渡した人にかかった相続税額のうち、その譲渡した建物や株式などに対応する額。なお、譲渡した財産ごとに計算します。

その者の相続税額×その者の相続税の課税価格の計算の基礎とされたその譲渡した建物や株式などの価格÷(その者の相続税の課税価格+その者の債務控除額)=取得費に加算する相続税額

個人が株式をその発行会社に譲渡(金融商品取引所の開設する市場における取引を除きます。)して、発行会社から対価として金銭その他の資産の交付を受けた場合、その交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の評価額の合計額がその発行会社の資本金等の額のうち、その交付の基因となった株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は配当所得とみなされて所得税が課税されます。

第二十五条  法人(法人税法第二条第六号 (定義)に規定する公益法人等及び人格のない社団等を除く。以下この項において同じ。)の株主等が当該法人の次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額(同条第十二号の十五 に規定する適格現物分配に係る資産にあつては、当該法人のその交付の直前の当該資産の帳簿価額に相当する金額)の合計額が当該法人の同条第十六号 に規定する資本金等の額又は同条第十七号の二 に規定する連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、前条第一項に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配又は金銭の分配とみなす。

一  当該法人の合併(法人課税信託に係る信託の併合を含むものとし、法人税法第二条第十二号の八 に規定する適格合併を除く。)

二  当該法人の分割型分割(法人税法第二条第十二号の十二 に規定する適格分割型分割を除く。)

三  当該法人の資本の払戻し(株式に係る剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち分割型分割によるもの以外のもの及び出資等減少分配をいう。)又は当該法人の解散による残余財産の分配

四  当該法人の自己の株式又は出資の取得(金融商品取引法第二条第十六項 (定義)に規定する金融商品取引所の開設する市場における購入による取得その他の政令で定める取得及び第五十七条の四第三項第一号から第三号まで(株式交換等に係る譲渡所得等の特例)に掲げる株式又は出資の同項に規定する場合に該当する場合における取得を除く。)

五  当該法人の出資の消却(取得した出資について行うものを除く。)、当該法人の出資の払戻し、当該法人からの社員その他の出資者の退社若しくは脱退による持分の払戻し又は当該法人の株式若しくは出資を当該法人が取得することなく消滅させること。

六  当該法人の組織変更(当該組織変更に際して当該組織変更をした当該法人の株式又は出資以外の資産を交付したものに限る。)

2  前項に規定する株式又は出資に対応する部分の金額の計算の方法その他同項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

相続人が相続により被相続人から取得した非上場株式を、相続開始後3年10ヶ月以内(相続税の申告期限の日の翌日以後3年以内)に発行会社に譲渡した場合には、みなす配当課税が適用されないという特例があります。その人が株式の譲渡の対価として発行会社から交付を受けた金銭の評価額が、その発行会社の資本金等の額のうちその譲渡株式に対応する部分の金額を超えるときであっても、その超える部分の金額は配当所得とはみなされず、発行会社から交付を受ける金銭の全額が株式の譲渡所得に係る収入金額とされます。

(相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例)

租税特別措置法第九条の七

相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下この項において同じ。)による財産の取得(相続税法 又は第七十条の七の三 の規定により相続又は遺贈による財産の取得とみなされるものを含む。)をした個人で当該相続又は遺贈につき同法 の規定により納付すべき相続税額があるものが、当該相続の開始があつた日の翌日から当該相続に係る同法第二十七条第一項 又は第二十九条第一項 の規定による申告書(これらの申告書の提出後において同法第四条 に規定する事由が生じたことにより取得した資産については、当該取得に係る同法第三十一条第二項 の規定による申告書)の提出期限の翌日以後三年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格(同法第十九条 又は第二十一条の十四 から第二十一条の十八 までの規定の適用がある場合には、これらの規定により当該課税価格とみなされた金額)の計算の基礎に算入された金融商品取引法第二条第十六項 に規定する金融商品取引所に上場されている株式その他これに類するものとして政令で定める株式を発行した株式会社以外の株式会社(以下この項において「非上場会社」という。)の発行した株式をその発行した当該非上場会社に譲渡した場合において、当該譲渡をした個人が当該譲渡の対価として当該非上場会社から交付を受けた金銭の額が当該非上場会社の法人税法第二条第十六号 に規定する資本金等の額又は同条第十七号の二 に規定する連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となつた株式に係る所得税法第二十五条第一項 に規定する株式に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額については、同項 の規定は、適用しない。

2  前項の規定の適用がある場合における第三十七条の十第三項及び第三十七条の十二第二項の規定の適用については、これらの規定中「の金額」とあるのは、「の金額(第九条の七第一項の規定の適用を受ける金額を除く。)」とする。
3  第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。

私見では、経済上は、資本金等は、貸付け元本のフィクションであり、利潤の源泉にはなるが、利潤を産むのは、架空商品の保有のフィクションや交換ではなく引き渡すまでの労働者による労働であり、労働の評価を無にするからであり、譲渡収入から控除できないと思うのですが、法律上は、上記のようになっています。

この場合の非上場株式の譲渡による譲渡所得金額を計算するに当たり、その非上場株式を相続又は遺贈により取得したときに課された相続税額のうち、その株式の相続税評価額に対応する部分の金額を取得費に加算して収入金額から控除することができます。
ただし、加算される金額は、この加算をする前の譲渡所得金額が限度となります。

所法25、法法2、措法9の7、37の10、39、措令5の2、25の16、措規18の18、復興財確法9、13

確定申告書には、下記の書類の添付が必要となります。

1 相続税の申告書の写し(第1表、第11表、第11の2表、第14表、第15表)、

2 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書、3譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書[土地・建物用])や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書

2の計算明細書を利用すると、取得費に加算される相続税額を計算することができます。

所法33、38、措法39、措令25の16、措規18の18

整地費用、地盛り費用

土地の埋立てや土盛り、地ならしをしてもらって支払った造成費用(人件費。材料代も突き詰めれば人件費である。)

設備等の費用、改良費

下水道、よう壁の設置費用

建物の増築・改築の費用、給湯やクーラーの設置費

庭木、造園、車庫を造ったときの人件費

購入物件を探したときの交通費

訴訟費用

例えば所有者について争いのある土地を購入した後、紛争を解決して土地の所有権を確保した場合に、それまでにかかった訴訟費用は取得費に含まれます。

なお、相続財産である土地の遺産分割にかかった訴訟費用等は、取得費になりません。

借入金利子

土地や建物を購入して借り入れた資金の利子のうち、その土地や建物を実際に使用開始するまでの期間に対応する部分の利子は、取得費に含まれます。当該利子は、労働できる状態にするまでの過程にあるものが労働の準備に当たるからです。

例えば、借入金で購入した土地や建物を全く使用することなく売ったときは、借り入れた段階から売ったという労働の完了の段階までの利子が全額取得費に含まれます。
なお、使用開始する日までの期間に対応する利子の額であっても、事業所得や不動産所得などの必要経費に含めた借入金の利子は取得費に含めることはできません。

使用開始の日は、土地建物、機械等を自己を含む労働力に貸付けて家事を含む労働をさせた段階を言います。

所法33、38、所基通38-8、38-8の2

違約金

既に締結されている土地などの購入契約を解除して、他の物件を取得することとした場合に支出する違約金は、取得費に含まれます。

立退料、移転費用

借主がいる土地や建物を購入するときに、借主を立ち退かせて、その際に支払った立退料、移転料は、取得費に含めることができます。
立退料を支払うことで、その不動産を借りて労働者に貸付けて労働させて利潤を産み出すことができるからです。

建物の取壊し費用

建物付の土地を購入して、その後おおむね1年以内に建物を取り壊すなど、実際に土地を貸し出して労働をさせて利潤を産み出した場合の建物の購入代金や取壊しの費用

所法33、38、所基通37-5、38-1、38-2、38-8、38-9、38-9の3~38-11、49-3、60-2

特定の土地等の長期譲渡所得の特別控除

土地の譲渡に関しては、下記のように特定の場合には、必要経費にプラス特別控除をすることができます。

平成21年1月1日から22年12月31日までに土地を取得して(配偶者その他特別な関係の者からの取得、相続、遺贈による取得は除く)、その年の1月1日において所有期間が5年を超えるものを譲渡した場合には、その旨を申請したことを要件に譲渡所得から1,000万円を控除することができます(マイナスになる場合は0になるまで控除)。

法律の書き方からしても、また分割譲渡の場合に適用を妨げる旨の規定がないことからしても、連年で土地を分割で譲渡した場合も同規定の適用を受けることを妨げるものではありません(租税特別措置法35条の2)

第三十五条の二

個人が、平成二十一年一月一日から平成二十二年十二月三十一日までの間に取得(当該個人の配偶者その他の当該個人と政令で定める特別の関係がある者からの取得並びに相続、遺贈、贈与及び交換によるものその他政令で定めるものを除く。)をした国内にある土地又は土地の上に存する権利(以下この項及び次項において「土地等」という。)で、その年一月一日において第三十一条第二項に規定する所有期間が五年を超えるものの譲渡をした場合には、その者がその年中にその譲渡をした土地等の全部又は一部につき第三十三条から第三十三条の三まで、第三十六条の二、第三十六条の五、第三十七条、第三十七条の四、第三十七条の七又は第三十七条の九の四の規定の適用を受ける場合を除き、これらの全部の土地等の譲渡に対する第三十一条の規定の適用については、同条第一項中「長期譲渡所得の金額(」とあるのは、「長期譲渡所得の金額から千万円(長期譲渡所得の金額のうち第三十五条の二第一項の規定に該当する土地等の譲渡に係る部分の金額が千万円に満たない場合には、当該土地等の譲渡に係る部分の金額)を控除した金額(」とする。

2 前項の土地等の譲渡には、譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けを含むものとし、所得税法第五十八条の規定又は第三十三条の四 若しくは第三十四条から前条までの規定の適用を受ける譲渡を含まないものとする。
3 第一項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする年分の確定申告書に、同項の規定の適用を受ける旨の記載があり、かつ、同項の規定に該当する旨を証する書類として財務省令で定めるものの添付がある場合に限り、適用する。

4 税務署長は、確定申告書の提出がなかつた場合又は前項の記載若しくは添付がない確定申告書の提出があつた場合においても、その提出又は記載若しくは添付がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類及び同項の財務省令で定める書類の提出があつた場合に限り、第一項の規定を適用することができる。