[事実関係]
請求人が、業務主宰役員関連者である乙の有する請求人の株式が業務主宰関連者以外の者である丙に贈与されたことは、乙と丙の間で取り交わされた株式贈与契約書からも明らかであるから、請求人は、法人税法35条1項に規定する特殊支配同族会社に該当しない旨を主張したところ、審判所は、「原処分庁の調査時の状況からすると、本件株式贈与契約書は、その記載日に作成されたものとは断定できず、仮に、当該調査時に本件株式贈与契約書が存在していたとしても、本件株式贈与契約書の乙の氏名の箇所の押印は、代表取締役である甲がしたものと認められ、乙は、甲から本件株式の贈与の事実を聞かされていないと認められるから、本件贈与契約書は、株式の移転があったことを示す証拠にはならないというべきである。」とした上で、
「請求人は、いわゆる株式不発行会社であるから、請求人の株式であるか否かは、一義的には、請求人の株主名簿の記載によって判定されるところ、請求人の株主名簿には、甲及び乙の氏名が記載されているのみであり、乙の氏名が記載された事実はなく、また、本件株式の贈与者とされる乙及び受贈者とされる丙に対して贈与の事実が伝えられた事実や、丙に対する請求人の定時株主総会への招集通知など、丙に対して実際の株主としての地位が与えられた事実も認められないことからすれば、乙の有する本件株主が丙に贈与されたとは認められない。したがって、請求人は、特定支配同族会社に該当するから法人税法35条1項の規定により、業務主宰役員の給与の額の内、一定額が損金の額に算入されないこととなる」とした(平成26年9月4日裁決)。
[解説]
受贈者側の知・不知は実体のない観念である。事実確定の基礎とはなりえない。労働の疎外を土台とした利潤に付与された価値のおこぼれを享受しているのは、いかなる経済実体かから、架空資本がどの経済実体に付与されたかを決めなければならない。丙は、議決に参加していないから、現実にも、法人資本から資本、生産手段を貸し出された、生産関係のある労働者にすぎない。株式は、いかなる法人であっても、現実には発行されることはなく、オンライン上、又は書面上で付与され、付与された経済実体が記載されることで、実体化させ、社会に認めさせている。法人との生産関係に基づいているのではなく、資本関係に基づいて業務や利益の処分を主宰することを余儀なくされているのであるから、役員給与の内の一定額は、資本関係に基づいて利益配当をしたものということができ、損金には算入されないということになるであろう。