[事実関係]

請求人は、酒の製造販売を業とし、本件各事業年度において、法人税法第2条第10号に規定する同族会社に該当し、平成20年2月期、21年2月期及び22年3月期においては、法人税法第35条に規定する特殊支配関係同族会社に該当した。

請求人の代表取締役は、平成21年6月29日の臨時株主総会で、代表取締役を退任し、取締役になったことに伴い退職慰労金を支給する旨の決議をし、本件代表取締役は、平成21年6月30日に辞任した旨の登記がされている。

平成21年9月11日に、本件代表取締役に退職慰労金を支給し、22年2月期に役員退職金の科目で損金の科目で損金の額に算入した。

本件各事業年度につき、原処分庁職員の調査に基づき、平成23年6月29日付で役員給与及び退職慰労金の額に不相当な高額な金額があるとして更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分が行われた。

審判所は、常勤役員が非常勤役員になったこと、給与が50%以上減額したことの他に、法人にとって不可欠の業務を行っていたかを勘案して更正処分を維持した(国税不服審判所沖縄事務所平成24年12月18日裁決)。

敷衍すると、

「内国法人がその役員に対して支給する退職給与については、法人税法第34条第3項の規定があるものを除き、同条第2項の規定が適用され、同項は、その役員に対して支給する給与の額の内、不相当に高額な部分の金額は、損金の額に算入しない旨規定しているところ、役員退職給与とは、その支出の名義いかんに関わらず、役員が会社又はその他の法人を退職したことにより支給される一切の給与と解するのが相当である。

ところで、役員が実際に退職していない場合であっても、法人が役員の分掌変更等に際して役員退職給与を支給した場合において、その分掌変更等が、例えば、常勤の役員が非常勤になったことなどにより、その役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる(法人税基本通達9-2-32。以下、本件通達という。)。

本件は、企業において、役員の分掌変更等を実質的に退職したと同様の事情があるとみて退職給与を支給する慣行があることから、このような企業実態に配慮して、一定の要件の下に退職給与として損金算入することを認める旨を明らかにしたものであり、当審判所においても相当と認める。

また、退職給与については、法人税法上の定義はないが、所得税法上、退職所得となる「退職手当等」とは、本来退職しなかったならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時的に支払われることとなった給与と解され(所得税法30条1項、所得税基本通達30-1)、

「退職により一時に支払われる給与」に当たるというためには、①退職すなわち勤務関係、あるいは、委任関係の終了という事実によってはじめて給付されること、②従来の継続的な勤務に対する報償金ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること、及び、③一時金として支払われることの要件を備えることが必要であり、

また、形式的には、当該各要件の全てを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするもの含まれると解される(最判昭和58年9月9日)。

そして、役員の分掌変更等に際して支給された金員が退職給与として取り扱われなければ、当該金員は、法人税法34条1項1号ないし3号に規定する定期同額給与、いわゆる事前確定届出給与又は利益連動給与のいずれかに該当しない限り、損金の額には算入されず、また、当該金員が退職給与に取り扱われる場合であっても、同条2項に規定する高額な部分の金額は、損金の額に算入されないこととなる。

一定の要件の下に退職給与として損金に算入することを認める旨の特例を定めた本件通達は、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合の例示として、①常勤役員が非常勤役員になったこと、②分掌変更後の役員の給与がおおむね50%以上減少したことを挙げるが、

同族会社等における悪用を想定し、課税上の弊害を防ぐ観点等から、①については、「常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが、実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められるものを除く」、②については、「その分掌変更等の後においても、その法人の経営上主要な地位を占めていると認められているものを除く」と明記している。

そうすると、単に常時勤務しなくなったということや、給与が半分以下となったというだけで、退職したと同様の事情にあると認められるものでないことは明らかであり、法人の経営上主要な地位を占めているか否かは、必ずしも、いわゆる経営判断をするか否かによってのみ判断されるとするのは相当でなく、同族関係者のみが役員であるような同族会社においては、当該法人の実情に応じて当該法人に不可欠な業務を行うものか否かを考慮することも合理性があるといえる。」とし、

「前取締役は、請求人の主力商品を開発し、請求人の売上は増大した。請求人は、酒の製造販売を業とし、主力商品の売上が業績に大きく関わることからすれば、その製造管理は、請求人にとって、重要な業務であるところ」として、請求人が分掌変更した後における前代表取締役の月額報酬を、請求人に常勤しているとする取締役の給与月額を比較して、その報酬月額は、

「請求人における商品の管理に関する技術的な指導が重要な業務であることの証左と認められる
。」とした。

審判所は、更に、

「前代表取締役は、分掌変更において請求人への工場への出勤が月に3,4回程度になると共に、役員給与の額が3分の1になっていることが確認されるが、銀行から3億円の融資を受けるに当たり、平成22年6月に同行職員との面接に参加したり、請求人における地位を保っていた。

請求人の定時総会等は、議決権の3分の1以上を有する株主の出席を求め、出席株主の議決権の過半数をもって決議するとしているところ、前代表取締役は、請求人の発行済株式総数の2分の1を超える持株があることから、請求人の定時株主等は、前代表取締役の出席なくしては開催できず、かえって、前代表取締役のみで開催し決議できることからしても、前代表取締役は、請求人において、本件分掌変更後もなお、一定の影響力のある地位を占めていると認められる。

以上を総合的に勘案すると、本件役員は、本件分掌変更後において、給与の額が半分以下になり、また、常時勤務していないとしても、請求人にとって不可欠な業務を行い、影響力のある地位を占めていると認められるから、本件役員は本件分掌変更により、実質的に退職したと同様の事情にあると認められない。

したがって、本件金員は、退職したことに起因して一時的に支払われる給与、すなわち、役員退職給与として取り扱うことはできない。

[解説]

本件は、沖縄の酒造メーカーが、平成21年6月の臨時株主総会で代表取締役から代表取締役に分掌変更した役員に退職慰労金を支給する決議をしたとする文書を作成し、支給された架空資本に価値属性を付与して、21年9月に流出させたとし、損金算入し、また、同族関係の役員4名に役員給与を増額する旨の決議を19年2月期から22年9月期分作成し、損金算入したところ、19年2月期から22年2月期の法人税について、国際金融資本は、銀行を通じ、上記役員退職慰労金と役員給与に不相当に高額な金額が含まれるとして税務署長に更正処分を行わせたというものである。

経常利益を役員給与の増額によって減少させていること、役員という属性が付与されていない使用人(パート、アルバイトを除く)の一人当たりの給与は、役員給与が増額された事業年度の前事業年度18年2月期を100とすると、19年2月期が99.1、20年2月期が96.4、21年2月期が103.1、22年2月期は85.9と21年2月期を除いては給与は減額している。

分掌変更のあった役員の労働は、分掌前は、製造管理、技術指導であり、分掌変更後は、資本、生産手段を経済上手離して借入をして労働者に貸し付けをフィクションして、疎外労働をさせて資本増殖をさせ国際金融資本の利益に貢献させることであった。

利潤を産み出したのは、労働者である。労働の評価は全て行い、全てを支払わなければならない。労働者は債権者である。利益の額が減少していることをもって、評価を下げてはならない。

当該役員は、使用人であるものの、生産労働はしていなかった。使用人の労働が疎外され、労働力商品として支給された金員に低い価値属性が付与されて、資本を増殖させ、分掌変更を行って、分掌変更前後において定時の給与と分掌変更の段階で資本関係に基づいて資本が資本に利益を配当したということになるであろう。

法人の資本は、同族関係者に配当することなく、同族でない使用人にも、労働を疎外することなく現実の労働に基づいて支給金員に価値属性を付与していれば、法人税という後付の方便で国債の返済を負担を増加させられずに、国際金融資本が民間銀行への投融資を通じた中央銀行の架空資本の交付を受けたことを源泉とする架空資本の価値属性の付与の権限を抑制し、戦争への投資を抑制することに少しは貢献できたであろう。

[関係条文]

法基通9-2-32

法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際し、その役員に対し、退職給与として支給した給与として支給した給与については、その支給が、例えば、次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情があると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができる。

(1)常勤役員が非常勤(常時勤務していない場合であっても、代表権を有する者及び代表権は有しないが、実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く)になったこと。

(2)取締役が監査役(監査役でありながら、実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令71条第1項5号(使用人兼務役員とされない役員)に掲げる全ての要件を満たしている場合を除く)になったこと。

(3)分掌変更後におけるその役員(その分掌変更の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く)の給与が激変(おおむね50%以上の減少)したこと。

(注)本文の退職給与として支給した給与には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。

(法人税法第34条)

内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与及び第54条1項(新株予約権を対価とする費用の帰属年度の特例等)に規定する新株予約権によるもの並びにこれら以外のもので使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの並びに第3項の規定があるものを除く。以下、この項において同じ)のうち、次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

2. 内国法人がその役員に対して支給する給与(前項又は次項の規定の適用があるものを除く。)の額のうち、不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の損金の額に算入しない。

所得税法30条1項

退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において退職手当等という。)に係る所得をいう。