[事実関係]

 松下電器産業は、1966年4月1日に福祉年金制度を創設し、本件年金制度は、退職者が預け入れた退職金の一部と松下がそれを一定の利率で運用して得た運用益とから、それらの残高がゼロになるまで支給される基本年金と基本年金終了後に支給される終身年金からなる。

松下は、預かり原資を他の社内資金と区別した管理、運用はせず、利息相当分と終身年金は松下の事業資金から支給されていた。本件年金制度の根拠である年金規程には、「将来、経済情勢もしくは社会保障制度に大幅な変動があった場合、あるいは法制面での規制措置により必要が生じた場合は、この規程の全面的な改定または廃止を行う」との規定がある(23条1項)。

原告X1、X2は、退職時に本件年金規程の定めに従い、年金額、支給期間(20年間)、預かり原資、給付利率8.5%~9.5%、支給日等を定めた年金契約を締結した。

年金制度創設当初の給付利率は10%であったが、松下労組との協定に基づく1996年4月の本件年金規程の改定により、段階的に7.5%へと引き下げられた。松下の業績はバブル経済崩壊後、諸々のコスト削減策を講じたが回復しなかった。

松下電器がその事業資金で支給する基本年金の利息相当分と終身年金との合計額は年々増加していた。
松下電器は、2002年4月に、本件年金制度を現役従業員について廃止し、市場金利連動型のキャッシュバランスプランを導入した。

退職者については、書簡の送付や説明会を行い、経過措置を追加した上で同年9月13日付書面で、本件年金規定を改定して給付利率を一律2%引き下げ、同月分以降の年金額を減額する旨をX1らに通知し、本件改定を実施した。</p>

1審は原告の請求を棄却し、控訴審は、

「福祉年金契約については、年金規定が福祉年金制度の規律としての合理性を有している限り、松下電器の各退職者において、年金規程の具体的内容を知っていたか否かにかかわらず、年金規程によらない旨の特段の合意をしない限り、福祉年金規程に従うとの意思で年金契約を締結したものと推定するのが相当であり、その契約内容は、年金規程に拘束されると解するべきである。」とし、

年金規程の加入者との間の福祉年金契約の内容となるという機能との関係では、

「具体的な権利義務が既に発生しているから、その不利益変更は、本来信義則に反することであり、加入者の利益を代表する組織があるわけでもない。

そうであれば、年金規程を改定して加入者の権利を変更する要件としての経済情勢の変動は、改定の必要性を実質的に基礎付ける程度に達している必要があり、改定の程度についても、変更の必要性に見合った最低限度のものであること(相当性)が求められるというべきである。

年金規程23条1項の経済情勢には費用負担者である松下の状況も含むと解すべきところ、1996年4月の本件協定締結以降の諸事情によれば、本件改定当時、松下の業績は本件協定当時の予測を著しく下回って悪化しており、本件年金制度の従来通りの維持は困難と推認され、2002年4月1日以後の退職者に対する本件年金制度の廃止によって、世代を異にする従業員間の公平の維持という本件年金制度の前提が失われたこと、本件年金制度を含むコストを製品価格に転嫁しているとの批判があったことに照らすと、松下の総資産がなお大きいことなどを考慮しても、概ね平成8年以降経済状況からみて、本件改定当時、規程23条1項にいう『経済情勢に大幅な変動があった場合』との要件に該当すると解することができ、本件年金制度を一律2%引き下げる必要があったものと認められる。」として、

本件改定後の給付利率は、原資である退職金を他の方法で運用するよりもかなり有利な水準であること、

年金額の減額幅の大きさを考慮してもX1らの生活自体が本件改定により極めて深刻な影響を受けるともでは言い難いこと、

松下が前記事実の記載の周知や経過措置の追加を行ったことにより、加入者総数に対する本件改定についての賛成者の割合は最終的には95%になったことを挙げて、

「本件改定は、X1らの退職後の生活の安定を図るという本件年金制度の目的を害する程度のものとまでは言えず、松下は、本件改定の実施に先立ち、不利益を受けることをになる加入者に対し、給付利率の引き下げの趣旨やその内容等を説明し、意見を聴取する等して相当な手続を経ているから、本件改定については、相当性もあったと認められる」とした(大阪高判平成18年11月28日)。

[解説]

 年金契約、年金規程には機能という属性は備わっていない。司法は、松下の業績について、実体のない観念たる予測を持ち出し、予測を著しく下回って悪化との価値属性を付与して、年金減額を行う資本を擁護する。

司法は、労働者の生活の土台となる経済を疎外して資本関係を土台に創設された制度の意図、法の目的と交渉して、資本の利益を優先する。

国際金融資本は、現金を源泉に、現金を貸与し、生産手段を資本に購入させ、労働が疎外され、疎外された労働が製品に転嫁されている。

製品が現金商品と交換されることが確定し、中央銀行を所有する民間金融機関の所有関係から、年金の名目で、利子、配当、租税の支払と共に、労働者に転嫁されることにより、労働は再疎外され、国際金融資本に所有された年金基金に預託された現金、架空資本は、現実には信託であって、国際金融資本の所有となり、利子、配当、租税、資本関係を土台とした発行紙幣と共に、石油、原子力、戦争産業に投融資されてきたという現実がある。

運用利回りは後付の方便である。資本は、生産手段を購入して労働の疎外を行わってリターンを産まない労働者に現金を支給しないのである。

再疎外された後に労働力商品は現金商品と交換され、現金商品に価値属性が付与され、それを土台に労働力による再生産を余儀なくされた。

既に労働力再生産の労働を余儀なくされた、資本の所有の、資本によって規定された女性と退職により生産関係を終了した現金を産まない労働力商品には現金を支給しないのである。資本、生産手段を持たず、労働力を売って生産関係に基づいて労働をせざるを得ず、生活の土台となる経済に基づいて労働することができないから、資本の減少の原因は資本にあるのであって、賠償義務は、資本にあるのであって、労働者には存しない。

年金規程の規定を知っているか否かは実体のない観念であって、労働者は、年金規程の規定について知っているか否かに関係なく資本関係、生産関係の存在から年金契約を結ぶ結ばない、規程及びその改定に応じる応じないに意思はない。

既に労働を疎外され続け、退職の段階でも労働が疎外されて退職年金が減額されることにより、資本、生産手段を持たない労働者は、生存、生活ができないのである。

資本は、民間金融機関の架空資本の所有を通じて紙幣発行権、準備金制度を所有しているから、リスクは実体のない観念である。

信義則という実体のない観念に基づく唯心論の問題ではないのである。公平不公平の問題ではない。

よって、資本による退職年金の不利益変更はできないものと解される。

労働者の申込があったかどうかに関係なく、労働者が減額改定を知っていたか否かに関係なく、資本の現金留保に関係なく、労働者は資本と異なり、資本、生産手段を有しないから、現実の労働があったから、利息を含めて疎外された労働、現実の労働については、減額することなく全額支払う義務が資本にはあるのである。

退職年金を減額しない義務の履行の手段として説明や聴聞の手続の過程が存するのであって、納得という実体のない観念を用いて労働者の生活の土台となる経済を疎外する手段ではないのである。23条1項の規定は適用されないものと解される。