[事実関係]
金融業を営む原告法人は、昭和49年9月末日において、Tに金180万1,000円の貸付債権を有しており、右の内金64万6,000円を貸倒損失として損金に算入した法人税の確定申告について、税務署長は、かかる金員は回収不能ではないとして損金計上を否認し更正処分及び加算税賦課決定処分を行った。
裁判所は、
「原告がTに貸付をするに際し、同人が裏書した約束手形3通(振出人がHのもの2通と同Kのもの1通)を受けていたが、右3通がいずれも右事業年度内において不渡りとなったので、その合計額を貸倒損失として計上したものと認められる。
ところで、本件のように債権が法律上消滅しない場合に、これを貸倒れとみるためには、その回収が客観的に不能と認められる状況の存することが要求されるものと解するのが相当であり、回収不能が客観的に明らかとなった場合には、その明らかとなった時点の事業年度において、貸倒れとして損金の扱いをなしうるものというべきである。
原告は、この点につき、貸倒れとして計上した債権は、現実に回収不能となっている旨主張するが、Tは、土地、建物を所有しており、その中には昭和49年当時抵当権等何らの負担も付着していない物件が存在したこと、昭和49年10月以降も原告とTの取引は継続していたこと、原告とTとの取引についてTの債務は同人の兄であるAが金150万円の程度で保証しており、A所有の不動産も存在していたこと、原告は不渡りの約束手形の振出人等に対し支払いを求めることもでき、振出人らはいずれも不動産を所有していたこと等の事実が認められ、これらの事実からすれば、原告が貸倒損失を計上した昭和49事業年度の終日である昭和49年9月30日までに、本件の合計金64万6,000円の債権の回収が客観的に不能であることが明らかであったとは、とうてい認められない。
原告は、このような事情の存否を十分に検討しないまま、約束手形が不渡りとなったことの一事によって、Tに対する債権の一部である右約束手形の合計金額を貸倒れに計上したものと考えざるを得ない。
そうすると、原告が昭和49事業年度分において貸倒損失として計上した金64万6,000円は貸倒れと認められず、また、その他これを損金として計上する事由は存しないものと認めるのが相当である」とする(福井地判昭和59年11月30日)。
[解説]
満期日までの借入利息を土台とする手形割引分64万6,000円は実体がない。不良債権であるとすることは、実体のない属性を現金に付与することである。評価は実体のない価値属性の付与である。
不動産、法人たるAの現金、架空資本たる手形には価値属性は備わっておらず、信用という実体のない価値属性を現金、不動産に付与しているが、現金商品と担保名目の現金、架空資本たる手形、不動産は、交換できる。疎外労働を土台に交換による現金留保に付与される価値は、国際金融資本の資本関係、現金留保義務により規定される。評価は、帳簿事実の肯定、否定であり、事実確定を土台とする。
課税をする側は、課税は労働を疎外し、労働者に租税の支払を転嫁し、国際金融資本家に現金留保を集中させる経済関係、経済過程であるから、債権者が予測できたか否かという観念や客観という観念から回収できるか否かではなく、債権者、債務者の現実の経済関係、資本関係上の事実関係を全体化して経済上の事実確定の土台にする義務がある。
現実に債務者との間に現金を回収できる経済関係を所有していたが事実確定の土台となる。原告は、法律行為を媒介に回収できなかったことを実体あるものとして社会に認めさせることに成功していないことから貸倒損失の計上が否認された。