[事実関係]

ドライブインを営む原告法人は、観光バスの運転手等に支払ったチップを手数料として損金算入していたが、税務署長はこれを交際費に該当するとして損金不算入額に加算して更正処分を行った。

裁判所は、

「本件手数料は、その支出の相手方が原告のドライブインに駐車する運転手等であるから、法63条第5項の事業に関係のある者に当たると解することができる。そして、本件手数料は、運転手等に一人当たり100円100円ないし300円程度の現金を任意に支出するものであり、右の支出により観光バスのドライブインに対する駐車を期待するものであるから、右の金員は運転手の歓心を買うためのチップであって、対価性のない支出であり、その支出の目的は客誘致のためにする運転手等に対する接待であることが明らかである。

したがって、本件手数料は、交際費等に該当すると認めるのが相当である。さらに、運転手等は観光客の便宜と安全性の確認等の目的のため、その業務の遂行として観光バスをドライブインに駐車するのであって、チップの対価として乗客を誘導するものとはいえない。また、運転手等が乗客とドライブインとの間において食事の提供や土産品の購入を媒介し、本件手数料がその媒介行為の対価として支払われたことを認めるに足りる証拠はない。」とした(東京地判昭和50年6月24日)。

控訴審は、

「原告は、本件手数料は交際費等に当たらないと主張するが、ドライブインを経営する原告法人ら同業者は、自己が経営するドライブインにできるだけ多くの観光バスが駐車することにより客が誘致され、売上を伸ばすことができるというところから、駐車した観光バスの運転手にチップとして現金を渡す慣行があり、今後も自己の経営するドライブインに駐車してくれるであろうことを期待して右の現金を渡し、運転手等もこれを期待して右の現金を渡し、運転手等もこれを期待していたもので、右の現金は授受の当事者間でもチップ(心付け)と呼ばれ、のし袋に入れて交付されており、運転手に300円、そのほかバスガイド及び添乗員にもそれぞれ100円及び300円を交付していたのであって、そのようにして支出された本件手数料は、支出の相手方が原告法人ドライブインに駐車した運転手等に限られ、右の支出により運転手等の歓心を買い今後も原告のドライブインに駐車をしてくれることを期待するもので、客誘致のためにする運転手等に対する接待の目的に出たものと認めるのが相当であるから、交際費等に該当するというべきである。

運転手等は、観光客の便宜と安全等の目的のため、その業務を遂行して観光バスをドライブインに駐車させるものであって、運転手にどのドライブインに駐車するかの裁量件はあるにしても、運転手がそのドライブインからチップを支給されることの対価として其処に駐車し乗客を誘導するものとは直ちに認め難いところであるから、その間に対価関係ありとして本件手数料ないし仲介的媒介手数料に該当するものとする原告の主張はにわかに採用し難い」とした(東京高判昭和52年11月30日)。</p>

[解説]

レセプションの事例と異なり、チップの供与の場合、他からの現金以外の商品の購入がない。現金を支出した側は、労働を疎外し、現金留保し、生活に必要という方便を付与により、労賃名目で支給された現金に価値属性が付与され、労働力商品に当該金員で労働力商品、投融資先再生産を余儀なくさせ、取引先への支払を労働力商品に転嫁させているから、取引先への現金の投下が資本関係を土台としたり資本関係の土台となったり、取引先において当該現金を生産手段にして労働を疎外し現金留保できるものでない限りは、取引先に現金を投下した段階で、取引先に支出した側の経費となる。

現金の贈与は、現金を受けた側と投下した側の関係が資本関係であれば、現金を受けた側において、現金を生産手段にして、労働を疎外して現金留保をできるのであれば、資本家への投融資である。

現金を受けた側と投下した側の関係が生産関係であれば、すなわち労働力商品と現金商品の交換であれば、役務提供を受けた側は、支払義務があるから、給与、報酬、手数料である。

当事例は、資本関係がなく、当該支出により資本関係の成立がなく、協定料の契約はあっても、既存の生産関係、労働の実体はあり、チップの支払に自由意思はないのであるが、前払となっていることから運転手と生産関係がなく、労働力商品との交換ではなく、チップは労働を土台としないとされ、取引先に支出をした法人の資本家が使用する労働力商品の労働を疎外し現金留保を蓄積したことをもって交際費とされたのである。

裁判所のいう歓心を買うためという目的や客誘致のためという目的や駐車してくれるということを期待してという主張は実体がない。現金を受ける運転者側の期待や歓心は観念であって実体がない。

客を肉体上経済上損失なく運搬することについての義務はバス法人の資本家と客との間の義務である。チップはドライブインと運転手との間の経済実体上の問題である。既に現金商品と労働力商品の交換という関係が存在するのである。契約があるにもかかわらず、慣行という法則や現象によるものとされてしまったのである。