[事実関係]

原告法人は、昭和58年12月3日、商事法人との間で請負契約を締結し、一時間当たり主蒸気流量90トンのボイラー及び出力1万キロワットの発電機能を有するタービン並びにその据付試運転工事を、請負金額7億2,000万円で発注した。

建設場所及び引渡しについては、契約上、「商事法人は、原告工場内の指定場所に、試運転完了日を昭和60年1月31日として施行する。本件設備は、原告法人の立会いのもとに商事法人が検査及び性能試験を行い、原告法人がこれを確認することをもって、商事法人から原告法人に引き渡されるものとする」とされていた。

さらに、「本件設備の設置認可手続及び官公庁立会試験・検査は、本件設備の引渡しを受けた原告法人の責任において執り行われるものとするが、商事法人はこれらの試験・検査に合格するまで全面的に原告法人に協力するものとする。検収は、右の官庁立会試験・検査をもって行われるものとし、試験・検査の合格日を本件設備の検収日とする。但し、本件設備の引渡し後1か月を過ぎても官公庁立会試験・検査が実施されない場合、これが商事法人の責任によらないときは、引渡期日の1か月後を検収日とする」とされていた。

代金支払については、「原告法人は、商事法人に対し、本件設備の代金を、検収日の4か月後に現金にて商事法人の指定する銀行口座に振り込む方法により支払う。

本件設備の検収後、商事法人は原告と協議の上、右支払期日を満期日とする原告振出しの約束手形の交付を受けることができる」とされていた。

所有権移転については、契約上、「本件設備の所有権は、原告による代金の支払が完了したときに商事法人から原告に移転する」とされていた。原告法人は、昭和59年4月1日から昭和60年3月31日までの事業年度で当該機械設備に係る減価償却費を損金算入したが、税務署長はこれを否認した。

裁判所は、

「請負契約による減価償却資産の取得の時期について完成した目的物の引渡しの時を基準とする場合、機械装置等の設置及び調整を目的とする請負契約において、当該装置を注文者が減価償却資産として取得したというためには、請負人において当該装置の試運転及び調整作業を完了し、当該機械装置等が所期の性能を有することが確認され、これぬ基づいて目的物の引渡しが行われることが必要であると解すべきであり、単に、目的の機械設置等が注文者の工場に設置され、注文者がこれを事実上占有するに至ったというだけでは、請負人の仕事は完成しておらず、注文者において完成した目的物の引渡しを受けたものということはできないと解するのが相当である」として、

「右の解釈について解釈を前提として、本件設備が本件事業年度内に取得されたもんであるか否か」について、

「本件設備の試運転及び調整作業は、性能確認テストにおいて、本件設備が本件契約で定められた所期の性能を有することが確認されたことによって、完了したものであり、したがって、完成された本件設備の引渡しは、右性能の確認に基づいて原告によって検収がされた昭和60年7月12日に行われたものと認めることが相当である。
なお、本件設備について、原告法人が、同年2月27日以降、その管理権を得てこれを運転しているとしても、右の検収が未了であった以上、請負人の仕事は完成しておらず、未だ引渡しがあったとは言えない。

したがって、原告法人が本件設備を取得したのは昭和60年7月12日であるというべきであり、原告法人は、本件事業年度において、本件設備につき、法人税法31条1項の減価償却をすることはできない」とした(名古屋地判平成3年10月30日)。

[解説]

資産は、その発送があった段階で、現金商品と当該資産に付与された価値属性が実体あるものとされ、取得価額を資産計上することを余儀なくされる。

資産に価値属性は備わっていない。資産は所有しているだけでは現金留保をすることができず、生産手段として貸与して労働を疎外することによって現金留保をすることができる。

現金を留保することができたのは資産を稼働して現実に労働を疎外した段階である。資産を取得した側が、資産を生産手段として貸与し、労働を疎外できることが確定した段階は、試運転を行った段階ということになる。試運転の完了を労働の完了としているのである。

ボイラー及びタービンの双方が検収を受けて生産手段として貸与することができるというのが現実であれば、段階で生産手段として貸与することが確定することになる。

金融資本家との資本関係から課された現金留保義務から、一定回数稼働させれば製造し得なくなる資産を製造業者が製造する。資産が発送され取得しただけでは減価償却は計上できない。

金融資本家の資本関係、現金留保義務から耐用年数が規定され、資本家に所有された法人は、資本関係から課された現金留保義務により、資産を生産手段として貸与し労働を疎外した回数という実体に基づかずに、現実には支払義務のある人件費である減価償却を計上し現金留保を余儀なくされている。