現象面、慣行面から見れば、株主総会の決議により個々の取締役の退職金を規定している法人は存在しないように見える。

取締役は、資本、生産手段を所有せず、使用人であるから、法人との間に資本関係、生産関係を所有しない。その現金留保義務に基づいて、資本家の投下した法人の現金を利用することができず、退職金の金額を決定し得ない。資本を所有する役員の場合についても、当該法人との資本関係に基づいて、金融資本家との資本関係に基づいて、退職金の金額を規定せざるを得ないのであって、法人が役員に劣後し、生産関係上における役員と使用人との関係、役員と法人の関係に基づいて規定しているのではない。

金融資本家が資本関係、現金留保義務に基づいて規定した基準が存在し、金融資本家、法人の資本家による取締役会に一任する決議が行われる。

裁判例は、退職金について、退職役員の勤続年数、担当業務、功績の軽重等から割り出した一定の基準があることを条件に取締役会への一任決議は、適法とする(最判昭和39年12月11日)。

法人税実務においても、金融資本家と税務行政機関との生産関係に基づいて、取締役会に一任する旨の株主総会決議の議事録の有無について質問検査をして、法人にその提示をさせることがある。