[事実関係]
原告は、自らが設立し、代表者となっている法人に自己が所有する土地に借地権を設定し、その対価として当該法人から、更地価格の3分の2に相当する権利金を受領した。
判決は、
「比較的近時において、土地賃貸借における権利金授受の慣行は広く一般化し、その額も次第に高額となり、借地法等による借地人の保護とあいまって土地所有者の地位は総体的に弱体化し、多くの場合、借地権の譲渡の承認や機関の更新を事実上拒み得ず、土地賃借権の価額も著しく高額となつた、そして、借地権の設定にあたり借地権の価格に相当するものが権利金として授受されるという慣行が、東京近辺の都市に多く見られ、その額も、土地所有権の価格の半額を上廻る場合が少なくないのである。
借地権設定に際して土地所有者に支払われるいわゆる権利金の中でも、右借地権設定契約が長期の存続期間を定めるものであり、かつ、借地権の譲渡性を承認するものである等、所有者が当該土地の使用用益権を半永久的に手離す結果となる場合に、その対価として更地価格のきわめて高い割合に当たる金額が支払われるというようなものは、経済的、実質的には、所有権の権能の一部を譲渡した対価としての性質をもつものと認めることができるのであり、このような権利金は、旧所得税法の下においても、なお、譲渡所得に当たるものと類推解釈するのが相当である。
右のような類推解釈は、明らかに資産の譲渡の対価としての経済的実質を有するものと認められる権利金についてのみ許されると解すべきであって、必ずしもそのような経済実質を有するとはいいきれない、性質のあいまいな権利金については、法律の用語の自然な解釈に従い、不動産所得として課税すべきものと解するのが相当である」とする(最判昭和45年10月23日)。
[解説]
最高裁は、性質のあいまいな権利金については、法律の用語の自然な解釈に従い、不動産所得として課税すべきものであると解するのが相当である、とするが、権利金に属性など備わっていないから、課税要件を現象としてとらえるのではなく、法的な評価により解釈するのではなく、経済関係から解釈することが、法律の解釈、法への包摂への土台となる。
最高裁は、「法律の用語の自然な解釈に従い」といかなる理由により不動産所得に該当するのかを示していないのである。
恰も、法解釈について、土台となる経済上の事実関係に遡ることが認められず、法解釈が、解釈の基となる取引、事実関係が、宗教学による法則に基づいたものでなければならないかのような判示である。
「許されるべき」と恣意に基づいて判示を行っているのである。
土地には価値という属性は備わっていない。現実には、借主の留保所得は、現金の投融資、生産手段の貸与、労働の疎外という過程によって生まれる。底地に高い価値を産む力があるかのような方便により、借主は貸主に高い地代を支払わされ、借地権に低い価値属性が与えられる。
底地に低い価値属性を与え、借主が貸主に低額の地代を支払い、借地権に高い価値属性を与える。
借地権に付与された価値属性、地代の価値属性は、貸主と貸主の資本関係により規定される。現行法においては借地権の設定にあたって支払いを受ける権利金の額が土地の価額の2分の1を超える場合には、権利金が譲渡しうるものか否かに関係がなく、不動産所得ではなく譲渡所得であるとされ(33条1項括弧内、所令79条)、税負担緩和措置が採用されている。
法人が所有する借地権を合併又は分割に伴い合併法人又は分割承継法人に移転した場合には、合併又は分割があった時の価額により譲渡があったものとされるが(法人税法62条1項)、その移転が適格合併(法2十二の八)又は適格分割型分割(法2十二の十二)により移転した場合は、その直前の帳簿価額により引き継ぎがあったものとし、適格分社型分割(法2十二の十三)又は適格現物出資(法2十二の十四)により移転した場合は、その直前における帳簿価額による譲渡があったものとされている(法人税法62条の3、62条の4)。
持株法人、金融機関を所有する国際金融資本家は、所有する持株法人、金融機関の配当課税を譲渡課税とすることで、簿価譲渡とすることで免れ、現金留保を蓄積し、投融資を行っているのである。
所得税法上の法人たる資本家が、現金に価値属性を込めて更地に投資し、購入した更地、底地に価値属性を与えて更地を法人に現物出資して、生産手段を貸付け、所有する法人が労働を疎外して留保し現金を収受し、収受した現金に価値属性を込めて投資した現金、借地と底地に付与された価値属性は実体あるものとして社会に認めさせている。
法人の資本家は、現実には、所有する法人から配当を受けていることになるのであって、更地に投資した金額の内の、借地権引渡し時の更地の時価に占める借地権設定の対価として収受した金額を譲渡所得の必要経費に算入して課税を免れていることになる。
生産関係上の義務に価値属性を与え、それを土台として土地を譲渡して代物弁済して、土地に価値属性を与えて債務を実体があったとする経済関係とは異なるのである。
担保資産の提供は、現金留保義務を土台とした生産手段の貸与ではない。担保資産の提供により受けた現金は返還せざるを得ないが、借地権の対価として収受した金銭は返還不要が確定する。立退料の土台となる経済関係は権利金収受の土台となる経済関係とは異なる。