国税通則法改定前から、審査決定には青色申告であろうと白色申告であろうと裁決の通知書にはその理由附記が義務付けられていた(国税通則法84条)。
(国税通則法第84条)
4. 異議決定書には、決定の理由を附記し、異議審理庁が記名押印しなければならない。
5. 異議申立てについての決定で当該異議申立てに係る処分の全部又は一部を維持する場合における前項に規定する理由においては、その維持される処分を正当とする理由が明らかにされていなければならない。
裁決において理由附記がされたことをもって、更正処分の理由附記についての瑕疵が治癒されるか否かについては、下記の裁判例がある。
[事実関係]
裁判所は、
「本件更正処分の通知書には、更正の理由として
「建物譲渡損の否認金 58万7,594円 建物の譲渡益 1万2,406円、借地権計上洩れ金 330万円、寄附金超過取消金 60万3,042円」と記載されていた。
右記載によっては、右借地権の点につき、被上告人において、その借地権がどのようなものか、その価額が何故に、課税対象として計上されるのであるか等を知ることができないというほかないのであって、原判決が再更正処分の附記理由には、不備の違法があるとした判断は正当として首肯することができる。
法人税法31条3項[同族会社等の行為計算の否認規定]を適用して更正処分をする場合には、その旨の理由附記が必要とされないのであるし、また、申告者の帳簿等の記載を否定して更正する場合とは異なり、附記理由としてせいぜいのところ、加除算科目と金額とを附記すれば足りるというが、
右31条の3を適用して更正処分をする場合にも、同法32条後段の規定により理由を附記すべきものと解すべく、また、元来、右32条後段の規定は、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制すると共に、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解すべきところ、本件再更正処分に附記された前記理由においても、そもそも、所論の借地権について帳簿の記載に誤りがあるという趣旨であるのか、あるいは、所論のように、前記31条の3を適用した結果であるのかさえ不明であるから、所論は採用できない。
仮に本件再更正処分の理由附記に不備があるとしても、その瑕疵は再調査決定の附記理由によって治癒されたというが、法人税法32条後段の規定が前記説示のとおりであることに鑑みれば、再調査決定の附記理由が仮に不備でなかったとしても、これにより遡って更正処分の不備が治癒されると解することができない」とした
(最判昭和47年3月31日)
次の例においても理由附記の瑕疵の治癒については、審査請求において処分の具体的根拠が明らかにされても、それにより治癒されるものではないと解すべきであるとされている(最判昭和47年12月5日)。
上記裁判例について敷衍すると、
税務署長は、昭和38年2月28日に原告に対して、昭和34年10月1日から12月31日の事業年度の所得について更正処分を行った。
その更正通知書の理由欄に、
「貴法人備付の帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがありと認められますから、次のように申告書に記載された所得金額等に加算して更正しました。
加算(1)営業譲渡補償金計上もれ、1,155
(2)認定利息(代表者)計上もれ 1万9,839円
清算所得 加算(3)残余財産価格の違算分 4,000円
(4)代表者仮払金 39万6,890円
(5)営業譲渡補償金 905万円 」と
記載されているにすぎない。
裁判所は、
「(3)を除く前記加算項目の記載から更正理由を理解することは到底不可能であり、それが何故に被上告会社の課税所得に加算されたのか等の具体的根拠を知るに由ないものといわざるをえない。
してみると、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制すると共に、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立ての便宜を与えることを目的として更正に附記理由の記載を命じた前記法人税の規定の趣旨に鑑み、本件更正の附記理由には、不備の違法があるものというべきである。
更正に理由附記を命じた規定の趣旨が前示のとおりであることに徴して考えるならば、処分庁と異なる機関の行為により、附記理由の不備の瑕疵が治癒されるとすることは、処分そのものの慎重合理性を確保する目的にそわないばかりでなく、処分の相手方としても、審査請求によってはじめて具体的な処分の根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができないという不利益を免れない。
そして、更正が附記理由の不備の故に訴訟で取り消されるときは、更正期間の制限により、新たな更正をする余地のないことがあるなど、処分の相手方の利害に影響を及ぼすのであるから、審査請求に理由が附記されたからといって更正を取り消すことが所論のように無意味かつ不必要なこととなるものではない。
それゆえ、更正における附記理由不備の瑕疵は、後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより、治癒されるものではないと解すべきである」としたのである。
[解説]
異議申立てについての決定や審査請求についての裁決において、更正処分通知書で理由附記に欠缼、瑕疵、実体やその土台となる経済関係、現実の課税処分過程から乖離した理由附記があった場合にそれらを治癒できるか、理由を差し替えることができるかであるが、
課税関係は、現実には、税務署長や不服審判所長といった行政機関を雇用する金融資本と劣後金融資本、産業資本に税負担を転嫁されている労働者との間にある、既存の、資本関係の御主人様である架空の紙切れ、搾取の源泉たる現金留保の過程にある資本関係、生産関係(労働の疎外)、経済関係を疎外して、金融資本の既存の現金留保関係に基づいて資本関係、経済関係、労働の疎外が形成すなわちフィクションされることがある、反対給付のない現金留保の収奪という暴力を伴うものであるから、
全ての経済関係を把握し、全ての問題提起を行い、経済関係を確定して、法解釈、法への包摂を行う義務があるから、この過程に一つでも欠けているものがあれば、課税処分は実体あるものと社会に認めさせることができない。
よって、異議決定や審査請求の裁決における理由附記の欠缼、瑕疵、理由の差し替えはできず、処分を取り消し、調査をし直して処分をし直さなければならないであろう。 理由附記の趣旨目的と交渉して認められないのではなく、恣意と交渉せず、現実の経済諸関係についての事実関係の全体化をして、理由を附記して、実体のない処分をしないという義務から、理由附記の瑕疵、欠缺の治癒、追完、理由差替えは認められないのである。