[事実関係]

 金融業を営む法人は、代表者が資本金を全額出資し、他の株式は名目上のもので、所有していた銀行株を225円で譲渡したことにつき、税務署長は、本件株式の譲渡は時価よりも低廉でなされたものであり、法人税法22条2項の規定により、時価との差額を益金に算入すべきとし、譲受人は、法人から時価との差額に相当する金額の経済的利益の享受を受けたとして、その経済的利益を法人からの認定賞与として更正処分を行った。

第一審は、法人税法22条2項は、正常な対価で取引を行った者との間の負担の公平を維持するために、無償取引からも収益が生ずることを擬制した創設的な規定であるから、外部からの経済的な価値の流入の有無は問題とならないとし、本件株式の譲渡の対価は、債務の減少額であり、収益がないことをもって益金に算入される金額がないということはできないことを判示して、高裁もそれを維持した(宮崎地判平成5年9月17日、福岡高判宮崎支部平成6年2月28日)。

 最高裁は、譲渡時における適正な価額より低い対価をもってする資産の低廉譲渡は、法人税法22条2項にいう有償譲渡に当たるということはいうまでもないが、この場合にも、当該資産には譲渡時における適正な時価に相当する経済的価値が認められるのであって、たまたま現実に収受した対価がそのうちの一部のみであるからといって適正な価額との差額部分の収益が認識され得ないものとすれば、前記のような取扱いを受ける無償譲渡の場合との間の公平を欠くことになるとし、同法37条7項が、資産の低廉譲渡の場合に、当該譲渡の対価の額と当該資産の譲渡時における価額の差額のうちに実質的に贈与したと認められる金額に含まれるものとしていることとも対応するものであるとする(最判平成7年12月19日)。

 

[解説]

 法人は、資本家又は金融資本家から投融資を受け、架空資本を購入する。法人の金銭債権、金銭債権の取得代金債務すなわち現金引渡債務は、現実には、金融資本との資本関係から、有価証券の時価であるとされてしまっているのであって、無償取引から収益が実現し、そこから寄附金を支払ったのではない。

無償譲渡から収益が発生するというのでは、有償譲渡の場合、対価を得て譲渡した取引からも収益が発生し、時価相当額に対価相当額が加算された収益が計上され、現実の経済関係から乖離したものとなる。

現金引渡債務を架空資本で代物弁済を行わざるを得なかったのである。判決にいう適正価格なるものは、株式には備わっていないから株式は実体のない架空資本というのである。

判決は「たまたま現実に収受した対価がその一部のみであるからといって」とするが、現実に収受した対価は、資本家と法人との資本関係が土台である。

代表者、経営者は資本家の使用人であって、法人に投融資した資本家の金を自らの現金留保過程という経済関係を土台に使用することができないから、資本家の現金留保を流出させないことにより経済的利益を供与させられた法人に、流出せざるを得ない経済土台、生産関係がなければ、当該経済利益の供与は資本家に対する配当ということになる。

当該法人における法人と資本家との資本関係を疎外して、金融資本家の経済利得すなわち現金留保過程を土台とする経済関係を基にして価値属性を付与して、金融資本家が劣後金融資本家、産業資本家を買収することを法人税法の規定を媒介に社会に認めさせたものである。