[事実関係]
退職給与の未払計上額が、現実には退職給与に相当するものであるから、法人の損金と見ることはできないとされた裁判例がある(大阪高判昭和50年4月16日)。
[解説]
退職金は、労働の対価とした日々確定する給与であり、生産関係が確立し、労働者は、時間という属性を拘束されざるをえなくさせられたことにより、支払義務が成立し、勤務せざるをえないという事実関係しなわち生産関係が土台となり、退職の事実があったときはじめて成立するものではなく、労働者が賃金を会社に前貸ししている関係にある。事業年度末現在においては、その後の役務提供と現実には疎外されているのであるが、それを土台とする報酬の金額は実体がないから、22条3項2号の解釈、同条項への包摂により費用の見越計上である退職給与引当金とされている。
労働者に生存の土台になる現金、支払手段の現金が現実に支給されていない。役務の提供が行われ、経済上、生産関係上、計算上、契約上確定しても、生存の土台となる現金が現実に収受して手元に行き渡っていないにもかかわらず、所得課税計算の土台となる所得とされることは、現実の経済関係上、生産関係から乖離している。
法人税22条3項2号の括弧書きには「債務の確定しないものを除く」とあるが、同条項1号には、「債務の確定しないものを除く」とは規定されていない。
製造原価を物象化する製造業に投融資する金融資本家は、労働者に支払うことなく、内部留保しているにもかかわらず、損金計上が認めさせることに成功し、税負担を免れることによる内部留保が実現でき、労働者に租税が転嫁されることとなってしまうという問題が、退職給与引当金が税法上廃止された現在でも残存している。