[事実関係]
専修学校の学院長の辞任に伴って支払われた金員が退職金に該当するのか役員賞与に該当するのかについて、原処分庁が辞任後も理事長の職務に就き、一時金は労務の対価でないことから源泉所得税の納税告知処分をしたことにつき、判決文によると、納税者が納税告知処分の取り消しと自主納付分の過誤納付還付金を求めた事案がある。
乙は、原告の理事長、且つ原告の設置した設置する学校の校長であったが、平成15年12月末日付で同校の校長の地位を辞したとして、乙に対し退職金として3億2,000万円を支給し、16年2月10日に、処分行政庁に対し、退職所得であることを前提にした源泉所得税251万500円を納付した。理事長の地位は、平成18年6月5日まで継続し、同日退任した。
原告と乙は、平成16年1月30日本件金員のうち、未払金として計上した2億5,037万6,500円中、2億2,000万円について、乙の信用金庫からの借入れを原告が返済することを約し、原告の乙に対する退職金の一部と相殺することとした。
16年1月1日以降、学校行事において代表として参列すること、乙以外の者が代替することが不可能な職務、国際交流、国内における学会及び産業界との交流、創業者としての学校の歴史の編纂、国際的にIT教育の普及(コンピュータの寄贈と教育者の育成)を行っていたとする。
平成18年3月20日頃、経済産業省が、国が認可する信用保証協会が手掛ける信用保証制度で連帯保証を原則として廃止する方針を決めたことを受けて、H信用金庫は、原告の同金庫からの借入れについて、乙の連帯保証を解除した。
また、同じ頃、M銀行も、原告の同銀行からの借入れについて乙の連帯保証を解除した。
裁判所は、
「所得税法において、退職所得は、「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」に係る所得をいうものとされている(30条1項)。
そして、同法は、退職所得につき、課税対象額が一般の給与所得に比較して少なくなるようにしており、また、税額の計算についても、他の所得と分離して累進税率を適用することとして(22条1項、201条)、税負担の軽減を図っている。
このように、退職所得について、所得税の課税上、他の給与所得と異なる優遇措置が講ぜられているのは、一般に、退職手当等の名義で退職を原因として一時に支給されている金員は、その内容において、退職者が長期間特定の事業所において勤務してきたことに対する報償及びその期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる性質を持つと共に、その機能において、受給者の退職後の生活を保障し、多くの場合いわゆる老後の生活の糧となるものであって、他の一般の給与所得と同様に一律に累進課税の対象とし、一時に高額の所得税を課することとしたのでは、公正を欠き、且つ社会政策的にも妥当でない結果を生ずることになることから、かかる結果を避ける趣旨に出たものと解される。
従業員が退職に際して支給を受ける金員には、普通、退職手当又は退職金と呼ばれているもののほか、種々の名称のものがあるが、それが法にいう退職所得に当たるかどうかについては、その名称にかかわりなく、退職所得の意義について規定した同法30条1項の規定の文理及び退職所得に対する優遇課税についての法趣旨に照らし、これを決するのが相当である。
かかる観点から考慮すると、ある金員が上記規定にいう「退職手当、一時恩給、その他退職により一時に受ける給与」に当たるというためには、それが、①退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること、③一時金として支払われること、との要件を備えることが必要であり、
また、上記規定にいう「これらの性質を有する給与」に当たるというためには、それが形式的には、上記①~③の要件の全てを備えていなくても、実質的にみてこれらの要件を要求するところに適合し、課税上、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきであり、
具体的には、当該金員が定年延長又は退職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変により、精算の必要があって支給されるものであるとか、あるいは、当該勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があることを要する(最判昭和58年9月9日、最判昭和58年12月6日)。
本件において、乙は、平成15年末日の前後を通じ、原告の理事長職に就いており、形式的には原告を退職したとはいえないところ、本件金員が上記①~③の要件の要するところに適合し、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものとして、「これらの性質有する給与に当たるかを検討する。」とした上で、
判決は、辞任後は、教育長として象徴的な職務にとどまり、給与の支払いがなく、給与の金額も56%減額し、嘱託職員契約という雇用契約になったこと、借入の際の連帯保証は金融機関からの求めにより、不自然ではないとした上で、譲渡損失との損益通算が動機であったとしても同時期の退職金の支給までもが違法であるとはいえないとして原処分庁の主張を斥けた(京都地裁平成23年4月14日)。
[解説]
租税は、全資本家に資本関係をフィクションしたする国際金融資本が、法律を媒介に労働者の現金資産、経済利得を収奪するものであり、納税者に自由意思はないから、判決文にいう自主納付ということは成立しない。
判決が租税回避の意図という実体のない唯心論を判決の前提に容れているという問題がある。連帯保証については、自然不自然という宗教の観点ではなく、金融資本との間でフィクションされた資本関係経済関係に鑑みれば、代表者たる労働者は、連帯保証人として金銭を担保にとられ、金融資本の金銭貸付により金融資本に処分権が付与された資産となるという関係が成立しうる。
金融資本との間にフィクションされた資本関係、経済関係から理事長職に留まらざるを得ず、担保資産を金融資本家に現金資産をとられうるという関係にあり続けざるを得なかったという関係は成立しうる。学校における生産関係は、非常勤の嘱託となり、月額報酬が56%減額したと見れば退職という事実があったと見ることも可能である。
しかし、国際金融資本から、資本関係をフィクションされ、労働者に貸付けをフィクションして、労働を疎外し、利潤について国際金融資本のコントロールをうけ、共にコントロールをし、残滓を受け取っていたという経済関係があるのである。
その後の職務を見ても、財界との交流、ITの贈与と、資本の側の一員として経営に参画しており、経済上、退職したとみることは困難であるとも解釈できる。
未払退職債務と引き換えに得る商品の評価と現実にされた商品を弁済に充て労働の疎外を土台にしたそれの評価を比較してその差額が経済上配当に相当するとして実定法上の寄附金に該当するか否かが検討されることとなる。
国際金融資本から前貸しをフィクションされて未払退職金と相殺されているという、弁済手段に関する生産関係上、経済関係上の問題があるから、借入のフィクションにより買ったとされる住宅の評価と退職給与の未払債務の評価との比較衡量になるであろう。
退職した労働力に支給された商品の問題は、実体のない観念である法の趣旨や現実の経済関係と乖離した政策と交渉することなく、資本との経済関係に基づいて未払退職債務の弁済に充てられた商品の評価するという問題と言えるであろう。