[事実関係]

 

 宅地開発業者が行政指導に従い改修工事を行うことを決定し、茨城県知事の開発許可を得て、宅地を造成販売した件で、訴外建設会社に工費を見積もらせ、改修工事は、市は、公共工事とすることとされ、上記見積金額を都市下水路整備負担金として支払うよう求めた。

宅地開発業者は、宅地販売収益に対応する売上原価の金額として損金算入して昭和62年9月期の確定申告を行った。

市は、昭和63年から3年計画で改修工事を行うこととし、宅地開発業者の負担する金額の約3分の1の金額を歳入に計上したが、住民の反対運動に配慮したとの主張により工事を行わなかった。当該法人は、法人税の虚偽過少申告をして法人税を免れたとして起訴された。

 一審は売上原価の損金算入を否認し、原判決は、市との間で法的拘束力を伴った義務として確定するに至っていないとして、売上原価の損金算入を否認したが、最高裁は、近い将来見積金額を支出することが相当程度の確実性をもって見込まれ、事業年度末日の現況によりその金額を適正に見積もることが可能であるとして原判決を破棄し、原審に差し戻した(最判平成16年10月29日)。

[解説]

 経済取引については、取引当事者間双方の各々の金融資本家へ分配せざるを得ない金額、当該法人の資本家、取引先法人の資本家の分配額が、金融資本家との資本関係、金融資本家からの借入がなければ法人株主間の資本関係、経済関係によって、収益からの分配金額が決められ、各法人の労働者の給与が決まるという値段すなわち価値という属性を付与するプロセスに鑑みれば、売上金額、更にその返還不要が確定している段階において売上に対応する費用が既成事実として確定していると見ることができる。

経済取引は、売上金額が確定してから、資産の引渡し、役務の提供が行われる。完成引渡債務が完了する。

収益計上について資本家が社会に認めさせることに成功してきた完成引渡基準によれば、当該改修費用は、前払費用又は棚卸資産となりうるのであるが、行政指導や公共工事とすることや工事を取りやめることは、資本家からの命令によって行われ、宅地開発業者の資本家に、それに従う従わないに自由意思は介在しない。
改修工事の完成引渡しが済んでいなくても、当該宅地販売は、改修工事を行うということを要件に、すなわち改修工事を義務づけて販売しうるものとしている。改修工事を行わざるをえないという義務の土台となる経済関係は形成されており、義務も確定しているのである。

理論に適うか否かによるのではなく、資本関係、経済関係という土台に基づいて改修費用の金額を算定しうる。改修工事に係るコストは、事後コストではなく、販売収益と収益の土台となる労働の疎外を通じた個別対応しうる関係にある費用ということになる。

売上金額を帳簿に記載することは、資本家が商法を媒介に認めさせた法律行為であり、法人の自由意思は介在せず、それに対応する原価も計上せざるをえない。債務が確定されたことを以て、売上原価の損金算入がなされたのであって、一度確定した売上原価の金額が、完成引渡債務が履行されなかったことにより、取り消されたのである。

債務の成立、具体的給付原因たる事実の発生、金額の合理的算定可能性を損金算入要件とする期間費用と売上原価の差異に基づいて、債務が未確定の場合でも、売上原価の見積計上が認められた初めての最高裁判決であるとの把握しているのは的外れである。