[事実関係]

香港に本店がある子会社が特定外国子会社と認定され、主たる事業が製造業に該当し、タックスヘイブン対策税制の適用対象外である卸売業にではないとして更正処分を受けた法人が提起した訴訟の控訴審が行われた(2011年8月30日)。

控訴審も結論としては原審を維持した。

[解説]

原告、被告、司法3者にいくつか問題がある。
原告は、経済活動ないし経済「現象」は私法によって規律されており、課税は、私法上の法律関係に準拠すべきとするが、課税は私法上の法律関係に即してなされるのではなく、経済関係に即して行われる。経済が法を規定するのである。経済関係が存しないところに、経済関係を知ることなしに立法しえない。
商業登記に製造業と記載して登記しており、登記するしないに自由意思はなく、登記により経済上創設した権利、利益を法律上の利益としていることに鑑みれば、法形式か経済実体の重視かという問題は成立しえない。

以上の点から言えば、課税庁側の方が経済関係に即している。香港会社と長安会社は一体のものではなく、別個独立の実在する法人であること、香港会社が中国国内において製造許可を得ておらず、製造によって経済上得た利得を法律を媒介に社会に認めさせることに成功しえないこと、 その土台として、製造を行う、行わせることについて自由意思は介在しえないことを基に議論を組み立てていけば、会社主張の方が経済関係に即しているということになると思われる。

原告側は、 内国法人の益金に算入されうる特定外国子会社について定めた66条の6第1項を適用すると、日本企業の国際競争力を弱める場合には、1項は適用されないという目的論的解釈を採るべきとするが、これは、国際競争力云々という方便による、経済関係を無視した、唯心的恣意的な主張であって採用されえないであろう。租税法律主義や現象と現象の関係を規定する経験則といった上層からの、経済関係から離れた主張を持ち出しても採用されえないであろう。

他方、課税庁も司法も取らんがための目的論から納税者の主張を斥けてしまっているのである。 納税者も課税庁も私法もそれぞれの論拠は非常に弱いものとなっている。