[事実関係]

原告は、染色業及び各種織物の販売を行っていた法人であり、発行済株式総数が2万株、乙(前代表者で丙の子)創業者丙、及び甲(乙の妻で代表取締役)らの同族がその大部分(名義株を丙の出資とすると100%)が交付されている同族法人である。

原告は、平成13年4月1から14年3月31年までの事業年度の法人税の申告に当たって、平成14年3月31日に代表取締役を辞任した乙及び取締役を辞任した丙に対して退職慰労金5,560万円を支払うこととしたとして、本件金員を損金の額に算入して法人税確定申告をした。

原告は平成15年3月31日にされた本件金員の支払に対する同月分の源泉徴収に係る所得税についても退職金として、乙及び丙の所得税を源泉徴収して支払った。

原告の商業登記簿上、平成14年3月31日をもって乙が代表取締役を、丙が取締役をそれぞれ辞任し、同年4月1日、丙が監査役に、甲が代表取締役にそれぞれ就任したとされている。

被告税務署長は、両者の退職の事実がないことを理由に、平成15年7月7日、本件金員を損金の額に算入することは認められないとして、更正処分及び加算税賦課決定処分に係る所得税の納税告知処分に係る所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定をした。

本件更正処分等の通知書には、「当該事業年度において退職の事実がないと認められますので当該事業年度の損金の額に算入されません」との記載があった。

京都地裁は、

「役員退職給与についても法人が損金経理をした金額で不相当に高額でないものに限って損金の額に算入することが認められている(法人税法36条1項)とした上で、
「平成14年4月1日以降も、主要な取引先との実質的対応は乙が担当していたこと、

乙は平成14年4月1日以降も原告の取締役であり、乙の報酬が減額されて乙の妻である甲の報酬は、月額20万が月額45万円に増額されており、両者の報酬額を併せると月額90万円であり、平成13年9月以前の乙の月額95万円と大差がないこと」を挙げ、

「又、丙の報酬も平成14年4月1日以降月額20万円から月額8万円に減額されている。しかし、丙が同族会社である原告の発行済株式の実質的には約4割を有する株主であり、平成14年4月1日以降もその点については変わりがないことに、次のエの疑いがあることも考慮すると、同様に丙の報酬が形式的に半額になったことをもって、丙が原告を退職したのと同様の事情があると認めることができない。」として

「本件事業年度には、保険金等の雑収入があり、上記の雑収入があったことに伴う法人税額の増額を避けるために乙及び丙が原告を退職をしたものとして本件金員の支払をしたという疑いも生じる」とする。

更に、退職給与に当たるか否かについては、

「①退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること、③一時金として支払われることとの要件を備えていることが必要であり、

また、これらの性質を有する給与(同法30条1項)に当たるというためには、それが形式的には、各要件の全てを備えていなくても、実質的にみて、これらの要件を要求することに合致して、課税上、「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とすると解すべきである(最判昭和58年9月9日)」を引用し、

主要な取引先との実質的な対応が引き続き乙が担当していたことから、退職により一時に受ける給与に当たらないとし、

「本件金員は、乙及び丙が、代表取締役及び取締役であることに対する対価として支給されたものであるから、その収入に係る所得は、所得税法上の退職所得としてみることはできないのであって、給与所得(賞与)と認めるのが相当である」とした。

(京都地判平成18年2月10日)。

大阪高裁は、法基通9-2-23(※)について、

「これらの基準のいずれかを形式的に満たしても、他の事情も併せて勘案すると役員としての地位又は職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情があるとは言えない場合にまで、退職給与として取り扱ってよいとは解されない。

退職後も担当する業務の実態が従前と変わっていないことが認められるのであって、主要な取引先との取引でクレーム処理のような実質的対応を含む重要な業務を担当していたこと、常勤の取締役に留まり、新代表取締役と同額の報酬を得ていることなどにより、実質的に退職したと同様の事情があるときと認められない」とした(大阪高判平成18年10月25日)。

※法基通9-2-23

(1)常勤取締役が非常勤役員(常時勤務していない者であっても代表権を有する者及び代表権は有しないが、実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く)になったこと。

(2)取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で、令71条第1項第4号(使用人兼務役員とされない役員)に掲げる要件の全てを満たしている者を除く)になったこと。

(3)分掌変更等の後における報酬が激減(おおむね50%以上)したこと。
[解説]

平成18年2月10日の京都地裁判決以来、役員退職金支給に関して、分掌変更に伴う退職金の損金算入の判定は、常勤役員が非常勤役員になったこと、取締役が監査役になったこと、分掌変更前の月額報酬と比べて、分掌変更後の月額報酬が半分以下等になったこと等の形式判定だけでなく、分掌変更後に従事している業務(仕入先等の選定、人事、借入金交渉等経営に参画しているか否か)の内容、株式の保有状況等の実質面からも判定されることとなったわけであるが、そのことから、代表取締役辞任の登記がなかった場合は、勿論、辞任登記があった場合で、月額報酬が代表取締役辞任前の50%以下であっても、実額が高額である場合には、税務上退職の事実がなかったと判定され、退職金が役員賞与とされ、役員辞任後の報酬も法人税法上の役員として過大役員報酬としての判定を受け得る。

役員辞任の登記は、法人との委任契約の終了という点から、法人の代表者として、国際金融資本の代理人たる労働者としての行為が商法上なしえなくなるのであるから、代表取締役の辞任の前後を通じ、当該代表役員であった者自身の自由意思は介在するとは言えないから、賞与として課税することは難しいであろうが、過大役員退職金の判定の問題は残る。実額は、分析者の注意を要しないから、高額の報酬は、経営に参画していることから得ているものとして、その思考に作用しうるのである。

退任後も、法人の労働者との間に資本関係がフィクションされ、国際金融資本から融資をフィクションされて、労働者に貸付をフィクションし、労働を疎外して、利潤を国際金融資本と共に経済上コントロールしていたのであれば、役員以外の労働力商品と交換された商品には、労働の評価が転嫁されず、役員に労働力商品に金員に退職給与や分掌変更後の役員報酬月額の属性を付与した価値に、労働の評価を超える部分が転嫁されていれば、利益配当ということになるであろう。

国際金融資本は、資本関係のフィクションを源泉に労働の疎外を土台に利潤をコントロールし、所得税、法人税とは別個に国債の返済を負担させ、保険料の属性を付与し、実体のない観念たるリスクや返戻予定という実体のない観念を実体化させたり、加入の手段、装置、後付の方便とし、課税の繰延をさせてきたり、約定の解釈をネジ曲げて返戻を免れたりしてきた。

京都地裁を使用して、保険金収入があったことをもって法人税の増額を避けるためという実体のない観念に基づいて事実認定をしているという問題があるのである。

労働が疎外され、国際金融資本に前貸しされて、労働力を再生産させて、労働者に資本関係がフィクションされて、国債の返済が負担させられるという過程に鑑みれば、調査の場で説明されたことを土台にして更正処分がされたのか否かを文書で示す義務があり、更正処分通知書には事実関係と事実認定までの過程が説明されていないという理由附記の瑕疵がある。