貸倒損失又は貸倒引当金の発生、計上について論じられるとき、偶発損失、偶発債務として語られることが多い。しかし、一以上の経済取引を原因として発生した債務の弁済不能等が偶然に発生することなどありえない。ただ、債権者において、取引の相手方との経済的関係、取引の相手方における生産関係、取引先と第三者との経済的関係等について、全てを知り尽くしてないがゆえに生じるものである。人は、生産関係、経済関係等物的関係を離れて、思考することができない。資本家が法律を媒介にして自らの財政上の立場、損益計算を取引先並びに第三者に知らせないことに成功したから、取引相手並びに第三者は、これらを知ることができないのだ。ブルジョア国家は、取引の相手先や納税者が百科事典並みの知識を有しているという前提で思考する。納税者に独立企業間価格の算定させる場面や更正通知書の理由附記の例を思い浮かべればわかるであろう。相手方に情報を与えなくとも、相手方は何でも知っている、当該損失は偶然に発生したのだ、発生しうるのだ、となる。しかし、冒頭に述べたように、債務の弁済不能等が偶然に生じるものではないから、偶発損失や偶発債務など存在しないのである。