法人擬制説とは、法人は 所得課税上、独自の課税単位にはなりえないとする考え方であり、具体的に言えば、法人は株主の集合体であり、法人所得は株主に分配されるべきものであって、所得課税は分配を受ける株主の段階で行なわれれば足りるとする立場である。この立場は、法人の所得に対して法人税を課税し、株主に対しては、既に課税済みの法人の所得から配当を受けるわけであるから、分配を受けた株主に対して株主に対して所得課税を行なえば二重課税になるとするのである。この二重課税を排除するために、個人株主の場合には、所得税額から配当所得の一定割合を控除する所得税法上の配当控除の制度や、法人株主の場合には、受取配当金を法人の益金に算入しないとする受取配当金の益金不算入の制度が設けられている。この立場は、また、法人税自体が法人の構成員で株主の負担すべき所得税に対する前払いの機能を果たしているとされる。国家試験のテキストやブルジョア学者の書いた教科書は、こちらを妥当な見解として教える。
一方、法人実在説とは、法人は株主と別個の存在であり、法人は所得課税上独自の課税単位になりうるとするものである。法人擬制説によれば、二重課税を排除するための制度として説明される配当控除や受取配当金等の益金不算入の制度は、法人実在説の立場からすれば、租税特別措置と考えられ、一種の政策税制ということになる。特に、後者は、企業の垂直的統合の助成措置ということができる。国際金融資本との資本関係により、法人は登記により実体あるものとして社会に認めされることを余儀なくされる。
現実には配当は税引前の利益から配当され、賃金は税引後の利益に配当されている。一人当たりの賃金は減少した内部留保が厚くなり、株主に対する配当支出の要求と現実の支出は高まっているという関係がある。個人株主であろうと、法人株主であろうと、労働者の賃金を搾取して飯を食っている者である。現在、同族会社を含む全上場会社の大部分は法人株主であり、株式の持合いによる利益増進委員会が形成され、これら法人株主の株主は個人株主であり、そこに個々の利益増進委員会をとりまとめる国が当該個人株主との資本関係から補助金を与えているという関係が存するのである。個人課税の方も株を買える少数の資産家を優遇しているのである。法人実在説の方が既成事実としての、法人と株主の関係をはじめとする諸関係を表しているといえる。