税務行政庁が過去の自らの言動に反する主張をすることにより、その過去の言動を信頼した相手方の利益を害することの許されないことを、禁反言の法理又は信義誠実の原則と呼ばれることがある。

しかし、税法自体、倫理規範や道徳規範ではなく、納税者のなした取引等が課税適状にあるか否かのみが問題とされる。私法上の関係と異なり、金融資本家に雇用された税務行政庁と納税者の関係は、現実には経済関係を疎外した担税力という属性を土台とした所得により課税して現金を得て現金に価値属性を込めて所得を実体化させた一方的な権力関係である。双方に自由意思はない。信義は実体のない観念である。

信義に基づいて課税が行われ税務署との信頼関係に基づいて納税するわけではない。金融資本家と全資本家との資本関係を通じた金融資本家と行政機関との資本関係、生産関係を土台に取得した課税権に基づいて、納税者は、課税に応じざるを得ないのである。

それを恰も納税者の自由意思に基づいて修正申告を行ったとしているにである。経済関係を土台法の要求するところに従って合法的に租税を徴収することを業務とする租税行政は、更正の除斥期間を徒過しないかぎりは、何度でも調査に入って更正することができるのである。納税者に好感を持たれようなどびた一文考えない。

したがって、こうした私法上の道徳規範、倫理規範を持ち出しても意味がない。行政行為(税務上の更正処分も行政行為)は、取消訴訟によって取り消されないがぎりは適法なものと取り扱われる公定力の存在がある。行政の言動に不一致があるということは、過去の調査における是否認に至るまでのプロセスや指導事項に誤りがあったか、恣意を排除して認定していなかったか、過去の調査の際に放棄した論理の、つっかえ棒として別の論理を持ち出しているかである(いわゆる、理由の差替えで、差し替え前の理由も差し替え後の理由もどちらも方便で、恣意的な理由でありうる)。

こうしたことをとらえて反論しないと、つまり、ブルジョア階級及びその代理人たる租税行政が保持する事実認定及び実体法上の矛盾点を突いていかないと、納税者不利の立場を覆すことは困難である。

行政指導も更正処分も調査に基づいて行われる。調査手続があったという、すなわち事実関係の全体化と確定が行われず、実体から乖離したことに基づいた事実認定をして法解釈、法への包摂を行ったのである。 行政指導の土台となる質問検査が実体法上、手続法上違法なのであり、それを更正処分によってその瑕疵を治癒又は追完したのであって、信義誠実原則違反の問題ではない。

実体法、手続法、経済関係上の全事実確定の問題である。納税者、現実には、は経済利益がないから、資本がないから行政指導について裁判で取り上げることを認めさせることができない。課税処分が第一回目の処分であるから二回目以降の再更正に吸収されるか、2以上の処分が併存するかの問題ではない。違法な質問検査を原因、実体法上課税となる土台が存在しないことを根拠として裁判を提起して処分の取消を行うことができるものと解される。 全事実を摘出して事実確定を調査において行わなかったことを原因に、実体のない指摘をされたことによって、納税者はそれに応じることを余儀なくされたことを基に、再度質問検査を受けて更正処分及び加算税賦課決定処分を受けることにより現金留保が減少したという経済上の損害があったから処分の取消事由になるであろう。