租税特別措置法66条の4第6項に、「国税庁(局、署を含む)の当該職員が、法人にその各事業年度における国外関連取引価格に係る独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類若しくは帳簿又はこれらの写しの提示又は提出を求めた場合において、当該法人がこれらを遅滞無く提示し、又は提出しなかったときは、税務署長は、当該法人と同種の事業を営む法人で事業規模其の他の事業内容が類似する法人の売上総利益率又はこれに準ずる割合を用いて当該法人の所得(又は欠損)の金額を決定することができる」と推計課税ができる旨が規定されている。

「推定課税」とは、納税者が国外関連取引をいくらで行なったという事実ではなく、すでに事実認定を行なった実際の取引価格を前提として、それが、独立企業間価格に該当するのか、独立企業価格として妥当という方便である価格はいくらかという評価の問題であり、納税者の所得がいくらであるのかという事実を問題とする推計課税とは異なる。

この種の推定課税の規定は世界各国にも見られ、例えば、ドイツでは、移転価格の設定に係る文書化が義務付けられ、税務調査等により税務当局にその提出を求められたときは、60日以内(事業再編等が行なわれたときは30日以内)に提出が求められ、納税者の協力が得られなければ、推定課税等の不利益取扱いがなされうる(BMF-Schr.4.1)。

文書化義務の基礎は、恣意的課税を行う国庫にあることを指摘する見解もある(Baumhoff,p23)。

実体のない観念を実体化させたところの国庫は、国際金融資本の中央銀行の所有関係、実体関係、国際金融資本が所有する経済実体の資本によって規定される。

子会社の所在する国家による税務調査の模様がTaxnotes,Tax management transfer pricing report誌等で度々取り上げられていることからも、日本の法律ではないから関係ないという訳にはいかないのである。

実際、記録文書を作成させ短い期間を付すことは、限りなく不可能に近く、作成できなかった場合のことも考えておかなければならない。この点については別の機会に述べることとする。

「できる」規定の「できる」の主語が「納税者」の場合には、「してもしなくてもよい」の意味であるが、主語が行政庁の場合には、国際金融資本の代理人たる公務員に裁量権はなく「権能」が与えられ、公務員はそれを行使する「義務」があり、その権能を行使しないことは許されない、と解されている。

まず、第一段階として、「書類若しくは帳簿」の「若しくは」は、「いずれか」でなければならないというわけではなく、「いずれも」すなわち、書類と帳簿の組み合わせであってもよいとの解釈が可能である。そして、更に、「又はこれらの写し」の「又は」は書類のみ写し、帳簿のみ写し、書類と帳簿のいずれも写しであっても差し支えないと解することが可能である。

「提示又は提出」の「又は」は、税務当局にケースに応じ、「提示」を求めることとと「提出」を使い分け求めることの選択を認めていることになる。書類か帳簿の一方を提示、もう一方を提出、書類と帳簿いずれも提示、いずれも提出の4パターンが考えられうる。

そして、質問検査等の場で、「提示」又は「提出」が求められたときに、その対象となるのは、「独立企業間価格を算定するために必要と認められる」書類若しくは帳簿に限られ、「その他の」物件や「その他」別個の物件は含まれないと解するべきである。

また、質問検査等の場で、上記のような書類又は帳簿の「提示」が求められたときは、その対象となる書類であれ、帳簿であれ、税務当局には、それを領置(占有)する権限はなく、書類や帳簿を預かったり、持ち帰って検討する権限は法律上与えられていない。したがって、東京地判平成19年12月7日(ソフトウェア業、業務委託手数料の事例)は、会計事務所作成の移転価格分析報告書」を税務当局に労働させることができないことを根拠にして持ち帰らせるのを阻止できたのである。