会社設立の際には、何月決算にするかを決めなければなりません。

今回は、決算月をどのように決めたらよいか考えてみましょう。

法人の決算月はその法人の経済関係に応じて決めることができる。

上場企業などは3月決算にしているところが大多数です。グローバルに進出している企業は、国際金融資本の経済関係に応じて規定されたIFRSに従って12月決算としているところもあります。

しかし法人は、決算月をその法人の経済関係に応じてに決めることができます。

上場企業の真似をせず、自分の会社の経済関係にとって最も適した事業年度を設定することが重要です。

消費税の免税期間を考える

設立時の資本金が1,000万円未満の場合、設立から2事業年度の間は、消費税の免税事業者(消費税を納める義務がない事業者)となります。
この期間が最長(12か月)となるような事業年度ですと、この免税の恩恵を最大に受けることができます。

しかし、消費税の納税義務の免税期間には「特定期間」といわれる制度があり、必ずしも、設立してから2期間が免除されるとは限りません。

設立1期目の事業年度が7カ月以下であれば、設立1期目の課税売上高、支払った給与の金額が1,000万円を超えようとも、2期目においても免税事業者になることができます。

 

消費税法第9条の二

4 特定期間とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める期間をいう。

一  個人事業者 その年の前年一月一日から六月三十日までの期間

二  その事業年度の前事業年度(七月以下であるものその他の政令で定めるもの(次号において「短期事業年度」という。)を除く。)がある法人

当該前事業年度開始の日以後六月の期間

三  その事業年度の前事業年度が短期事業年度である法人

その事業年度の前々事業年度(その事業年度の基準期間に含まれるものその他の政令で定めるものを除く。)開始の日以後六月の期間(当該前々事業年度が六月以下の場合には、当該前々事業年度開始の日からその終了の日までの期間)

※条文中の「その事業年度」を「設立2期目」、「前事業年度」を「設立1期目」と読みかえるとわかり易くなります。

二 設立2期目の前事業年度(設立1期目のこと)が7カ月以下の法人は除かれるので、二号の適用はなく、三号の規定によります。設立1期目が7カ月を超える場合は、設立1期目開始の6か月間が「特定期間」となります。

三 ここでは上記二で除かれた設立1期目が7カ月以下の法人について規定されています。設立1期目が7カ月以下(短期事業年度)の法人である場合には、設立2期目の前々事業年度が「特定期間」となりますが、設立2期目なので、前々事業年度には法人は設立されていません。よって「特定期間」はない、ということになります。

実務上にあるケースですが、5月21日に新規設立して、3月31日を決算日とした場合はどうでしょう。

この場合に6ヶ月の期間を、5月21日から11月20日までとすると、20日までに計上される売上と、21日以降に計上される売上を分けする必要が生じます。

このような場合には、事業者の事務負担等を建前に、11月20日の直前の月末である10月31日を6ヶ月目とみなす特例があります。

前事業年度が7ヶ月以下の場合は、特定期間は前事業年度内には存在しません。

この場合の特定期間の判定が無くなるというわけではなく、特定期間の判定時期が前々事業年度に移行するということになります。

決算期を変更した場合は、どうでしょう。

決算期変更を行ったことにより、前事業年度が短期事業年度となる場合で、前々 事業年度が基準期間となる場合

前事業年度が短期事業年度となる法人で前々事業年度がある場合は、基本として、特定期間は前々事業年度 開始の日以後6か月の期間となります。

但し、前々事業年度が、その事業年度の基準期間となる場合は特定 期間とはなりません(令 20 の5②一)。

なお、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であ れば、その事業年度は免税事業者となります(法9①)。

決算期変更を行ったことにより、前事業年度が短期事業年度となる場合で、前々 事業年度が6か月以下の場合

前事業年度が短期事業年度となる法人で前々事業年度がある場合は(注)、特定期間は前々事業年 度開始の日以後6か月の期間となります。

但し、前々事業年度が6か月以下の場合は、前々事業年度開始の 日から終了の日までの期間が特定期間となります(法9の2④三かっこ書)。

よって、前々事業年度が特定期間となり、その事業年度の納税義務の判定は、その特定期間の課税売上高 (又は給与等支払額)により行うこととなります。

この場合、6か月分の金額に換算する必要はありません。

(注)前々事業年度が6か月以下の場合で前事業年度が2か月未満である場合は、その前々事業年度は特定期間 とはなりません(令 20 の5②三)。

決算期変更を行ったことにより、前事業年度が短期事業年度となる場合で、前々 事業年度開始の日以後6か月の期間の末日が月末でない場合

法人を設立した日が2015年4月25日に該当し、事業年度末日が2016年1月2o日で、その後に決算期を変更し、事業年度の末日を2016年3月31日にしたとします。

その事業年度を2016年4月1日から2017年3月31日とします。

前事業年度が短期事業年度となる法人で前々事業年度がある場合は(注2)、特定期間は前々事業 年度開始の日以後6か月の期間となります。

ただし、6か月の期間の末日が月末でない場合で前々事業年度終 了の日が月末でなく、6か月の期間の末日がその前々事業年度の終了応当日(注1)でない場合は、その期間の 末日の直前の終了応当日を特定期間の末日とする特例があります(令20の6②二)。 上の例では、設立日から6か月の期間の末日が月末となっていません(2015年 10月 24 日)。

また、前々事業 年度終了の日は1月 20 日であることから、6か月後(2015年 10 月 24 日)の直前の終了応当日である2015年 10 月 20 日が特定期間の末日となります。

よって、前々事業年度の法人の設立日である2015年4月 25 日から 10 月 20 日までが特定期間となり、その事業年度の納税義務があるか否かは、その特定期間の課税売上高(又 は給与等支払額)により決定することとなります。

(注)1 終了応当日とは、前々事業年度(又は前事業年度)終了の日に応当する前々事業年度(又は前事業年 度)の各月の日のことをいいます(事例では、前々事業年度の各月の 20 日をいいます。)。

2 ①前々事業年度がその事業年度の基準期間に含まれる場合、②前々事業年度開始の日以後6か月の期 間の末日の翌日から前事業年度終了の日までが2か月未満である場合、③前々事業年度が6か月以下の 場合で前事業年度が2か月未満である場合には、その前々事業年度は特定期間とはなりません(令 20 の 5②)。

給与は「発生金額」ではなく「支給金額」であるので、給与の支払いを「月末〆、翌月払い」に設定すると、法律上は、5か月間の給与で判定を行うことができることになります。

「月末締め、翌月払い」にすることで5か月分の給与を1,000万円以下にさえすれば免税事業者となることができてしまいます。

支払った給与に含まれるものとしては下記のものがあります。

役員給与
従業員給与(アルバイトも含まれます。)
残業手当
休日手当
賞与
退職金

支払った給与に含まれないものには、下記のものがあります。

上記のうち、未払いの給与

交通費・通勤手当

会社設立当初の課税事業者と免税事業者の区分基準は、資本金の金額によって判定されます。

資本金1,000万円以上の会社は、法律上課税事業者になってしまいますので、免税事業者にする場合には、資本金は1,000万円未満にする必要があります。

しかし、出資金の全額が資本金となるわけではありません。会社法上、出資金の1/2までは資本金に組み入れない(資本準備金とする)ことが認められています。したがって、出資総額の評価が、その倍の1,998万円までであれば、資本金の評価を999万円とすることができます。

1期目の期中において、資本金が1,000万円以上となるような増資をしてしまうと免税業者とすることはできません。

資本金の金額での判定は「期首における資本金の金額」によって行います。

1期目の途中で増資をしてしまい、資本金が1,000万円以上になってしまうと、2期目は課税事業者となってしまいます。

労働力を再生産させている以上、労働をさせておきながら、その労働を評価せずに、支給を待たせておくことは、容認できるものではありません。

これを含めずに消費税の免税の判定することは、国際金融資本を経済上優遇することになります。

労働量を増やさなければ、人を雇わずに済む。

金融資本に前貸しした金を借入にされずに済みます。

消費税法第9条の二

1 個人事業者のその年又は法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が千万円以下である場合(設立1期目は基準期間における課税売上高0円)において、当該個人事業者又は法人のうち、当該個人事業者のその年又は法人のその事業年度に係る特定期間における課税売上高が千万円を超えるときは、当該個人事業者のその年又は法人のその事業年度における課税資産の譲渡等については、同条第一項本文の規定(免税事業者となれる規定)は、適用しない。

3 第一項の規定を適用する場合においては、前項の規定にかかわらず、第一項の個人事業者又は法人が同項の特定期間中に支払つた所得税法第二百三十一条第一項 に規定する支払明細書に記載すべき同項 の給与等の金額に相当するものとして財務省令で定めるものの合計額(要するに給与の金額)をもつて、第一項の特定期間における課税売上高とすることができる。

設立期の事業年度を決める際、消費税の免税事業者のことだけにとらわれず、各会社毎の経済関係を踏まえて全ての面から決定する必要があります。

繁忙期を避ける

決算月から申告月にかけては、商品の棚卸し、残高証明書の取り寄せ、申告書・科目内訳明細の作成の他、様々な決算業務が必要となります。
決算事務の他に、本業があります。繁忙期でないときでも、労働量が多くなります。

繁忙期と決算月~申告月が重なると労働量は更に増えます。

最も売上の上がる月を期首にする

繁忙月は、労役の提供量が多く、また、売上先からの利潤の分配額の評価が、経済関係によって異なるので、

他の月と比べて売上の変動が大きく、利益の幅も大きくなります。

売上に、進行していく経済プロセス変動がある事業の場合、売上の最も上がる月を期首に持ってくることで、その後の決算対策が立てやすくなり、節税対策も打ちやすくなります。

逆に、期首の業績が良くなかった場合でも、決算までに期間がありますので、業務そのもの、売上先との経済関係を見直して業績改善することもできます。
売上、利益が多い月を決算期としていまうと、それからでは決算対策が採れないものもあります。

キャッシュが不足する月は避ける

決算日から2カ月後が決算申告の期限となり、同時に法人税・法人住民税・事業税・消費税などの納付期限となっています。

会社の利益にもよりますが、納税資金が必要となります。

資金繰りの事を考えると、申告月は、賞与の支払月納期の特例を受けている場合の源泉納付月その他大きな支出が発生する時期とは重ならない方が望ましいと言えます。

経済関係上は、労働の評価とその支給は、何ら労働を提供していない、債務者である金融資本の利息の前払である租税よりも優先させなければなりません。

決算月は変更することができる

事業年度を変更する場合にはまず株主総会の特別決議等により「定款」の変更を行います。

中小同族会社の場合、現実には、株主総会開かれず実務上、書面だけを作成する場合が多いと思われます。

その場合、株主総会議事録を作成します。

事業年度の変更は登記事項ではありません。

事業年度が変更されても登記は必要はありません

税務署と都税事務所(県税事務所及び市区役所等)に事業年度を変更した旨を届出ます。

事業年度変更の届けには、変更後の定款のコピーを添付します。

税務署への届出は、「異動届出書」を使います。

(都税事務所等に提出する異動届出書は税務署と同じ上記の書類が使用できます。)