[事実関係]
超硬工具の製造及び販売を業とする内国法人X社は、平成20年10月1日から平成21年9月30日までの事業年度の定時株主総会において、甲(代表取締役)、乙(取締役)に対し、各月の報酬に加えて12月11日に冬季賞与を、翌年7月10日に夏季賞与を支給することを定め、事前確定届出給与に関する届出書を期限内にY税務署長宛に提出した。
X社は、冬季賞与については、届出書に記載された金額(甲500万円、乙200万円)を支給したが、夏季賞与については、厳しい経済状況による業績悪化に伴い、平成21年7月6日に臨時株主総会を開催し、減額を決議した上で支給したが(甲250万円、乙100万円)、事前確定届出給与に関する届出書は税務署長に提出しなかった。
X社は、冬季賞与につき、事前確定届出給与に該当するとして損金の額に算入して法人税の確定申告をしたところ、Y税務署長は、冬季賞与は、事前確定届出給与に該当せず、損金の額に算入されないとして、法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
第一審判決は、
「事前確定届出給与の額(法法34①ニ)が損金にされることとされた趣旨は、事前の定めの内容に関して所轄税務署長に届出がされたとおりに支給された場合には、支給の恣意性が排除されると位置付けられることにあるから、届出どおりに支給されなかった場合について事前確定届出給与に該当するとすれば、その趣旨に反することとなる。
事前確定届出給与が届出額よりも減額されて支給された場合に損金算入を認めても、法人の所得金額は多くなり、課税上の弊害が主ずるおそれはないように見えるが、事前の確定額を高額に定めていわば枠取りをしておき、その後支給額を減額し、損金の額を恣に決定し、法人の所得の金額を殊更に少なくすることにより、法人税の課税を回避するなどの弊害がないとはいえないから、届出額より減額して支給された場合も、事前確定届出給与に該当しないというべきである。
また、業績悪化改定事由に基因して届出額を減額する場合には、変更の届出が規定されており(法令69③)、その届出がなければ、その支給額は事前確定給与に該当しない。一の職務執行期間中に複数回の事前確定届出給与の支給がある場合において、事前の届出どおりに支給されたかどうかは、特別の事情がない限り、職務執行期間の全期間を1個の単位として判定すべきであり、職務執行期間に含まれる各事業年度において1回でも事前の届出と異なる支給があれば、全体として事前の届出とおりに支給されなかったと解するのが相当である。
何故ならば、法人と役員の関係は委任に関する規定に従い、定時株主総会において次の定時株主総会までの間に係る役員給与の支給時期及び支給額が定められることが一般的であることから、特別の事情がない限り、これらは全体が職務執行の対価として一体的に定められたものであると解することができる。
もし、事前確定届出給与が事前の届出どおりに支給されたかどうかを、個々の支給毎に判定すべきであるとれば、個々に支給するかどうかを選択でき、損金の額を恣に決定し、課税上弊害が生ずる虞があり、事前確定届出給与の趣旨が没却されることとなる」とした(東京地判平成24年10月9日)。
控訴審は、
「利益調整の意図を持つ租税回避の場合を除き、減額支給されても損金算入が許されるべきとのX社の主張は、主観的な要素によって判断することとなり、法的安定性を害し、課税の公平を害することにもなるので採用できない。業績悪化改定事由(法令69①一ロ)の範囲が明確でない等の理由により、変更届の期限までに届出がなかった場合の「やむを得ない事情」(法令69⑤)に該当するとのX社の主張について、「やむを得ない」とは、天変地異など客観的にみて納税者の責に帰すことができない事情をいうことは明らかであるから、X社の主張は理由がない」とした(東京高判平成25年3月14日)。
[解説]
恣意の有無、利益調整の意図は、虞は、実体のない観念であるから、事実確定の基礎とはなりえない。
一審は、観念である法の規定の趣旨と交渉してしまっている。二審も、天変地異と宗教学に基づいて判決し、すなわち、やむを得ない事情という問に答えておらず、責に帰す、客観的と、観念に基づいて判決してしまっている。経済関係に基づいて法の解釈、適用が行なわれるから、法的安定性云々が経済上の事実確定、法解釈適用を規定することはありえない。
役員も使用人であり、自由意思はないから、資本と委任の関係はない。責云々の問題は成立しない。役員であることをもって、法人の利潤を処分する権限を取得していないから、賞与の支給するしないの選択はない。賞与は、労働に付された価値ーこの段階で利潤が確定するーと引換に支給され現金に価値が付される。株主総会で規定された賞与の金額は、現実には、事前に確定している労働力商品の購入に付される価値に含まれる。
賞与の額は、現実の労働に応じて、労働に付される価値を加算しなければならず、労働力の再生産ー生殖をしない場合も含むーを契約により実体化させているから、生産関係上、労働力商品の購入に付された価値を下回ることがあってはならない。法人の利潤に付される価値が低下したとしても、給与賞与の額は減額できず、法人の損失は資本が負担しなければならない。法人の存続や国際金融資本への返済、労働の疎外を土台とした利潤の分配ーすなわち利子、配当ーを給与賞与の支払に優先させてはならない。法人に投資又は融資をしている国際金融資本は、労働者の給与に付される価値をカットして利潤に転嫁しておき、不払いにしておきながら、届出額を損金算入して、国債の負担を免れることはできない。
法人と資本関係のない労働者の労働を疎外して、又は労働力商品に付された価値を疎外して、法人と資本関係のある国際金融資本又は労働者の、労働に付される価値とは別のところに転嫁して処分権を付与した場合の、当該金額は利益配当ー国際金融資本は、不労であるから利子も現実には配当であるーということになる。