[事実関係]

外国法人Xは、購入した外貨建有価証券(米ドル建社債を含む)につき、平成19年4月1日から20年3月31日までの事業年度終了の段階において、当時の法人税法61条の9第3項に規定された「外国為替の売買為替の売買相場が著しく変動した場合」に該当するとして、施行令122条の3の規定に基づき外貨建取引が行われたものとして、事業年度末の為替相場により円換算した金額と帳簿価額との差額に相当する金額を損金の額に算入して、法人税の確定申告をした。

Xは、米ドルのプットオプション取引(以下、買建オプション取引。ドルプットは円コールなので買建となる)と、同買建オプション取引支払プレミアムと同額のプレミアムを受け取る米ドルのコールオプション取引(以下、売建オプション取引。ドルコールは、円プットなので売建となる)を行っていた。

所轄税務署長は、上記買建オプション取引が、本件米ドル建社債のヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であるから、本件米ドル建社債は、法61条の6に規定する「デリバティブ取引等を行った場合」の資産に該当するので、令122条の2の規定により、令122条の3の規定は、適用されないとして、上記損金算入した金額の内、米ドル建社債に係るものについては、上記通貨オプション取引が行われているので、損金算入はできないとして更正処分を行った。

本件買建オプション取引は、本件社債のヘッジ手段として、デリバティブ比較法(金融商品会計に関する実務指針156頁に定める、オプション価格の変動額とヘッジ対象の時価変動額を比較する方法)によれば、有効であるとされるものであった。

課税側は、従来から課税実務において認められてきた基礎商品比較法に基づいて、本件買建オプション取引をヘッジ手段として有効であり、本件差損の損金算入は認められないとした(施行令121条1項は、デリバティブ比較法を採用する規定ぶりであるが、「オプション取引の有効性判定の方法について」と題する照会への回答の如く、国税実務においては、基礎商品比較法の採用が認められていた)。

一審は、有効性判定の対象として本件買建オプションのみを取り上げて、

「基礎商品比較法にいう『オプションの基礎商品の時価変動額』とは、オプションの想定元本と当該基礎商品の時価商品の時価変動額とを掛け合わせた金額をいうものであるから」とした上で、それは、「施行令121条1項1号にいう『デリバティブ取引等に係る法61条6項1号に規定する利益額又は損失額』に該当しない」とし、

「基礎商品比較法は、施行令121条1項1号に規定する有効性判定の方法とは言えない」として課税側の主張を斥けた(東京地判平成24年12月7日)。

控訴審において、控訴人税務署長は、本件ドル建社債について行われていたデリバティブ取引には、買建取引に係る通貨オプション取引だけでなく、売建取引に係る通貨オプション取引があり、この取引においても、みなし決済による利益の額が生じているとして、本件61条の5第1項に定める利益をもXの益金の額に算入されるべきであるとした。

控訴審は、本件売建オプション取引については、法令の適用上は、そのみなし決済損益額を益金の額に算入することになるが、この益金算入は、当審になって控訴人が主張した事柄であるところ、被控訴人は、時機に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきであると主張した。

控訴審は、「仮に控訴人の主張が認められるとすると、本件外国為替換算差損の額が損金に算入されないことの前提として、本件米建社債が法61条の6第1項に規定するデリバティブ取引等を行った場合の資産に該当し、すなわち、当該デリバティブ取引について同項に規定する繰延ヘッジ処理を適用するための要件を充足しているということになって、同取引に法61条の5第1項の適用はなく、本件買建オプション取引だけでなく、本件売建オプションのみなし決済金額の益金算入という問題がそもそも生じないこととなる。

尤も、本件買建オプション取引及び売建オプション取引のみなし決済損益の益金算入は、本件更正処分等について、その一部の適法性を基礎付ける事実であるが、この問題は、控訴人の上記の主張が否定された場合、すなわち、本件米ドル建社債が法61条の6第1項に規定するデリバティブ取引等を行った場合の資産に該当せず、本件外国為替換算差損の額が損金の額に判断されると判断された場合に生ずる法令適用上の帰結であって」と述べ、

原判決を前提とした上で、本件更正処分等の適法性を基礎付ける事実として本件売建オプション取引のみなし決済損益額の損金算入を主張したとしても、時機に後れていると解することはできず、本件訴訟の経緯に照らして、時機に遅れたものといえるにしても、控訴人に故意又は重大な過失があるということはできないとして、控訴人の主張は、時機に遅れた攻撃防御不方法として却下されるものでないとした(東京高判平成25年10月15日)。

[解説]

何の価値も備わっていない紙切れ又はオンライン上の液晶画面に付与される価値は、何故異なって、その上で引き換えられるのか。それは、労働の疎外を土台とし、疎外された労働に付される価値が異なるからである。架空資本に付与された価値は、契約という法律行為により、実体上の権利義務となる。

一旦、実体化させた権利義務は取消すことができるか否かの問題は成立しうるが、実体のない価値が土台となる経済関係、装置、手段となる経済関係なしに自然に浸透するということはありえないから、疎外できるか否かの問題にはなり得ない。

権利の実体は、現実には架空資本である。国際金融資本は、代理人たる金融機関に金融商品をフィクションする。

労働の疎外を土台に、架空資本に付された価値を手段にして、国際金融資本は、代理人を使用して、国債、社債、株式、保険商品、金融商品を始めとする架空資本を販売する。架空資本の買い手は、架空資本に付された価値を購入し、疎外労働に付された価値又は労働の疎外を土台とした労働力商品の価値を国際金融資本に引き渡す。国際金融資本は、引渡しを受けた価値を手段に、国債を購入する。

労働の疎外を土台にして国債の価値、引渡した価値に価値を付与する。国際金融資本は、労働の疎外を土台とした利潤に付された価値の引渡しの差額を紙切れで引き渡すか受け取るかする。

購入した架空資本につき、紙切れを総額を分割払いするか、純額払いするかの相違はあるが、オプション取引と保険取引は共通する。オプション取引は、紙切れをフィクションし、価値属性を付与する権利が付与された国際金融資本に、リスクは実体のない観念であるにもかかわらず、架空の紙切れを差し入れ、国際金融資本はそれを集めて処分、国債の購入をする。課税側のいう「本件米ドル建社債のヘッジ対象資産等損失額を減少させるため」というのは、実体のない観念である。

租税は、現実には、国際金融資本がした借金である国債を労働者に返済させていることである。租税法は、目的と交渉して解釈してはならず、現実の経済関係の更新を離れて解釈してはならない。国債の負担は、法的安定性なる法則、価値属性、観念の問題ではない。

理由の差し替え、追加は、更正処分における事実確定の過程において経済上の事実、事実関係に関して調査し尽くして事実及び事実関係の全体化が行われていなかったということである。観念たる目的、意図と交渉してすなわち恣意を介して事実確定を行っていたということである。

時機は、経済、労働を含む生活の過程に価値属性を付与した観念の介在するものであり、経済関係は、生活過程の経過に価値属性を付与したところの時間、現象、法則を土台に確定するものではなく、これらは、故意も実体のない観念である。

理由の差し替え、追加に関する事実関係の確定の土台にはなりえない。社債元利も買建オプションも売建オプションも、労働力商品を購入することなく、労働を疎外したことを土台として利潤と損失は、確定している。課税側は、更正処分を取り消して、調査し直して、事実関係を確定させて、再更正処分をするか否かを決定しなければならないであろう。