[事実関係]
原告甲の夫である乙は、平成8年8月1日にA生命保険会社との間で、乙を被保険者、甲を受取人とする年金払特約付きの生命保険契約を締結し、その保険料を負担していた。
本件保険契約には、保険事故が発生した場合には、主契約に基づいて支払われる一時金である死亡保険金4,000万円に加え、毎年230万円の特約年金が支払われる特約が付されており、また、特約年金の受取人は、年金支払期間中に、将来の特約年金の支払いに代え、特約年金の未払分の現価の一時支払を請求することができるとの条項が規定されていた。
乙は、平成14年10月28日に死亡し、甲は、本件保険契約に基づき、死亡保険金4,000万円と特約年金230万を平成14年から毎年10月28日に230万円を10年間受け取る権利を取得し、11月8日に保険金4,000万円、年金230万円及び配当金2万649円の合計額から、契約貸付金19万5,000円,同貸付利息2,104円、源泉徴収税額22万800円を控除した4,190万2,745円を受け取った。
甲は、15年8月27日に、長崎税務署長に乙を被相続人とする相続税の申告書を提出した。
同申告書においては、本件保険金受給権を記載したが、保険金の非課税限度額及び遺産に係る基礎控除額等を控除した結果、納付税額は生じなかった。甲は、平成15年2月21日に、所得税確定申告書を提出し、その後、更正の請求、異議申立て及び審査請求を行っているが、いずれの手続においても、本件年金を雑所得に含めていなかった。
課税側は、更正の請求に係る更正処分、異議決定及び再更正処分においても、本件年金を雑所得の収入金額とし、必要経費9万2,000円を控除して220万8,000円を甲の雑所得として認定し、裁決もこれを維持した。
第一審は、
「相続税法における年金受給権の評価は、将来にわたって受け取る各年金の当該取得時における経済的な利益を現価(正確にはその近似値)に引き直したものであるから、これに対して相続税を課税した上、更に個々の年金に所得税を課税することは、実質的、経済的には同一の資産に関して二重に課税するものであることは明らかであって、前記所得税法9条1項15号の趣旨許されないものと言わなければならない。」とした(長崎地判平成18年11月7日)。
控訴審は、
「相続により取得したものとみなされるものとは、相続税法第3条第1項の規定により相続したものとみなされる財産であることは明らかである。
同号は、相続ないし相続により取得したものとみなされる財産に基づいて、被相続人の死亡後に相続人に実現する所得に課税することを許さないとの趣旨を含むものと解することはできない。
被相続人の死亡により保険受取人が取得するものは、金銭ではなく、保険請求権であることから、相続税法第3条第1項にいう保険金は、保険請求権であ」るとした上で、
本件年金は、本件年金受給権に基づいて発生する支分権に基づいて、控訴人が受け取った最初の現金というべきものである。そうすると、本件年金受給権とは法的に異なるものであるから、相続税法3条1項1号に該当しないと解され、所得税法9条1項15号所定の非課税所得に該当しないと解される。したがって、本件年金に係る所得は、所得税の対象となるものというべきである」とした(福岡高判平成19年10月25日)。
最高裁は、
「所得税法9条1項柱書の規定によれば、15号にいう『相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの』とは、相続等により取得し又は取得たものとみなされる財産そのものではなく、当該財産の取得によりそのものに帰属する所得を指すものと解される。当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは、当該財産の取得の時における価額にほかならず、これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから、同号の趣旨は、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される。
相続税法第3条第1項1号がみなし相続財産として規定する生命保険契約の保険金には、年金の方法により、支払を受けるものも含まれると解されるところ、年金の方法により、支払を受ける場合の上記保険金とは、基本債権としての年金受給権を指し、これは同法24条1項所定の定期金給付契約に関する権利を含むものと解される」とし、
年金の方法により支払を受ける上記保険金(年金受給権)のうち有期定期債権に当たるものについては、相続税法第24条第1号の規定により計算した金額が当該年金受給権の価額として相続税が課されるとして、
「この価額は、当該年金受給権の時における時価(同法22条)、すなわち、将来にわたって受け取るべき年金の額を被相続人死亡時の現在価値に引直した金額の合計額に相当する。したがって、これらの各年金支給額の内、上記現在価値に相当する部分は、相続税の課税対象となる経済価値と同一のものということができ、所得税の課税対象とならないというべきであるとした。最高裁は、上記の価額と、残存期間に受けるべき年金の総額との差額について、「当該各年金の上記現在価値をそれぞれ元本とした場合の運用益の合計額に相当するものとして規定されていると解される」として、所得税の課税がされるとしている(最判平成22年7月6日)。
[解説]
国際金融資本は、各人民を一つの経済実体とみた上で、それら集まりである家族を経済実体であるとみなし、法律行為を通じて実体あるものと認めさせた、いわば法人であるとみている。よって、死亡した経済実体からその財産を承継した経済実体には、死亡により承継した所得については、所得税は課されず、相続税を負担させられる。
契約者が生命保険に投資した紙切れを源泉に、国債負担債務がフィクションされ、処分権は国際金融資本に移り、国際金融資本が国債又は株式を購入して他の経済実体に投融資し、労働力商品を購入することなく、労働を疎外したことを土台とした利潤から受取人に配当されるのであって、天から紙切れが降ってくるのではないから、それは偶発ではない。
国際金融資本が架空資本に投融資している段階においても、相続人が受給権を取得してからも、相続後に他の経済実体に受給権を引き渡しても、労働力商品を購入することなく、労働を疎外して利潤を得たのであるから、経済上は、配当所得として課税されなければならないであろう。
所得税が課されても、被相続人の利潤を土台とした国債負担が繰り延べられたのであるから、二重課税にはならない。