東京の港区に本社がある当社は、札幌市にある継続して取引のあるA社、B社に再三督促したにもかかわらず支払いの滞っている売掛債権の残高がそれぞれ4万円、7万円ある。当社と取引のある札幌市の法人はC社とD社があり、それぞれ、売掛債権の残高は、9万円と12万円である。またD社には貸付金債権8万円がある。本社から札幌市内のA社、B社までに要する費用は旅費を含めた取立費用が12万円かかる。当社はA法人、B社の売掛債権からそれぞれ1円を控除した39,999円、69,999円を貸倒損失に計上したが、税務上この経理は否認されないであろうか。
(A)まず、最も優先される要件は、A社若しくはその資本に支払いに充てるか又は法人若しくは法人資本の資産を担保に供して借入をするだけの資本が全く残っていないかである。払う金を用意できるにもかかわらず、支払いを渋っているだけであれば、A社の売掛債権の貸倒れは認められないであろう。課税側は、9-6-3は例示であり要件を規定したのではないから、形式上の貸倒れについての通達9-6-3(1)の「債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止した時以降である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権につき担保物がある場合を除く)に該当しないだけでは、9ー6-3(2)の適用を否認することはできない。
(B)(A)を満たした場合ー債務者の財政状態の健全、不健全又は破綻とかの如何には関係なく9-6-3(2)が適用されるとする見解があるが、(A)は事実確定の基礎となるーには、次に、同一地域にある取引先の売掛債権の総額を取立費用が上回っている場合に、A社の貸倒が貸倒れを認めることがあると課税側は言っているのであって、弁済が滞っている同一地域の法人の債権の合計額と旅費その他取立て費用を比較するのではない。設例の場合、A社に係る売掛債権4万円+B社に係る売掛債権7万円+C社に係る売掛債権9万円+D社に係る売掛債権12万円の合計額は32万円であるから、取立費用の12万円を上回る。形式上の貸倒れは、民法173条の債権の2年の消滅時効、民法174条にいう債権の1年の短期消滅時効に基づいて規定された、法律上には消滅していない売掛債権につき認めるという事実上の貸倒れの特例であり、課税側の生産関係上のマニュアルであるから、D社の貸付金8万円については、課税側は同一地域にある法人に係る売掛債権に含めてはならない。課税する側は、形式上の貸倒れを認めないと主張してくるであろう。只、形式上の貸倒れが否認されたからといっても、(1)の要件を満たしていれば、課税側は、事実上の貸倒れを認めることを余儀なくされることがあるから、税理士は、事実上の貸倒れに該当するという柔軟な対応をしなければならない。