[事実関係]

労働者は、勤務先のA社の外国親法人B社から同社の株式を無償で取得することのできる権利(リスクテッドストックユニット。以下、RSUという。)に基づいて得た経済利益を退職所得として申告したところ、熱海税務署長名義で、上記所得は給与所得に当たるとして更正処分を受けた。
司法は、

「認定事実によると、①本件リストリクテッドストックユニオンプランの目的は、社員の意欲を刺激して精勤の動機付けをし、優秀な人材が外部に流出することにあること、②このためRSUは、権利付与日から3年の制限期間を経過するか、希望退職等以外の退職等の事由で雇用関係が終了するまでは、権利確定(発効)せず、制限期間終了前に自己都合退職した者に付与されていたRSUは無効となるものとされていること、③権利付与日から1年以内に退職が見込まれる被付与者に関しては、他の被付与者と比べて。付与されるRSUの数量を少なくする取扱いが行われていること、④A社においては、本件プランとは別途、退職金に関する規定が設けられていることを指摘することができる。

本件プランは、Bグループに属するA社と被付与者との間の雇用関係が継続することを前提として行なわれる社員報奨制度であって、本件プランに基づいて付与されるリストリクテッドストックユニットは、被付与者が退職するか否かという事実関係には関わりなく、当該被付与者に対し、過去の特定の期間の勤務成績に基づいて付与された賞与(但し、権利確定日までは、経済的利益の最終的な帰属が不確定であるもの)としての性質を有するものであり、権利付与日から制限期間終了の日までの間、雇用関係が継続していることを条件としつつ、死亡等を原因とする失職、定年退職等の事由にによって雇用関係が終了した場合には、被付与者の退職を防止し、精勤させるという本件プランの趣旨、目的に反するものではないことから、制限期間終了日及び権利確定日を雇用関係終了日に早め、権利確定日(通常は制限期間経過後、死亡等の雇用関係終了の場合は雇用関係終了日)にRSUに基づく経済的利益を確定的に取得できたものと解される」として、RSUに基づく経済的利益は、退職、すなわち、勤務関係の終了という事実によって初めて給付されることという要件を欠くものと言わざるを得ないとした(名古屋地判平成26年5月29日)

[解説]

リストリクテッドストックユニットの経済過程は、労働を提供して架空資本たる株式が資本、労働者の意思に関係なく労働者に交付される。

経済上、実体上、労働に価値が付与されなければならないが、現実には、労働は疎外され、架空資本たる株式に労働力商品としての価値が付与されることとなる。

労働者に交付された株式の譲渡制限期間解除後に架空資本に付与される労働力商品の価値が確定する。架空資本が利益や損失を産むものではなく、架空資本である有価証券とと架空資本である現金商品との交換によって利益損失が生み出されるのではなく、労働の疎外により架空資本に付与される価値の差額すなわち利益又は損失が産み出される。

労働者は株式が交付された段階では、疎外労働をさせて国債利息負担前の配当を得る権利が付与されるが、架空資本を引き渡せないという面では架空資本を実体あるものとして社会に認めさせることができない。

現実には、譲渡制限期間は、担保と同様に、労働者は損害賠償義務を負わされながら、つまりは、給与から債務、損失分を天引きされながら、労働者は架空資本を処分することができないから、労働者に付与された架空資本が法人資本に取り上げられていることになる。

株式の交付は、労働者への資本の前貸しである。リスクテッドストックリミテッドのプランの目的は実体のない観念であるから、事実確定の基礎とはならないから、リストリクテッドストックユニットに関する現実の経済関係を見ると、リストリクテッドストックユニットの経済関係は、労働者は退職していなくても、自動的に結果が発生しそれが浸透していくのではなく契約という法律行為により、株式の譲渡制限期間解除後に処分できること、すなわち架空資本たる株式の取得を実体あるものとすることができ、退職届けの提出、退職という生産関係の終了、法律行為の段階においては、株式交付の一部又は全部の取消し、株式の取得が取り消されるから、株式の取得は、既存の労働者が継続して疎外労働に応じることを土台としているから退職の段階ではなく給与所得ということができる。

退職は、現実には、国際金融資本の民間銀行を通じた資本関係、国際金融資本と法人の資本関係、経済関係により余儀なくされ、自由意思がないこと、労働者は疎外労働に応じてきたこと、労働者は資本、生産手段を有しないことから、経済関係上、現金で賞与、退職金が支払われなければならないこと、実体のない国債利息を負担させられる根拠、経済上の源泉がないことから、退職があったことに基づいて、退職所得について規定した法の解釈、適用を行う余地はあるであろう。

しかし、原告の場合は、法律行為を通しているから、退職所得でないとは言えないとしても、退職段階における架空資本の取得とはいっても、現金の取得の場合は、それを貸し付けて疎外労働をさせて労働することなく利子を得ることは現実にはできず、国際金融資本からの借入をして貸付業をせざるを得ないが、借入の伴わない株式取得である場合は、交付された株式を、引き渡すにしろ引き渡さないにしろ、労働せずに架空資本を使用して疎外労働をさせて経済利得を得ることができる。

尤も、経済利得を源泉に民間銀行への投融資を通じて中央銀行との資本関係を基にした架空資本の価値属性の付与を規定する権利を認めさせることはできないが。国際金融資本は、退職金が別途定められ、株式取得を賞与(給与所得)として実体のない国債利息の負担を増し退職所得による国債利息の負担減をを埋め合わせているが、当該株式の取得を退職所得と解する立場を採ると、資本によって、賞与として支払われる価値属性の備わっていない架空資本が退職金に充当されて退職金が現金で支給されなくなってしまうであろう。退職所得として申告することの土台は、給与所得の租税負担の根拠、税率の高さに問題があるのである。

株式の取得がいつあったかは、経済利得を土台に法律行為を通じて実体関係が形成するという現実の経済社会を踏まえると、経済上、税務上も架空資本の交付が書面上行われた段階すなわち法律上取得した段階ということにならなければならない。

しかし、当該事例の場合、架空資本たる株式の交付後も、労働者に、労働の提供に応じて労働に価値が付与されていなければなならないが、労働者に労働へ価値を付与することが待たされて給与の支給が待たされ、譲渡制限期間解除後、労働に付与された価値の一部又は全部がなかったこと、さらには労働力商品に付与された価値の一部又は全部がなかったこととされたということになる。給与所得の実現したのは、株式の譲渡期間解除後ということになる。