[事実関係]
Xがその同族法人であるYに昭和50年2月1日貸金の債務免除を行った後、昭和50年7月30日に死亡した。被告税務署長は、相続税法64条[同族会社の行為計算の否認]を適用し、相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったところ、原告は不服申立てを提起した。
裁判所は、「同族会社以外の者が行う単独行為は、その第三者が同族会社との間に行う契約や合同行為とは異なって、同族会社の行為とは相容れない概念といわざるを得ない。少なくとも税法の分野においては、同族会社とその役員等の個人とは明確に別個の法人格であることを前提とし、そのために所得法157条、相続税法64条等の規定が置かれている」と判示した(浦和地裁昭和56年2月25日)。
[解説]
相続税の負担を軽減させる意図があったか否かは実体のない観念であるから事実確定の土台とはなりえない。
法人は実体がないものを法律行為を通じて実体あるものとして社会に認めさせることに成功したものである。家庭と法人、資本と法人は資本関係上、実体関係上、別の経済実体である。同族会社の行為計算否認規定の適用の有無の問題ではないであろう。
法人の支払義務は現実には労働者、資本のいずれかに転嫁されている。
支払義務の転嫁を受ける義務があるのは資本である。
資本は資本関係、役員は資本関係、生産関係に基づいて法人資本増殖をするのであって、資本、役員には意思がなく、役員であることをもって実体関係が形成、履行されるのではない。
金融資本との間に資本関係があり、現実には金融資本が経営をしており、法人は資本増殖とその継続を余儀なくされている。
被相続人との間の資本関係を土台とした返済に充てる義務がある資本に付された価値がゼロになったのではない。
法人は資本を提供して借入をすることができる。以上のことを踏まえて被相続人が貸付金の返済を法人に免除することが資本関係上、所得税法上有り得るかを考えなければならない。