損失が実現した決算期についての株主総会で決議された退職金支給について
「退任取締役の退職慰労金も、それが報酬の後払いとしての性格を有する限り、商法269条にいう報酬に該当するが、退任取締役の退職慰労金について、明示もしくは黙示的にその支給に関する基準が存在し、株主総会が、右基準によって具体的な金額、支給時期、支給方法などを定めるべきものとして、その決定を取締役会に委任する決議をしても、取締役によるお手盛りの弊害は生じないから、このような株主総会決議は、商法269条に違反するものではない。
そして、被告には役員退職慰労金算定基準が存在し、本件決議二は、右の基準によって退職慰労金を支給することを取締役会に一任しているから、本件決議は何ら269条に違反しない。
原告が主張するような、会社経営が安定し、従来の黙示的、明示的な支給基準を当てはめることが当期においても相当と考えられる状況を前提としているかどうかは、株主総会の決議により、退任取締役の支給決定を取締役会に委任することが、商法269条に違反するかどうかということと関連を有するものではなく、また、一般個人が株式を保有する機会が増えている状況や、株式会社の所有者である株主に情報を公開すべきであるとの理念などによって、株主総会の右決議が影響を受けるものではない」(大阪地判平成10年3月18日)とする裁判例がある。
当該役員は、資本を持たない使用人である。生活手段としての労働を土台とした現金留保義務に基づいて、資本家が投融資した現金を使用することはできない。
役員は、自由意思で資本家が投融資した現金を使用することはできない。同族法人において、資本を有する役員がその報酬を返上しているのは、資本関係に基づくものである。使用人は、資本家との生産関係に基づいて労働せざるを得ない。
損失の賠償義務は、資本家にある。生産関係上、損失を使用人の給与に転嫁することはできない。
退任取締役の退職金は、取締役会の恣意ということはありえないであろう。現実に労働の実体があったのであれば、留保利益、現金留保に関わりなく、資本家が労働者に退職金を支払うことは生産関係上の義務である。
退職者は、疎外された労働分が退職の段階まで法人資本家に貸し付けることを余儀なくされて、疎外された労働について、労働力商品、支給された現金に価値属性が付与されて、各々実体あるものと社会に認めさせたものである。
役員は、資本家が投融資した現金を使用する権限がなく、退職金の支給を規定するのも、生産関係上支出義務があるのも資本家であるが、金融資本家が資本関係を土台とした権限により、税務行政機関を使用して、事実確定の全体化、理由附記の全体化をせずに課された処分が転嫁されるのは労働者であり、経済関係、経済過程が異なる。