建築工事請負債権について、下記のような裁判例があある。
[事実関係]
土木建築請負業を営むXは、昭和46年2月期においてAに対して有する工事請負代金債権が回収不能となったのでこれを貸倒損失として処理した旨主張するが、
法人が、各事業年度の所得の金額の計算上、その有する売掛金等の債権を債務者の弁済能力の喪失等の事由により、貸倒損失として損金の額に算入できるのは、その事業年度中において債権の回収不能が確定して場合に限られると解するのが相当であるところ、
(1)Aは、46年2月期の法人税について黒字の所得金額をもって確定申告をしていること、
(2)その確定申告書添付の貸借対照表によれば、資産総額は負債総額を上回っていたこと、
(3)Aは、46年2月当時、横浜市内に抵当権等の負担のない土地所有していたこと、
(4)Aは、同年9月の時点においても、不動産販売仲介の営業活動を行うほか、美容院及び喫茶店も経営していたこと、
(5)X以外に対する債務の支払は普通になされていた等の事実からすれば、
XがAに対して有する工事請負代金債権を貸倒処理した46年2月当時においては、Aは支払能力を有しており、債権が回収不能でなかったことは明らかあるとともに、仮にAの代表者がXにその所在を明らかにせず、任意の履行が期待できない状態であったとしても、その一時をもって、債権が回収不能であるということも到底できず、従って、債権について貸倒計上をすることは認められない。
(横浜地判昭和52年9月28日)
[解説]
債務の履行には自由意思はない。債務の履行が期待できるか否かは実体のない観念であるから事実確定の基礎とはならない。資産を担保名目として金融資本に取り上げられて投融資を受けることができる。資産を生産手段にして労働者に貸与したり現金を貸与して、労働を疎外して疎外した労働を資本に転嫁できる。よって、貸倒損失の計上が否定されたのである。