[事実関係]
法人税基本通達2-1-43には、他の者から支払を受ける損害賠償金(債務の履行の遅滞による損害金を含む)の額について、法人がその損害賠償金の額について実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合にはこれを認めることが規定されている。広島地判は基本通達2-1-43にいう他に者には法人内部の者は含まれないとした(広島地判平成25年1月25日)。
[解説]
法人の資本と使用人の関係は、法人の資本と他の経済実体との関係は異なる。事実確定の段階では、使用人にも良心の呵責があるから盗難や横領をするかしないかの性善説は実体がないから持ち出すことはできない。
役員、使用人は資本、生産手段を所有しておらず、使用人であるから、自身の生活の土台となる経済に基づいて、法人に投下された資本、資産、生産手段を使用する権利を取得していない。使用人は自己の生活に基づいて法人資産を処分する権利を認めさせることに成功していない。
資本を有する役員は、資本関係を土台に架空資本を取得していることをもって、資本を処分しているのであって、役員であることをもって法人の資本を所有しているのではない。
使用人は労働力商品を提供して現金商品と交換するだけで資本を所有していないから、資本関係、生産関係から、法人資産である景品を現金と交換することはできない。
法人税通達の逐条解説を見ると、法人の行為なのか個人のものなのかが峻別できないから、「他の者から受ける損害賠償金」について規定した通達を適用できない旨を述べるが、通達適用の根拠とはなり得ないであろう。
現金商品と引換えた分は現金と引換えることが確定した段階において労働が疎外されているから現金商品との引換えが確定した段階で法人の収益に計上される。使用人は生産関係に基づいて販売労働をしたことになる。
労働法上(労働基準法16条)、損害賠償義務はないと解されるであろう。法人への損害賠償義務を負うのは資本である。法人の側には現金商品と資産の引換があった段階で売上代金の損失と損害賠償請求権とその貸方科目たる収益が計上される。
請求権金額及び損失金額は商品と現金を引換えた段階で現金に価値属性が付与されるから、販売収益計上の段階で損失計上されるのである。
原告のいう従業員の不法行為があったことの認識は実体のない観念であるから収益計上を遅らせる理由には採用できないであろう。
広島地裁は、身元が不明であること、損害の金額その他権利の内容、範囲が明らかになっていないこと通達適用の理由として挙げるが、身元は不明であっても、損害の金額その他権利の内容、金額は確定しているのである。