貸金の貸倒れと財務諸表上の数値の関係については、下記のような裁判例がある。
[事実関係]
「債務超過とは、マイナス財産(負債)がプラス財産を超過することであるところ、法人税基本通達9-6-1によれば、債権額が貸倒れとして損金の額に算入されるためには、債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができないと認められることが必要であるから、特定時点の計算書類の数額が債務超過の状態を示していることのみをもって、直ちに同規定に該当するということはできず、
また同通達9-6-2にいう債務者の資産状況の判断に当たっても、計算書類の数額は一つの判断資料にはなるが、それが決定的な意味を持つものではないと解され、同規定の支払能力を判断するについても、その財産のみならず、信用や労力を考慮すべきであること、
従って、特定時点の計算書類上の数額から直ちに右各通達への該当性が決せられるわけではなく、Xの子会社P社(債務者)の貸借対照表の数額の当否に関する問題が直ちに本件債権放棄に係る金額が貸倒損失に当たるか否かの結論を左右するわけではない」としたものがある(横浜地判平成5年4月28日)。
[解説]
信用や労力は実体のない観念であり、予め経済実体に備わっているものではない。債務超過であっても、資本を生産手段にして貸与したり、現金を貸し付けたり、資本を担保名目で提供し投融資を受け、生産手段や金銭の貸付を行ったりして、労働を疎外し疎外した労働を資本に転嫁できるから貸倒損失の計上は現実には認められていないのである。