東京地裁昭和57年8月31日判決

[事実関係]

原告法人Xは、昭和22年5月20日に設立された株式会社であり、昭和52年5月20日の会社創立30周年記念として各事業所別に記念式典及び祝賀会を開催し、祝賀会の費用として590万3,835円を支出し、これを福利厚生費として本件事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入して確定申告をしたところ、税務署長は、本件支出は、旧租税特別措置法62条4項所定の交際費等に該当するとして、新たに損金の額に算入されないこととなる金額542万616円をX社の所得金額に加算して更正処分及び加算税賦課決定処分を行った。

判示

裁判所は、

「措置法62条は、『もっぱら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用』については、損金不算入の取扱いを受ける交際費等から除外することとしている。

措置法62条4項の括弧書で右費用を交際費等から除外しているのは、従業員も『事業に関係ある者等』に含まれ、その慰安行事のため支出する費用が本来は交際費等に該当することを前提としながら右費用が通常要する費用の範囲を超えない限りは従業員の福利厚生費として法人において負担するのが相当であり、その全額につき損金算入を認めても法人の社会的冗費抑制等の目的に反しないとして、これを交際費等から除外することにしたものと解される。

したがって、交際費等から除外されるためには、専ら従業員のための行事の費用であると同時に、当該行事が費用を負担して行う福利厚生事業として社会通念上一般的に行われていると認められるものであると解するのが相当であり、たとえ従業員の慰安のための行事であっても、通常一般的に行われる程度を超えてるときは、その費用は通常要する費用をこえるものとして交際費等に該当するものと解すべきである。

そうして、当該行事が右の通常一般的に行われる範囲内のものであるか否かは、当該行事の規模、開催場所、参加者の構成及び一人当たりの費用額、飲食の内容等を総合して判断すべきである。

X社は、創立記念日に当たり、創立を祝い一層の飛躍を期するとともに、従業員及びその家族並びに下請け業者の労を慰める等の目的の下に、東京本社及び大阪・名古屋両支店で同月20日から27日にかけて、一流宴会場であるH、T及びNホテルを会場にして本件記念行事を開催した。参加人数は合計627名で、従業員407名及びその家族160名のほかに下請け業者60名が含まれていた。

本件記念行事においては、まず記念式典を行い、社長挨拶、永年勤続社員等表彰及び協力会社表彰をした後、引き続いて本件祝賀会に移り、プロの楽団や芸能人等が加わった余興を楽しみながら飲食をした。

本件祝賀会の所要時間は東京本社が3時間であり、大阪・名古屋の両支店も大体同様であったと推測される。本件支出590万3,835円は、本件祝賀会に要した費用であり、本件支出のうちサービス料及び税金を除けば、そのほとんどは和洋食・中華料理、日本酒・ビール・ウイスキー等の飲食代と余興代である。

事実によれば、本件祝賀会はX社の従業員及び下請業者を接待、きょう応、慰安するための行為であり、そのための費用である本件支出は、『事業に関係のある者等に対する接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの』として、措置法62条4項括弧書に該当しない限りは、同条の交際費等に当たるというべきである」とした(東京地判昭和57年8月31日)。

法人が支出した金銭について、それが交際費に該当するか、その他費用に該当するかは、いかなる面から判定しなければならないだろうか

学説・裁判例は、①支出の相手方が事業関係者かどうか、②支出の目的、③行為の形態が接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であることを交際費等の要件として挙げる(東京高判平成15年9月9日)。

しかし、支出に目的、性質は備わっておらず、目的は実体のない観念であるから事実確定の土台とはならない。当該判決がいう社会通念は資本関係、経済関係、生産関係(雇用関係)を土台に造られる。社会通念も観念にすぎないから、事実関係の確定の基礎とはならないだろう。

交際費に関するか否かは、調査によって得た事実関係に基づいて、全ての面から総合して評価しなければならない。

まず、支出した金銭の実体は、現実の資本の投下から現金留保の過程から規定される。生産関係上、労働者は式典に参加せざるを得ない。

現実に式典が行われていれば、飲食代を生産手段にして貸与し労働を疎外して疎外した労働を資本に転嫁している。

労働過程の長さによって資本に転嫁される量、割合が異なってくる。労働を提供した飲食業、楽団、プロダクションの労働者、会社でない経済実体に支払いをする義務がある。交際費になるか否かの前提として、支払った金銭が法人の損金となるか否かが問題となる。

それについては、前出の裁判例のいう行為の形態ではなく、飲食に至る土台、飲食の提供し、利潤を産み出したかどうかという行為に関する一連の過程を見なければ、損金に当たるか、交際費に当たるのかは確定できないであろう。

飲食は、法人の資本から、飲食店を通じ飲食の提供を受けた経済実体である法人の構成員において、労働力を再生産させており、生産手段にして労働を疎外し疎外した労働を資本に転嫁することができたとすれば、福利厚生費と見られなくもない。

福利厚生か交際費かは、提供された飲食物が労働力再生産に貢献したか、労働をしていない資本が含まれていないかによって決まってくるであろう。資本が含まれていれば、フィクションした資本関係に基づく利潤の配当ということになるであろう。

現実には、交際費については、中央銀行を所有する民間金融機関の所有関係、国際金融資本との資本関係から課された現金留保義務から損金算入できる金額が規定されてしまっている。

また、裁判例には、会社の80周年記念行事を都内のホテルを会場として行い、その大部分が、飲食等の午餐、能楽、2回の歌謡ショー、プレゼントの抽選会等、従業員らの娯楽ないし慰安の時間に費やされ、昼間に行われた4~5時間程度の行事に一人当たり5万3,511円という費用を支出したものが「通常要する費用」には該当しないことは明らかであるといわざるを得ないとするものがある(東京地判平成21年2月5日)

金融資本が代表者に立て替えさせて、料理人、ホスト、設営した人、パフォーマー、店員に支払をさせて、使用人に提供したことにつき、使用人は、現実にはその支払を転嫁され、生産関係上出席しないという自由意思はないにもかかわらず、代表者が労働力の再生産のレベルを超えて支出したと評価されたのである。