[事実関係]
X2者を経営し、業務全般を統括しているX1(被告)は、自己の所得税と、X2社の法人税を免れようと企て、所得税に関し昭和47年度ないし同49年度分の所得の一部を、法人税に関し所得の一部を、それぞれ秘匿した上、内容虚偽の所得税確定申告書及び法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為によって正規の所得税額及び法人税額を免れたとして、所得税法違反、法人税違反の罪で起訴された。
大阪地裁は、その事実を認め有罪とし、X1を懲役10月(執行猶予2年)、罰金2,000円、X社に対し罰金600万円の刑にそれぞれ処した。
裁判所は、
「X2の代表者であるX1は、Hの勤めにより、X2社において新大阪駅地下構内に進
出し同所で喫茶店を開業しようと図り、そのため、昭和49年4月28日頃、1,300万円の保証小切手を、Hを通じ、同所に酒店権を有する新大阪駅の旧地主団体の一員であるTに渡したものの、その後法人成りした右旧地主団体S社の代表者Kにおいて右出店権を第三者に売り渡してしまったため、X2社としては右出店権を取得することができなかった(従って、一旦取得した取得した出店権がその後消滅したということもありえない)こと、
一方、右の1,300万円ぬついては、その頃Tが死亡してしまったこともあって、その後の行方があいまいになっているのではあるが、X2社としては、昭和49年事業年度の決算書にこれを預け保証金として資産に計上し、HないしTの相続人らに対し積極的にその返済を求める手続もとっておらず、いまだ回収不能とは言い難い状況にある(因みに、仮に回収不能とするも、損金経理がないので、損金に算入できない)ことが明らかであるから、弁護人の右主張は採用できない」とした(大阪地判昭和52年4月21日)。
[解説]
免れようと企ては実体のない観念であるから、所得税法違反、法人税法違反の事実確定の土台とはならないであろう。保証金預け入れの目的は実体のない観念であり、資産計上、貸倒れについての事実確定の土台とはならない。
原告は、資本関係により、現金を貸与するか生産手段を購入して労働者に貸与し、労働を疎外して疎外した労働を資本に転嫁する過程を法律行為によって認めさせることに成功することを余儀なくされているのであるが、現実に成功していない。預け入れの実体があって債権の存在があって貸倒れの問題提起の基礎となる。
預け入れの事実はあるが、出店権は取得できていないが、預け入れた金は金融資本との資本関係の存在から回収するしないに意思はなく、受け入れた側においては返済するしないに意思はない。
回収の努力の有無は、事実確定の土台とはならない。原告は現金商品の引渡しはしても権利の引渡しを受けていない。
保証金を受け入れた経済実体に、現金があるか、生産手段を購入し、架空資本、固定資本があって担保名目で現実に金融資本に所有されることにより投融資を受けて、労働を疎外し、疎外した労働を資本に転嫁するという過程をとらざるを得ない資本関係、経済関係があれば、保証金を受け入れた経済実体に返済手段がないということはできない。