[事実関係]

Xは、鉄道事業を主たる業務とする法人小田急電鉄において使用人として、案内所で特急の予約受付や国内旅行業務に従事していた。

Xは、平成12年11月、痴漢行為を再犯して、翌年2月に懲役4月執行猶予3年の有罪判決を受けた。小田急電鉄は、平成12年12月、Xを同社鉄道係員懲戒規定7条5号により、懲戒解雇するとともに、「懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分の決定以前に退職するものには、原則として、退職金は支給しない」と定める退職金支給規則4条に基づき退職金を支給しなかった。

原審は、懲戒手続の瑕疵、事案の程度から懲戒解雇は不相当である、退職金不支給処分を無効とする、Xの主張をいずれも認容せず、棄却した。

退職金不支給処分については、

「本件行為は、私生活上の行為ではあっても、常習性すら窺われる極めて破廉恥な犯情悪質な痴漢行為であり、また、痴漢行為自体は小田急電鉄が撲滅運動に取り組んでおり、その業務に関連性がないとはいえないのであって、小田急電鉄の名誉、信用その他の社会的評価の低下毀損につながるおそれがある行為と言わざるを得ないから、Xが小田急電鉄において、退社までの間、20年間にわたって普段はまじめに勤務しており、Xが退職によって社会的制裁を受けている事実を斟酌しても、本件行為は、Xのぞれまでの勤続の労を抹消してしまうほどの不信行為」と言わざるを得ないとした(東京地判平成14年11月15日)。

高裁は、「本件懲戒解雇がその手続に瑕疵がなく、また、処分の内容としても相当な範囲を逸脱したものといえず、有効なものであることは、原判決事実及び理由欄記載のとおりである。

退職金支給規定は、一方で、退職金が功労報償的な性質を有することに由来するものである。しかし、他法、退職金は賃金の後払い的な性格を有し、従業員の生活保障という意味合いも有するものである。

ことに、本件のように、退職金支給規則に基づき、給与及び勤続年数を基準として、支給条件が明確に規定されている場合には、その退職金は、賃金の後払い的な意味合いが強い。そして、その場合、従業員は、そのような退職金の受給を見込んで、それを前提にローンによる住宅の取得等を見込んで、それを前提にローンによる住宅の取得等の生活設計を立てている場合も多いと考えられる。それは必ずしも不合理な期待とはいえないのであるから、そのような期待を剥奪するには、相当の合理的理由が必要とされる。

退職金全額支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることがあることが必要である。

ことに、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的的損害を生じさせるなど、強度な背信性を有することが必要である。このような事情がないにもかかわらず、会社と直接関係のない非違行為を理由に、退職金の金額を不支給とすることは、経済的にみて過酷な処分というべきであり、不利益処分一般に要求される比例原則にも反する。退職金が功労報償的な性格を有するものであること、そして、その支給の可否については、会社の側に一定の合理的な裁量の余地があると考えられることからすれば、当該職務外の非違行為が強度な背信性を有するとまではいえない場合であっても、当該不信行為の具体的内容と被雇用者の勤労の功などの個別的事情に応じ、退職金の内、一定割合を支給すべきである。

本件条項は、このような趣旨を定めたものと解すべきであり、その限度で、合理性を持つと考えられる。本件行為及びXの過去の痴漢行為は、いずれも電車内での事件とはいえ、会社の業務自体とは関係なくなされた、Xの私生活上の行為である。報道等によって、社外にその事実が明らかにされたわけではなく、小田急電鉄の社会的評価や信用の低下や毀損が現実にあったわけではない。

Xが電鉄会社に勤務する社員として、痴漢行為のような乗客に迷惑を及ぼす行為をしてはならないという職務上のモラルがあることは前述のとおりである。しかし、それが雇用を継続を雇用するか否かの判断においてはともかく、賃金の後払い的な要素を含む退職金の支給、不支給の点について、決定的な影響があるとは認め難い。

小田急電鉄において過去に退職金の一部が支給された事例は、いずれも金銭の多寡はともかく、業務上取り扱う金銭の着服という会社に対する直接の背信行為である。それらの者が過去に処分歴がなく、いわゆる初犯であったという点を考慮しても、それが本件事案と対比して、背信性が経度であると言えるかは疑問が残る。Xの功労という面を検討しても、その20年余の勤務態度が非常に真面目であったこと、旅行業の取扱主任の資格を取得するなど自己の職務上の能力を高める努力をしていた様子も窺われる。

そうすると、本件については、本来支給されるべきである退職金の内、一定割合での支給されるべきである。その具体的割合については、本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去の小田急電鉄における割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割であるとするのが相当である」とした。

(東京高判平成15年12月11日)

[解説]

監獄、刑罰という手段により、労働、労働の疎外を産み出してきた。懲戒を行うまでの過程には、現実の労働が存在があった。

罰則の賦課には、生産手段たる肉体、肉体の土台たる経済の損害の実体があった場合に賦課された場合と生産手段たる肉体、肉体の土台たる経済への損害の実体がなく、資本が行政機関との生産関係を使用して、行為をフィクションし、当該行為について罪という価値属性を付与するという手段により、労働、労働の疎外を産み出してきた現実がある。紙幣発行権、準備金制度を所有しない経済実体が資本関係、生産関係から資本に協力し、マスターベーションを取得してきた。

労働者が退職を余儀なくされ、資本、生産手段を持たない労働者は失業すれば生活の土台を失うのである。

生産関係上、労働者は労働力再生産義務が課され、現実の労働については、労働の段階で支払わなければならず、退職まで資本、生産手段を持たない労働者は、労働力商品と現金商品と交換できなかったのであるから、資本に貸し出され支給が待たされていたのであるから、労働者は、資本を有し、労働がない金融資本とは経済関係が異なるから、利子を加算して疎外された労働についての賃金は全額支払わなければならない。

労働者は、資本関係、生産関係から退職せざるを得ないのであって、名目上の退職理由に関係なく、退職により職を失い生活の土台を失うから、現実の労働、生活を土台とした賠償を支給しなければならない。労働を再疎外して退職金を支給しない又は減額するということはできない。金銭の支給に価値属性は備わっていない。

資本は、退職金や年金を支給せず、支給額を減額することで留保した現金を投融資に回すことはできないのである。

退職金は恩典や特典ではない。支給は義務である。

期待や見込みは実体のない観念であるから、その有無に基づいて退職金の増減の土台とすることはできない。

住居は生活の手段であるから、その土台となる現金収入が生産関係上支給されなければならず、資本、生産手段を持たないことから、銀行、担保名目で取り上げた不動産を所有する国際金融資本からの投融資を受けざるを得なくされたことによる債務や賃借債務を負わされない義務があり、資本が投融資して、資本に住宅取得による債務、賃借債務を立て替えられたことによる債務と退職は相殺することができない。

労働者は、生産関係に基づいて労働をして資本家に損害をもたらしたのであるから、労働者に損害を負担させることができない。

資本の経済利益のみに基づき、労働者の経済、生活を疎外した実体のないモラルを土台として、生産手段の貸与、労働の疎外、疎外された労働の転嫁の過程は行い得ない。

痴漢行為の禁止は、実体のないモラルの問題ではなく経済関係の問題である。労働者は、労働力を、国際金融資本との資本関係から売らざるを得ず、生活の土台となる経済に基づいて労働できず、生産関係に基づいて労働せざるを得ず、意思はない。

労働力商品に投融資をした法人の資本家が、資本関係、資本関係を土台とした生産関係に基づき、労働者に生産手段を貸与して資本に代わって、労働力を提供させ、労働を疎外して、疎外した労働を資本に転嫁しているのであるから、生産過程その他全てによる資本の損害、他の経済実体に与えた損害を、労働力商品を購入した資本は賠償しなければらない。賠償義務を課して退職金と相殺することはできない。

名誉や信用や評価やおそれは実体のない観念であり、それを土台に現金商品との交換が減じて現金留保に損害が実現することはない。

資本の利益が労働者の生活より優先するということはできないのである。司法は、国際資本の紙幣発行権、準備金制度の所有関係を土台とした法律の趣旨と交渉し、現実の労働、疎外された労働、労働者が資本、生産手段を有しないことを疎外して、退職の減額を認めてしまっている。

その上で、罪の属性が付与された行為に行為、加害の実体があったかどうかにより、被害の実体があれば、加害が資本関係、生産関係を土台とせず、生活の土台となる経済に基づく場合には、実体のない観念たる意思に関係なく、被害者に加害者が賠償することになる。

全ての経済関係には効果がない。現実に取引があって、資本関係の所有、投融資を受けざるを得ないことを余儀なくされたことを土台に法律行為により実体あるものとして社会に認めさせることに成功する。

退職金が支給されない規定の適用は取り消されることになるであろう。

本件行為には価値属性は備わっていない。給与には本来という価値属性は備わっていない。過去の事例と比較することは、事実関係の全体化を疎外することである。資本は、退職金を現実の労働に基づいて全額支払う義務がある。