[事実関係]
パスコの社員であったXは、松下とパスコの業務請負契約に基づき、パスコの工場でプラズマディスプレイパネル(PDP)の製造業務の封着工程に従事していた。
Xが松下に対し、直接雇用を申し入れ、労働組合を通じての働きかけや大阪労働局への労働者派遣法違反の申告を行い、松下は業務請負から撤退した。
パスコは松下とは別の派遣法人から派遣労働者を受入れてPDPの製造を続けた。
Xは、パスコを退職し、松下に対し直接雇用を申し入れ続け、松下はXをリペア作業を行う期間工として約6か月間直接雇用することを決定し、雇用契約書が交わされた。
その後上記雇用契約の期間が経過し、松下は、Xとの雇用関係は終了したとしてそれ以降の就労を拒否した。
裁判所は、
「雇用契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人に委ねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。
そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1項にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。
そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。
しかるところ、前記事実関係等によれば、Xは、平成16年1月20日から同17年7月20日までの間、パスコと雇用契約を締結し、これを前提としてパスコから本件工場に派遣され、松下の従業員から具体的な指揮命令を受けて封着工程における作業に従事していたというのであるから、パスコによって松下に派遣されていた派遣労働者の地位にあったということができる。
そして、松下は、上記派遣が労働者派遣として適法であることを何ら具体的に主張立証しないのであるから、これは労働者派遣法の規定に違反していたと言わざるを得ない。
しかしながら、労働者派遣法の趣旨及び取締法規としての性質、更には、派遣労働者を保護する必要性等に鑑みれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情がない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。
そして、Xとパスコとの間の雇用契約を無効と解すべき特段の事情は窺われないから、上記の間、両者間の雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。
次に、松下とXとの法律関係についてみると、前記法律関係によれば、松下は、パスコによるXの採用には関与していたとは認められないというのであり、Xがパスコから支給を受けていた給与等の額を松下が事実上決定していたというような事情もうかがわれず、かえって、パスコは、Xに本件工場のデバイス部門から他の部門に移るように打診するなど、配置を含むXの具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって、前記事実関係等に現れたその他の事情を総合しても、平成17年7月20日までの間に松下とXの間において雇用契約が黙示的に成立していたものと評価することはできない。
したがって、松下とXとの間の雇用契約は、本件契約書が取り交わされた同年8月19日以降に成立したものと認めるほかない。前記事実関係等によれば、上記雇用解約は原則として平成18年1月31日をもって満了するとの合意が成立していたものと認められる。
前記事実関係等によれば、パスコとXの間の雇用契約は一度も更新されていない上、上記契約の更新を拒絶するパスコの意図はその締結前からX及び本件組合に対しても客観的に明らかにされていたということができる。
そうすると、上記契約はあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたとはいえないことはもよより、Xにおいてその期間満了後も合理性が認められる場合にも当たらないものというべきである。
前記事実関係等によれば、パスコは、平成14年3月以降は行っていなかったリペア作業をあえてXのみに行わせたものであり、このことからすれば、大阪労働局への申告に対する報復等の動機によってXにこれを命じたものと推認するのが相当であるとした原審の判断は正当として是認できる。
これに加えて、前記事実関係に照らすと、Xの雇止めに至るパスコの行為も、上記申告以降の事実の推移を全体としてみれば上記申告に起因する不利益な取扱いと評価せざるを得ないから、上記行為がXに対する不法行為に当たるとした原審の判断も、結論において是認することができる」とした(最判平成21年12月18日)。
[解説]
客観という観念は実体のない観念であり、Xに契約更新を明らかにしていたかどうかは事実確定の土台とはならない。
事実関係の土台となるのは、現実の生産関係、労働である。現実には、有期契約社員であっても、資本と生産関係があるから、労働過程に時間という属性を付与したことろの契約期間の定めのない正社員と異ならない。Xは自由意思で松下を辞めたのではなく、自由意思で松下を選んだのではない。
パスコ、Xが国際資本との資本関係上、生産関係上、Xは、パスコを辞めざるを得ず、松下を選択せざるを得なかった。
有期契約の労働者は、松下の資本の国際金融資本に課された現金留保義務から、生産関係上、資本関係上解雇に応じざるを得ない。
労働者は資本、生産手段を持たない。資本は、経済情勢の変動の見通しが不確実であるという実体のない観念を主張する。
資本の内部留保に応じて資本の内部留保が優先されて解雇することはできない。労働基準法6条により、国際金融資本は、所有法人が国際金融資本に課された現金留保義務から、法律に基づく場合は、業として他人の就業に介入することを認めさせることに成功してしまっている。
派遣事業であろうと、全ての法人、経済実体は、資本関係から法律行為を媒介に法人として実体あるものと社会に認めさせることに成功することを余儀なくされている。現実には派遣元による中間搾取である。
中間搾取を行うことにより、最も労働を疎外され、搾取されるのは労働者である。派遣先においては、生産手段を貸与しなくなったことによる労働力の廃棄である。
中間搾取の土台となる労働者の疎外された労働がなくなれば、派遣元は労働を疎外して疎外した労働を資本に転嫁することができないから、派遣先が派遣契約を解除した場合、派遣元において解雇されている。
有期雇用の場合はやむを得ない場合事由がない限り契約期間が終了するまで退職できない。セクハラやパワハラを甘受せざるを得なくさせられている。
契約期間の定めのない労働契約いおいては、退職する二週間前に予告すれば退職できる。労働者が多様な働きを望んでいて、有期契約を選択しているというのは資本の側の方便であり、自由意思に基づく自己責任として労働者に責任を負わせている。有期労働契約を重ねた場合、現実には期間の定めのない契約と異ならず、更新を重ねた後の更新拒否は解雇に等しい。
資本の側が労働基準法16条の解雇制限をまぬがれている。不更新条項を契約書に入れて労働者に署名させている。
労働者は資本、生産手段を持たず、生産関係からこれに応じざるを得ないにもかかわらず、労働者の同意があったとして、恰も労働者に実体のない観念たる意思があったかのように主張する。
契約更新の期待は実体のない観念であるから契約期間のない労働契約と同じであるという事実確定の土台とはならない。
現実には有期契約も契約期間のない契約と生産関係の存在は異ならないから、16条の解雇制限が適用されると解する義務がある。
請負契約を他の法人と契約し、受注した法人は、労働力を発注元に供給するだけで、生産手段の貸与して労働を疎外し、疎外した労働を発注元の資本に転嫁するという過程を労働者に課すのが発注元で、受注法人は、既に疎外された労働を再疎外して受注元の資本に転嫁することにより手数料を懐に入れる。
発注元松下と受注法人パスコの契約は、労働基準法、職業安定法が禁じる労働力供給契約であろう。
労働者は、給与から実体のないリスクを労働に付与されたり、生産関係上、資本が負担して貸与する義務がある生産手段について、損害賠償義務、賃料支払義務を課して、給与から天引されたり、資本の使用人たる工作員の給与を負担させられ、労働者が給与から天引きされた金員は、資本が行う投融資に回されているのである。
偽装請負により、資本は、派遣の期間の制限を免れている。
資本は業務の専門性という属性を労働に付与し、現実にはそれを専門とする経済実体以外でも行っているパソコン入力などにも偽装請負は行われ、事故の実績がある現場にそれを専門としない者を派遣している。
派遣禁止業務に派遣した場合は、派遣先が労働者に雇用を申し込んだという実体のない観念を用いて逃げ口上を創造していた。
改定法は、派遣先が違法派遣であることを知って派遣労働者を受入れた場合には派遣先が雇用を申し込んだものとみなされ、労働者が雇用終了、解雇といったことによる違法行為の終了の後一年以内に承諾すれば、派遣先との間で労働契約が成立するとしている。
改定法は、違法派遣であることを知っているという実体のない観念、故意、過失という実体のない観念を要件としており、承諾という実体のない観念を用いて、生産関係上、資本関係上、労働せざるを得ず、生活の土台となる経済に基づいて労働することのできない、意思のない労働者に意思が実体あるかのように承諾を要件として資本の逃げ口上を認めているのである。
直接雇用の条件は、派遣労働契約と同一とされ、派遣契約が有期契約であった場合には、派遣先との契約も有期となる。
派遣先が事前面接により、派遣労働者を選択して、搾取の土台を選択することが禁止されている。意図は実体のない観念であるから、事実確定の土台とはならない。
司法は、国際金融資本が資本関係から規定した派遣法の趣旨と交渉し、取締法規に価値属性は備わっていいないにもかかわらず、雇用契約は無効でないとした。
全ての法律行為に効果はない。まず、法律行為によって、実体があると社会に認めさせるか否かに成功するかしないかである。
パスコがした法律行為は実体はあるが、現実の疎外された労働、資本を持たず、生産手段を持たない労働者は失業して生活できなくなったという現実から、雇い止めを社会に認めさせることはできないと解される。
報復等の動機は実体の観念であるから事実確定の土台とはならず、経済関係、生産、労働の土台のない労働に生産関係上応じざるを得なくさせ、労働を疎外し疎外した労働を資本に転嫁することによる、資本を儲けさせるだけの労働を行わせたことが、労働者に不利益を与えたのである。