[事実関係]

原告Xは、昭和47年4月にYに入社し、同期入社の訴外Aと民青同の斑を結成したいたが、Aは社員寮に戻らず失踪した。無断欠勤を知った人事課主任らはAの父と面談し寮、実家の部屋を調査したところ、XのA宅の訪問の事実を把握し、Xの氏名を記載したノート、民青同加盟等関係資料を見つけ、連日Xへの事情聴取を行った。

人事部長らは、Xに対して当初A宅を訪問したことを隠したこと、Aの父に口止め工作を試みたことは懲戒に値すると指摘し、失踪に関係していないこと、他に交友を秘匿していないこと、内容に偽りがあれば身を引くなどの内容の詫び欠きを提出させた。その後もAは所在不明であり、Y社応接室において、人事部長らは、民青関係資料を手がかりが出てこないか見るように申し向けたところ、Xは退職をすること、Aの失踪とは関係ないことを申し出た。

人事部長は民青同盟員であることを理由に退職の必要はないと慰留したが、Xは、退職願の用紙を受け取り必要事項を記入して署名拇印をした上で提出し、人事部長は受け取った。身分証明書、職章等は返却したが、社内預金や労組、生協等の脱退手続は完了しなかった。翌始業前、Xは、人事部長に対し退職願を撤回することを申し出たが、拒絶された。

第一審は、Xの退職の意思表示には単にAと民青活動を共にしたことの秘匿が詫び書きにいう偽りに該当するから退職せざるを得ないとの考えに基づきなされるなど動機の錯誤(民95条)があるから無効であるとした(名古屋地判昭和52年11月14日)。

第2審は、退職願の提出は詫び書きへの誓約違反が動機ではなく民青同盟員であることがYに知られた心理的衝撃と将来の希望喪失のためであって動機の錯誤ではなく、Yの承諾があれば即時に雇用関係から離脱する意図であったから合意解約の申し入れであること、しかし、これに対する辞令交付等明示の承諾の意思表示について何ら主張立証がなく、また4者総合評価による入社決定と対比すると人事部長の個人の意思のみでYの承諾があったとは解し得ず、承諾の意思表示があるまでは信義に反する特段の事情がない限り被用者は自由に合意解約の申入れを撤回できると判示した(名古屋高判昭和56年11月30日)。

最高裁は、

「Xの本件退職願提出はYへの雇用契約の合意解約の申込みであるが人事部長のにより受理はYの承諾とは解されないとの原審の認定判断は、以下の検討に鑑み経験則ないし採証法則に反し、ひいて審理不尽、理由不備の違法がある。

①私企業における労働者からの雇用契約の合意解約申込に対する使用者の意思表示は、就業規則等に特段の定めがない限り、辞令書の交付等一定の方式によらなければならないというものではない。

原審は、Yにおいて人事部長のほか副部長等4名の総合評価により決定しているとの事実との対比から、人事管理の最高責任者である人事部長個人の退職願の即時受理はYの承諾の意思表示とは解されないと認定判断している。

しかし、労働者の退職願につき、採用の場合と異ならせ、採用後の当該労働者の能力、人物、実績等について掌握しうる立場にある人事部長に退職承認についての利害損失を判断させ、単独でこれを決定する権限を与えることとすることも経験則上何ら不合理ではない。

②原審では人事部長の意思のみによりYの承諾の意思のみによりYの承諾の意思表示され得るかにつき、十分な審理がなされていない。

③却って、原判決挙げ示の証拠によれば、別件の退職文書記載欄において人事部長の決裁をもって最終のものとしており、またYの上告理由書添付の職務権限規程によれば、課次長待遇以上の者を除き人事部長の固有の権限として退職願い承認を単独決定し得ることが窺える」とした(最判昭和62年9月18日)。

[解説]

Xは、生産関係を土台に退職せざるを得なくなった。労働者は、法人の資本と国際金融資本との資本関係を土台とする現金留保義務から、解雇を受け容れざるを得ない。

資本、生産手段を有しないこと、既存の生産関係から、労働を離脱することに意思、意図はない。意思は実体のない観念である。

効果意思は実体関係実現、確定の土台となる現実の経済関係を疎外し、実体関係の実現、確定を宗教学を拠り所にすることである。

心理的衝撃、将来の希望の喪失、動機、錯誤は実体のない観念である。動機の錯誤、実体のない観念からは事実確定はできない。

法人は資本の所有である。労働者は、役員、部課長、主任とではなく、資本と生産関係にある。資本関係、生産関係から、使用人たる役員、人事部長に意思はない。役員、人事部長の承諾を得て生産関係があった法人を退職する必要はない。

評価は実体のない観念である。入社は、役員の意思に基づくのではなく、資本が、応募した経済実体を搾取の土台とすることができる土台があるか否かに基づいて決定される。

人事部長の生産関係の終了、退職の確定させる権限の有無は、司法は経験則、理論に基づいて行うとしている。

理論は労働者の生活の土台たる経済を疎外し、資本の現金留保に基づいて形成されている。労働者は、資本、生産手段を持たず、失業すると、生活の土台となる現金を産みだすことができない。

生産はイデオロギーの基づいて行うものであるから、イデオロギーを基に解雇することはできない。生存義務、生産関係から、退職の撤回をした労働者にヒアリングをして、事実関係を全体化して解雇を回避する義務がある。退職の撤回は実体のない観念たる信義の問題ではない。

退職は、退職願をはじめとする、生産関係の終了を土台とする届出、手続という法律行為を媒介に実体あるものとして社会に認めさせるのであって、労働者、資本の意思表示により実体あるものとなるのではない。