[事実関係]
原告Xは、同じ職場に勤務する疎外Fと交際を重ねていたが、FがXに薬を服用させて身体の自由を奪い、暴行を加えたことから、XがFにその非を迫り、償いを求めた。弁護士が立会いのもと、FがXに200万円を贈与すること、金員を他から金融できない場合は、退職手当のうちから200万円を贈与することを約した。
Fは、金員を他から借り入れることができなかった、使用者であるY公社に退職金債権をXの弁護士に譲渡した旨を通知した。
Fは、その後、Yにこの取消しを通知し、退職手当の支払を請求したことから、Yは、Fに退職手当260万円を支払った。
そこで、Xは、弁護士から債権譲渡を受けて、Yに対し、Fの退職金を支払いを求める訴えを提起した。
裁判所は、
「国家公務員等退職手当法に基づき支給される一般の退職手当は、同法所定の国家公務員又は公社の職員が退職した場合に、その勤続を報償する趣旨で支給するものであって、必ずしもその経済的性格が給与の後払の趣旨のみを有するものではないと解されるが、退職者に対してこれを支給するかどうか、また、その支給額その他の支払条件は全て法定されていて国又は公社に裁量の余地はなく、退職した国家公務員等に同法8条に定める欠格事由のない限り、法定の基準に従って一律に支給されなければならない性質のものであるから、その法律上の性質は労働基準法11条にいう労働の対償としての賃金に該当し、したがって、退職者に対する支払いについては、その性質の許すかぎり、同法24条1項本文の規定が適用ないし準用されるものと解するのが相当である。
ところで、退職手当法による退職手当の給付を受ける権利を他に譲渡した場合に譲渡自体を無効と解すべき根拠はないけれども、労働基準法24条1項が『賃金は直接労働者に支払われなければならない。』旨を定めてその履行を強制している趣旨に徴すれば、労働者が賃金の支払いを受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払については、なお、同条が適用され、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがって、右賃金債権の譲受人は、自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないものと解するのが相当である。
そして、退職手当法による退職手当もまた右にいう退職手当も右にいう賃金に該当し、右の直接払いの原則の適用があると解する以上、退職手当の支給前にその受給権が他に適法に譲渡された場合においても、国または公社はなお退職者に直接これを支払わなければならず、したがって、その譲受人から国又は公社に対しその支払いを求めることは許されないといわなければならない。
したがって、本件退職手当金の支払いについては、労働基準法24条1項本文の規定が適用される結果、上告人において、訴外FのYに対する退職手当の受給権を譲り受けたとしても、Yに対しその支払いを求めることは許されないとした原審の判断は、結論において正当である」とした(最判昭和43年3月12日)。
[解説]
賃金債権を譲渡できるとすると、金融資本が、労働者において、土台となる経済関係がなく、投融資を行い、資本関係、生産関係を土台に労働者から賃金を収奪することができることになるし、現実に行われて生きた。法は、国際金融資本の資本関係を土台に、労働者の経済を疎外して創設されている。労働者は資本、生産手段を有しないから、資本より資本関係、生産関係より賃金を収奪されると生活できないのである。退職手当には価値属性は備わっていない。労働者は資本、生産手段を持たないから、現実の労働の段階で支給されていなければならないところ、法人の資本の現金留保義務、回収義務に応じて規定された段階まで資本に貸し付けられている。公務員は、国際金融資本と生産関係がある。国際金融資本に投融資され、国際金融資本の使用人たる機関にすぎない国家に退職手当を規定することはできない。司法は、労働者の経済を疎外し、資本関係を土台とした現金留保義務、回収義務に基づいた法の趣旨と交渉して事実確定せざるを得なくさせられている。Fを経由せずに直接Fの勤める法人から金員を受取ることはできず、Fに法人から金員が渡ってから、Fから賠償金が支払われることになる。