[事実関係]

被告Y法人に勤務していた原告Xは、昭和41年8月29日Yとの間で雇用契約を同月末日限りで解約する旨約したが、Yの就業規則の規定により算出すれば、Xが退職時に受領しうる退職金は408万2,000円であった。

Xは、同解約に際し、「XはYに対し、いかなる性質の請求権も有しないことを確認する」旨の記載のある書面に署名してYに差し入れた。

Xは、就業規則に基づき、退職金408万円余とその遅延損害金の支払いを求めて訴訟を提起した。

第一審は、Xの主張を認容したが、

原審は、「Xは前記書面への署名により退職金債権放棄の意思表示をしたもので、①その意思表示に要素の錯誤があったとは解し得ず、また、②労働者の完全な自由意思による相殺は禁止すべき根拠に乏しく、労働者が退職に際してなした相殺の合意は労働者の抑圧された意思によるとは考えられないから、本件退職金債権の放棄がXのYに対する損害賠償債務との相殺の効果を得る趣旨でなされたものとしても、合意による相殺にして無効でない以上、その放棄も同様に無効ではなく、労働基準法24条1項違反の問題を生じない」とした(東京高判昭和44年8月21日)。

最高裁は、

「労働基準法24条1項の賃金全額払いの原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものであるから、本件のように、労働者たるXが退職に際し自ら賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、右全額払いの原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものとまで解することはできない」とし、「右全額払いの原則の趣旨とするところなどに鑑みれば、右意思表示の効力を肯定するには、それがXの自由な意思に基づくものであることが明確でなければならない」として、

「Xは、退職前Yの西日本における総責任者の地位にあったものであり、しかも、Yには、Xが退職後Yの一部門と競争関係にある他の会社に就職することが判明しており、さらにYは、Xの在職中におけるX及びその部下の旅費等経費の使用につき書面上つじつまの合わない点から幾多の疑惑を抱いていたので、右疑惑にかかる損害の一部を補填する趣旨で、YがXに対し原判示の書面に署名を求めたところ、これに応じて、Xが右書面に署名した」とし、

「諸事情に照らすと、右意思表示がXの自由意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在していたものということができるから、右意思表示の効力は、これを肯定して差し支えない」とした。

最高裁の反対意見は、

「本件で問題となったような、相殺の合意または使用者からの要請ないし働きかけによる放棄については、使用者の勢威によって抑圧されたものではなく、労働者の真に自由なる意思に出た場合にかぎってその効力が認められるべき」とし、

「特に放棄の場合は、相殺と異なり、労働者にとって消滅させるべき債務がなく、失うのみで得るところがない。放棄が使用者からの抑圧を受けたものではなく、真に自由な意思によるものであると認めるにあたっては、それによって、当該労働者がいかなる事実上、法律上の利益を得たものであるかなど、労働者がその権利を放棄するにつき合理的な事情の存在したことが明らかにしなければなら」ないとした(最判昭和48年1月19日)。

[解説]

司法は、意思は実体のない観念である。意思表示の有無を客観という観念から事実確定するとしているのである。

生産関係上、労働者に自由意思は有り得ず、意思に基づいて署名することは有り得ない。資本関係から課せられた生存して搾取の土台を再生産する義務に応じるざるを得ないから、賃金の受取を放棄することができない。

資本が資本関係、生産関係を土台に署名に応じざるを得なくさせたものである。 労働者は資本、生産手段を有しないから、労働者の署名、法律行為に関係なく、賃金は全額支払われなければならない。

労働の疎外疎外された労働の資本の転嫁の過程の土台は、国際金融資本と紙幣発行権を有しない全ての法人の資本との資本関係であり、現実の労働があった段階で支払義務がある、疎外された労働について、労働者は金融資本と異なり、現実の労働という支給の土台があり、資本関係から現金を留保せざるを得ず、資本、生産手段を持たず生産手段を貸与されており、労働力商品を売らざるを得ないのであるから、資本は労働者に疎外された労働の賃金を利息をつけて退職段階に支払わなければならない。

賃金の全額受取を放棄する労使協定が、労働者の生活、生活の土台の経済に適用されない。司法は、宗教学に基づいて、相殺することにより、現象が根拠なく自然発生的に影響を及ぼしたかのように言うが、労働者は生活の土台となる経済に基づいて労働することができず、資本関係、生産関係に基づいて労働せざるを得ず、意思はないから、法人の資本の損害賠償をする義務がない。

退職した法人の資本は、引き続き労働する労働者と生産関係にあり、退職した労働者は新たに入社した法人の資本との生産関係に基づいて労働せざるを得ない。退職により退職した法人の資本の損害を賠償する義務はない。

賃金受取の放棄、債務との相殺は労働者に何ら利益を産まず、疎外された労働の再疎外である。生産関係上、現実の労働について、疎外することなく、資本の内部留保に関係なく、賃金は支払われなければならない。

疎外された労働をして資本を儲けさせる義務はない。錯誤は実体のない観念であり、労働者の錯誤があった旨の主張に関係なく、賃金は全額支払わなければならない。

疑惑、趣旨は実体のない観念であり、労働者は労働者の生活の土台である経済に基づいて法人の資本家の金銭を使用できず、使用した金銭は資本家との生産関係に基づいている。

司法は、資本が資本関係に基づき法を制定する権利を取得し、国際金融資本の源泉から課せられた現金留保義務から、労働者の生活、生活の土台となる経済を疎外した法律の趣旨と交渉して、現実の生産関係を疎外しているのである。