労働基準法22条1項は、退職する労働者が請求した場合には、使用者は、当該労働者の使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、及び退職の事由(退職事由が解雇の場合にはその理由)について記載した証明書を遅滞なく交付しなければならないとされる。
証明書の遅滞の有無については、「交付請求を受けた学校側における事務の繁閑、資料の整備等の諸事情、並びに請求者側におけるその使用目的及び期限並びにこれらの事項の明記の有無などの諸事情を衡量しつつ、社会通念に従って判断すべき」であり、「何らその具体的使用目的及び使用期限等を明示しなかった」場合には、「当該証明書を一定期日までに使用すべき必要性が明らかではないのであるから、特に可及的速やかにこれを作成交付しなくても、相当期間内に請求者に対し発行、交付すれば遅滞があったものとは言い難い」とする裁判例がある(東京地判昭和41年9月28日)。
資本、生産手段を持たず、労働力を売らざるを得ないのであるから、資本の側の資本関係、生産関係、経済関係によって遅延することがあってはならないと解される。
使途を述べる義務はなく、労働者のいう使用目的に関係なく作成交付されなければならない。社会通念は経済を土台に形成されるから、社会通念により判断ということは、資本の利益に立って規定するということである。
離職票の手続きをハローワークで済ませて法律上の義務を果たしたとして、使用人を使用して、退職者に離職票を送らせない資本家がいる。生産関係が存在していたことから、退職者からは請求し得ないことがある。
このような場合、ハローワークは、法人の資本家が離職の手続きが行ったか否かを教える義務がある。資本の利益、営業の秘密が優先されるようなことがあってはならないと解される。ハローワークは、離職票を作成、交付する義務がある。
退職の証明、離職票は、退職者が請求したしないにかかわりなく、交付されなければならない。退職の事由の内、解雇理由は、資本、生産手段を持たず、労働力を売らざるを得ず、失業すれば生活の土台を失うという労働者の現実からすれば、経済関係上、資本関係上、生産関係上の事実関係を疎外することなく全体化しなければならず、配当の支払をやめる、架空資本の購入をしない、配転をはじめ、全ての手段を尽さなければならず、資本との資本関係、経済関係のみに基づいて、恣意的に解雇することがあってはならないから、労働者の請求の有る無しに関係なく、解雇予告の段階までに、付記することが義務付けられている。
退職者が退職や解雇をめぐる不服の申し立てができないことからも解雇理由の記載は義務づけられる。22条3項は、証明書には労働者の請求した事項のみ記載し、労働者の請求しない事項は法定事項であっても記載してはならないことを定める。
22条4項は、労働者の就業を妨げることを目的としたブラックリスト等を禁止する。「予め第三者と謀り」とは、事前に第三者と申合わせているという意味であり、そのような申合わせに基づかない具体的照会に対して回答することは、本条違反とはならないとされる(労基局、労働基準法(上)335頁)。
聴聞とその回答及びその理由が労働者の公開にされたものでなければ、資本の側のみの利益に貢献し、労働者の経済、生活が疎外されたものとなるであろう。
「就業を妨げることを目的として」は、使用者が積極的に就業妨害の意図を持っている場合だけでなく、当該企業が属する産業の健全化のためにとった措置であっても、その通信が特定の労働者の就業を妨害する結果を導くことを認識している場合はこれに含まれるとする(労基局、労働基準法(上)334頁)。
意図や目的、「健全化のため」、「結果を導くことを認識」は実体のない観念であり、資本の側に逃げ口上を与えることになる。
労働者が就業を妨害されていることだけで違法ということになると解される。禁止される通信の内容は、「労働者の国籍、信条、社会的身分若しくは労働組合運動に関するもの」をいうとし、本項が掲げる事項は、限定列挙であって例示ではない(昭和22.12.15基発502号)とする。
限定列挙と解することは、事実確定の全体化、問題提起の全体化を放棄することとなり、資本の側の経済とそれを土台にした法律の趣旨とのみ交渉することとなり、既に疎外された労働者の経済、生活を重ねて疎外することなる。
証明書には秘密の記号を記載することが禁止されている。
秘密の記号の記入は3項にも該当するが、秘密の記号の記入は結果的にブラックリストの回覧などと同様の弊害を生ずることから、罰せられる(119条1項)。
秘密の記号は限定されないが、予め第三者と謀り、かつ労働者の就業を妨げる目的と法は規定する。資本の側の経済のみに基づき、労働者の経済、生活を疎外することになり、目的は実体のない観念であり、資本に逃げ口上を与えることとなるのである。