[事実関係]

 衣料品等の小売業を営む原告法人の昭和59年4月1日から昭和61年3月31日までの2事業年度の法人税について、税務署長は、原告法人が支払った同社役員に報酬として支払った金員を賞与に該当するとして損金算入を否認して更正処分を行った。

 第1審は、

「認定事実によれば、原告が本件各事業年度末に各1月ないし3月分の役員報酬の未払分として、原告主張の額を計上し、右各事業年度法人税確定申告及び修正申告の際、右未払金額を損金に算入したことが認められる。

前記未払計上された額は、それぞれ昭和60年5月及び昭和61年4月に一括して各役員に支給され、そのため右の月に支給額に限って他の月のそれを大幅に上回っており、右支給の時期、金額、回数及び各役員に対する報酬の支給状況に照らすと、右支給は経常性があるとは到底いえず、定期の給与を受けている役員に対する臨時的な給与というべきであるから、役員賞与に該当するというべきであって、役員報酬の未払金ということはできない。

原告は、取締役会での役員報酬増額決定に基づいて本来は各翌年1月から報酬を増額支給すべきところ、比較的資金繰りの余裕ができる本件事業年度末に、増額改定差額を一括未払計上し、その後増額改定額を継続して支給しているから臨時的な給与ではないと主張するが、右取締役協議会において右増額決定がなされたことを認めるに足りる証拠はなく、仮に、原告主張の右事実が認められるとしても、本件各事業年度の各1月から増額支給せず、各3月末に一括計上し、これをそれぞれ昭和60年5月及び昭和61年4月に実際に支給した以上、その後増額改定額を継続して支給していても、右5月及び4月に支給された増額分はその月に限って支給された経常性のない臨時的な給与であるということができる。

さらに、原告は役員賞与と役員報酬の区別は、役員の業務執行や報酬性や対価性の有無等の実質からも判断すべきであると主張するが、法人税法は前示のように臨時的な給与か否かによって両者を区別しているのであるから、右主張も採用できない」とした(広島地判平成3年3月27日)。

 控訴審は、

「控訴人は、昭和60年5月及び同61年4月頃、それぞれ昭和59年度と同60年度の決算の利益をみて、本件役員報酬の増額分を各取締役に一括して支払ったのであり、右各増額分の報酬として各取締役に支払われた給与は、臨時的な給与と認めるのが相当であり、法人税法所定の役員賞与に当たると解される。

そして、増額した取締役報酬がその後支払い続けられていること及び従前年度途中に取締役報酬を増額したことがあったことは、前示認定・説示を妨げるものではない。仮に、労務対価性や利益分配性を考慮するとしても、昭和59年度及び同60年度に役員報酬の増額分として支払われてきた給与が実質的に損金として処理できる役員報酬であると認めることはできない。

すなわち、3度に及ぶ取締役の報酬の増額に伴い、取締役の職務内容が変化したことをうかがわせる様子はなく、増額分について職務遂行との対価があるとは直ちに認め難いし、また、右報酬の増額分は、各事業年度の利益を確認の上、節税を考えて損金として計上できる役員報酬の未払分として支払われたものと認められるのであるから、実質的には隠れた利益処分に当たると認めるのが相当である」とした(広島高判平成4年12月11日)。

[解説]

 支給現金に労務対価性、利益処分性という属性は備わっていない。定期、経常といった現象面から報酬か配当かが規定されるのではない。

現実の労働、労働の疎外による資本への転嫁の過程によって実現する。資本家は労働力商品に、資本関係から、生存を義務付け、搾取の土台の再生産を義務づけており、生産関係上、現実の労働を疎外することなく、法人の資本家の現金留保に関係なく、現実の労働に応じた給与を支払う義務がある。

法人に投下された現金を源泉に、生産手段を貸与して労働を疎外し、疎外された労働を資本に転嫁し、また、更に現金商品と交換することにより、現金留保を蓄積する。

法人の資本家の現金留保の内、労働の実体のない部分、生産関係に基づく役員の労働の疎外によるものでないとされた部分が、使用人の労働の疎外分であって、資本関係を土台に、生活の土台となる現金留保義務から役員賞与の名目で支払ったものであると、現実には当該現金支給は配当であって、この役員賞与名目の現金は、法人税課税前の現金留保から支払われるから、役員賞与名目の現金を受け取った側に所得課税をしても二重課税の問題は成立しない。

国際金融資本との関係から、法人も所得税法上の経済実体も、法律行為を媒介に、実体あるものと社会に認めさせることを余儀なくさせているから、資本家も法人も各々別個の経済実体であり、二重課税の問題は成立しない。

労働力商品は、労働を疎外され、役員賞与名目の金員の配当を含む利子、配当、法人税支払後の現金留保から生活費名目で現金商品と交換されるが、、経済段階に属性を付与したところの給与日まで、資本関係、生産関係から資本家に貸し付けることを余儀なくされ、支給された現金に価値属性が付与されて搾取の土台の再生産を余儀なくされ、疎外された労働は、国際金融資本へと集中するのである。

控訴審のいう節税を考えて損金として計上できるというのは実体のない観念である。