[事実関係]
原告法人は、被告税務署長に、法人税確定申告をしたところ、税務署長は、原告に、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
税務署長が更正処分等を行った理由は、、原告法人を退職した前取締役会長Sに原告法人が支払った役員退職給与6億487万円につき、これを全て損金として計上しているが、かかる退職給与中、4億2,523万6,000円は、法人税法36条所定の「不相当に高額な金額」に該当し、損金には計上できないというものであった。
裁判所は、旧法人税法36条、同法施行令72条について、
「右規定の趣旨は、役員に対する退職給与が利益処分の性格を持つことが多いため、一定の基準以下の部分は必要経費としてその損金算入を認めるが、一定の基準を超える部分は利益処分として損金算入を認めないというところにあると解される。
したがって、Sに対する退職給与の額が不相当に高額な部分を含むか否かを判断するためには、Sが原告法人の業務に従事した期間、その退職の事情を考慮するとともに、原告法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員給与の支給の状況等を比較して検討しなければならない。
そこで、税務署長の相当な退職給与の額の判断過程における平均功績倍率の合理性についてみるに、株式会社S研究所によれば、役員に対する退職給与の算出方式につき、右164社の内、133社の各算出方式は、当該役員の退職時の最終報酬月額を基礎とするものが59社(44.4パーセント)、当該役員が歴任した各役位毎の報酬月額を用いて役位別に退職給与額を累加して算出するものが36社(27.1パーセント)、役位別の一年当たりの定額を基礎額として退職給与額を算出するものが27社(20..3パーセント)、その他の算出方式が3社(9.1パーセント)であり、右133社の半数近くが当該退職役員の最終報酬月額を基準に退職給与額を算定しており、さらに、そのうち31社(52.5パーセント)が最終報酬月額と役員在任通算年数の積に一定の数値を乗じて退職給与額の相当性を判断するについて、原告と同業種、類似規模の法人を抽出し、その功績倍率を基準とする平均功績倍率法は、前記法令の規定の趣旨に合致し、合理性があるというべきである。
また、右に判示したところによれば、右類似法人における退職役員の勤続一年当たりの平均給与の額に当該役員勤続年数を乗じて相当な退職給与の額を算出する方式である一年当たり平均額法についても、合理的な算式と言わなければならない」とした(岡山地判平成元年8月9日)。
[解説]
退職給与に利益処分の属性は備わっていない。課税側は、判定法人における生産手段の貸与、労働疎外、資本への転嫁という過程、資本関係、経済関係の全体化をしたかという問題がある。生産手段の貸与、労働疎外、資本への転嫁をいう過程が明らかでない資本金額、売上金額、総資産額、純資産金額、所得金額を基に比準法人を選定し、退職給与に関する生産関係を全体化して問題提起の土台とせず、資本関係、経済関係の全体化を行って比準法人を選定していないという問題がある。
経済効果という文言を用いて、経済実体上の根拠を全体化せずに、比準法人に含めている。訴訟において、青色申告法人であること、不服申立提起中でないことという条件を加え、比準法人の一部を除外し、前記各数値を本件事業年度に近接する3年の平均値を用いて理由の差し替えを行っている。理由の差し替えを行うということは、事実確定の全体化、問題提起の全体化を行っていなかったということである。 退職給与の金額は、国際金融資本の資本関係を土台とした現金留保義務、回収義務に基づく、納税者の経済関係に基づかない法律の趣旨に合致しているかではなく、現実の労働に基づいて規定される生産関係上の義務がある。